仙人の願い

昔々、ある貧しい男が、道端の老人の物乞いに、自分のお昼のおにぎりを恵んでやった所
「これは有難い。願いを三つかなえてやろう。」
とその物乞いが言った。
貧しい男はどうせ嘘のなのだからと思い、
「たくさんの金が欲しい。」
と言った。
老人はおもむろにエイ!と呪文を唱えた。
すると、貧しい男の懐が急に重たくなった。
財布を取り出してみると今まで見たことない黄金が、財布一杯になっていた。
「次は?」
と老人は涼しい顔をして言った。
貧しい男は
「美人で、気立てがよく、何でもてきぱきこなせて金も稼げる、俺に惚れている女房が欲しい。」
と言った。
「条件が多いな。まあ、よしとしよう。」
老人は、またしてもエイ!と呪文を唱えた。
すると向こうの道から綺麗な女性が歩いてきて、貧しい男に向かって
「あなた。今日の晩御飯は何にしようかしら?」
と言った。
どうやら小汚い老人は、世に言う仙人らしく、貧しい男も今度ばかりは本当に信じた。
そして最後の願いを何にするかと考え始めた。
この手の話は良く聞いたことがある。
最後の願いで今までの願いが全て無駄になると言うオチではなかったか?
だとすると、最後は何にするべきなのか?
永遠の幸せを願うか?
いや待て。
そんなことは誰にも定義できやしない。
独身で貧乏な方が幸せと言う偉人だっていたはずだ。
で、あれば・・・・。
そうか!
と、男はひらめいた。
打ち出の小槌がなければ宝は出ない。じゃあ打ち出の小槌を作ってしまえば永遠に宝は出し放題。
要するに、俺が仙人になっちまえば済む話じゃないか?!
いや、ちょっと待て。
仙人といえばこの爺さん。いかにも小汚い。
じゃあ、今の俺の状態でままで仙人になれば良かろう。
そうして貧しい男は
「俺を、お前さんのような貧しく小汚い仙人ではなく、若々しく富める仙人にしてくれ。」
と言った。
すると、小汚い仙人は即座にエイ!と呪文を唱えて貧しい男を仙人にした。
あっけなく仙人になれたので、若者はとても喜んで老人に礼を言った。
「礼などとんでもない。ワシの方が礼を言いたいほどだ。」
と老人は長年の夢が叶ったかのうように、顔の深い皺をくしゃくしゃにして、満足げに微笑んだ。
不審に思った男が理由を聞くと老人は
「いやいや、不老不死と言うのは本当に疲れるもんだよ。いつ終わりが来るのだか・・・・永遠の命とは退屈の極みでしかなかった。」
と言った。
「なかった?」
「そう。仙人の決まりで、仙人を止められるのは代わりの仙人を見つけた場合に限られているからね。」
老人はそう言って立ち上がり、尻のホコリを手で払った。
「永遠の命と、何でも出来ることがそんなに不幸だとは思えないが?」
仙人になった男はさらに問いかけた。
「欲望というものはたかが知れているもので、1000年もすれば、毎日が昨日の繰り返しのように感じ出すのさ。
全てに飽きてしまう。すると俺のように道に座っているぐらいしかやることがなくなる。そんな姿を、人は瞑想と言うけどね。
そして、お前さんのようなものを見つけては、三つの願いを試してみるんだ。お前さん何人目だか・・・・2000までは数えたが、止めてしまった。
古今東西のこの手の話は、仙人が繰り返し繰り返し、脱仙人を試みた結果が流布しているだけの話なのさ。」
「信じられないが・・・・」
男は手に入れたばかりの宝物が、実は・・・・と言われても全くぴんとこなかった。
「まあ、楽しくやりなされ。」
そう言うと老人はよぼよぼと歩き出し、立ったまま見送る男の視線からやがて見えなくなった。
それから、仙人となった男は自分の思いのままの生活を始めた。
100年、200年・・・・。
男は夢のような暮らしを続けた。
そして・・・・・1000年後。
男は道端に仙人のような格好をして物乞いをしていた。
「こういう格好をしていないと、誰も恵んではくれないか・・・・。
恵んでくれなきゃ願いもかなえてやれず・・・・まあ格好なんざどうでもいいけど・・・・とにかく退屈だ。
一眠りしよう・・・・」
仙人になった男は一人ごちた。

仙人になりたい話は芥川龍之介「杜子春」が有名。
でも、仙人ってそんなになりたいか?
と子供心に思ったか?

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化粧

彼女はトイレで化粧を直している時に、その異変に気がついた。
化粧が全く落ちなくなっていたのだ。
それは、鏡の横の女性にも起きていた。
彼女は上塗りをして隠したが、帰宅後クレンジングを使った時にそれははっきりとした。
化粧が皮膚にはりつき、全く取れなくなっていたのだった。
それは、彼女だけの異変ではなく、着けたテレビのニュースで既に流れ出していた。
そのテレビで、全世界的に起こっている現象だと、彼女は知ることになった。
祭りの最中だったものは、ふざけた化粧がそのまま顔に張り付いていた。
反対に、綺麗に化粧していた女性は喜んだ。
化粧をほとんど行わない男性は傍観者となった。
科学者は、太陽の活動がある放射線を放出し、それが元で化粧が化学反応を起こし皮膚と同化してしまったのではないかと言った。
そして、皮膚が生まれ変わる過程で、化粧も消えて無くなるのでは?と楽観的観測を述べた。
しかし、数ヶ月経っても全く取れないことが分かると、全世界に失望の声と喜びの声が同時にあがった。
失望した者達は化粧の上塗りを試みたが、下地そのものが化粧の為どうしても上手く化粧は出来なかった。
企業は化粧の上から綺麗に化粧が出来る商品の開発を始めた。
しかし、化粧のベースが出来ていない上に化粧を乗せるのは難しくその開発は難航した。
男性の間では、女性の本当の顔についての議論が沸き起こった。
「化粧を含めて本当の顔である」と言う意見と「化粧が落ちた時が本当の顔である」
と言う議論は元々あったが、
「落ちなくなった化粧は、顔の一部と考えられる。よって化粧をした顔も本当の顔である。」
「いや、あくまで化粧なので、本当の顔はその下、又は化粧をする前の顔である。」
「いや、顔と化粧が同化した事により、本当の顔自体、顔の存在そのものがなくなったのだ。」
などの様々な意見が出た。
テレビのワイドショウでは哲学者、評論家、ファッションデザイナー達が気楽に様々な意見を戦わせた。
しかし、身分証明書等を扱う場所から、実社会に徐々に混乱が発生しだしていた。
入国審査時に、パンダの化粧をした人を通すか通さないのか?
証明書の顔と比較しようにも、化粧が判断の邪魔をしてしまい分からなくなっていた。
また、手にも化粧を施していた者は指紋もぼけてしまっていた。
そして、本人確認が必要なちょっとした手続きも滞る事態が発生しだした。
多くの役人達は全ての判断を停止せざるを得なくなった。
混乱はいよいよ政治的判断で決着する必要性が高まった。
国連に世界中の首脳、哲学者、知識人が集まり、1ヵ月議論に議論が重ねられた。
そして出された結論は
「本当の顔とは哲学的議論であり、判断は個々の自由とする。
であるので、大いに、好きに、どんだけでも、化粧をしてよろしい。
そのため、証明書の写真が役に立たなくなる事は仕方なく、今後一切の証明写真を廃止する。
つまり、人類は顔で、その人か否か、一度会ったか会っていないか等、判断をしない事に決定した。
これは今後、一切の裁判等の目撃証言が無効であることを意味する。
目で見る顔は、もはや個人を特定する為には使用できない。
個人を特定する為にはDNAしかなく、今後一切の証明にDNA情報を埋め込んだICチップを用いる事とする。
また、犯罪等の抑制の為、その携帯を義務とし(体に埋め込む方向で考え)、全てのゲートには自動でチップを読み取り記憶するセンサーを設置する。」
というものであった。
その頃、太陽では・・・・・
新たな核融合が起こり、人類のDNAに深刻な影響を与える放射線を放出し始めていた。

本当の顔とは?

クレンジングを探す

一口香(いっこっこう)由来 番外編

私は浦上天主堂を見た後、ガラス工芸 南蛮船とうい店を目指した。
中里橋を渡って、ちょっと曲がった道、サントス通りを行けば3百メートル足らずか?
暑い4月の日差しがくっきりと私の影を道路に映していた。
しばらく行くと聖具屋があり、日頃近くで見たこと無い神父さんの衣装などを見る。
と、右手に学校らしきものがあり、手に持った地図を良く見ると、どうやら間違ってアンジェラス通りに入ってしまったらしい。
地図を見ると、中里橋まで戻るよりも、対角線、長崎南山高・中の前を西へ横切った方が近いようだった。
問題は、どれだけ坂があるか、住宅街に入って迷わないか?であった。
少々喉も渇いてきた。相変わらず雲ひとつ無い好天だ。
三時前なので、何処かでお茶でも飲みたくなってきた。
目指す、南蛮船あたり、もしくは大橋駅付近、もしくは戻って長崎駅で水をと思い、
アンジェラス通りから路地に入った。
フェンス越しに学校の校庭らしきものが見え、長崎南山高かと思ったが、どうやら上野公園らしい。
と、すれば上野町のこの辺が現在地と言うわけか。
このまま歩いて、如己堂前でサントス通りに入ればなんとかいけそうだった。
一本左への道をやり過ごし、二本目を下ってみる。
綺麗な通りで、看板にもサントス通りと書いてある。
このまま真っ直ぐ行けばと、しばらく歩いていると、元祖の文字を掲げた菓子屋があった。
これも、何かの縁と暖簾をくぐってみる。
どうやら一口香のお店で「榎純正堂」らしい。
歩き観光なので、重たい饅頭をたくさん持つわけに行かず、一個だけでも今食べてみたいのだがと相談すると、一個ずつは売っていないらしい。
逡巡していると、店主が箱入りのものを開けようとしてくれるが、五個入りの袋を我が手に持つと意外に軽い。
これならばと思い、五個入りを購入。
ここで一つ食べても?と聞くと快く、お茶も提供してくれた。
「これは?!珍しい。」
饅頭と思って食べると中が空洞で、その空洞の内側に甘い蜜がある。
「ありがとうございます。こちらは出来立てになりますので、食べてみてください。風味が違うと思います。」
私は、香ばしいゴマの香をかぎながら、また一口ほおばった。
味は、京都の松風を連想させ、品のある甘さだ。
一口香の由来によれば、
~略~
今から百六十年程前、長崎港に向かっていた唐の船が濃霧のため
誤って茂木に上陸してしまいました。
当時、雑貨商だった弊堂初祖一右ェ門がみやげとして頂いた唐饅の製法を会得し、
工夫改良を加えて出来たものが一口香です。
~略~
とある。
なにやら、時のいたずらに遭ったような不思議な気持ちがした。
参考文献
榎純正堂の「一口香の由来」
を参考に、話を膨らませてみたものです。
一口香のように膨らんでいれば・・・・
小説仕立てのものも書いてみましたが、著作権で事前の許可が必要かと思い
エッセー風に書き換え。
榎純正堂さんの「一口香」は楽天になかったので
有限会社茂木一まる香本家を紹介。

長崎が誇る茂木びわを使ったスイーツ茂木一まる香本家一○香5個・茂木ビワゼリー5個

出島の出会い

髪は金色で、肌の色はまっ白。
身の丈は天井より高くて大きく、分からない言葉を喋る。
そんな話は、あっという間に街に広がり、町役人の知る所となった。
そんな事があってから、十数年。
長崎の出島に、一艘の帆船が一年がかりの航海の末たどり着いた。
外国人は直接長崎の街には入れず、出島内のみ出入りが許される。
沖に船を泊め、小船で上陸した。
そんな中に、ある青年がいた。ただの水夫のようで、特徴と言えば鼻の右にホクロがあるぐらいか。
「おお、これが日本か!」
建物は中国の物に似ているが、反りが少ない。男性は前髪を剃り、後ろ髪を結っている。
女性は長い髪を器用にまとめて上げている。
そして、日本人は執拗に頭を下げる。
これは挨拶で、握手や、キスと同じ意味を持つようだ。
同じ人間だが、随分と違う。また、途中寄航したどこの国とも違うある種の丁寧さがあるようだった。
彼は、日本人を見るなりそう思った。
出島の門をくぐって中に入ると、弓状に曲がった道の両側にずらりと木で作られた家々が建っている。
と、上ばかり見ていると、前を横切ろうとした女性が彼の足を踏んでしまい
「すみません」
と女は謝った。彼の靴には跡が残ったが、彼にも跡が残った。
その後女は彼の子供を身ごもった。
しかし、それとは知らず彼は帰国していった。
それから数百年。
現在、出島は博物館として生まれ変わり、多くの観光客が足を運んでいる。
そんな博物館に、日本人の夫婦が観光で訪れた。
彼らが、出島商館が再現された二階の畳の上を、当然靴を脱いで見学し
「へー。やっぱり土足で。」
と、当時の、靴のまま畳の上に立っている西洋人の絵を見ながら感心していると、
その横へ靴のままで歩いてくる西洋人がいた。
「あかんで。靴」
日本人の男が、指差しながら言うと
「オオ。」
と西洋人は慌てて、靴を脱いで手に持った。
言葉は通じないが、分かったようだった。
ふと、日本人の女が
「貴方と同じ場所に。」
と男の肩を叩き、西洋人の顔を見るように促した。
西洋人もそれと分かったのか自分の鼻の右のホクロを指してにっこりと笑った。
「同じところにホクロか・・・」
日本人の男はおもむろに手を差し伸べ握手を求めた。
それに答え、西洋人は丁寧にお辞儀を返した。
笑いがはじけた。
それから日本人の夫婦と西洋人は、手を振りながら一時の交流に別れを告げた。

長崎の旅情に誘われて書いてみました。
旅の疲れで筆は滑っています。
が、過去と現在が不思議に交差する長崎の街はとても楽しい空間です。
訪れてみては?

長崎市内のホテル PC版

長崎市内のホテル モバイル版

ホテルモントレ長崎

タイムマシン

不治の病にかかった私は、法律上タイムマシンの使用が認められた。
使用は一回のみとされ、飛び越える時間設定が問題だった。
早すぎれば、治療法がまだ開発されず無駄足となる。
遅すぎれば、その時代がどのような状況になっているか不明だし、家族とも完全に離れてしまう事になる。
そして、役場での手続き中、私は重大な手続きミスに気がついた。
タイムマシンの使用手続きの際、使用人数を一人としてしまったのだ。
二人で使用するには、タイムマシンの使用手続きを行う一週間前に、
もう一人分の申請をしておかなければならなかったのだ。
戸籍謄本と、結婚していれば婚姻証明書、本人の委任状、身分証明書、写真、印鑑を用意して申請しておかなければ、
タイムマシンの使用手続き時に二人申し込めない事になっていたのだ。
二人目の人の、一週間の信用調査期間が必要と言うわけだ。
そして、手続きを始めたら止める事が出来ない。手続きを止めることは、タイムマシンの使用権放棄を意味した。
なぜなら「タイムマシンの尊厳を守るため。」と言うのが知識人の出した答えだった。
「今、使用手続きを取りやめた場合は、もう二度と使用できません。」
「そこを何とか。これ事態、なかった事にしてくれませんか?」
「駄目です。法律で決められています。申請書をきちんと読まなかった貴方が悪い。」
「悪いのは分かるが、故意ではなく、これはミスなんだ。
女房と一緒に乗れないなら意味がないではないか。
自分の命と引き換えに、家族との別れを選べと言われても、貴方だって選べないでしょう?」
「法律で決められていますので仕方ありません。」
どうやら、この役人と話す限り解決の方法はなさそうだった。
妻は、好きにすればよいと言ってくれたが、タイムマシンに乗ること自体が別れを意味していた。
別の日に別の役人に何度も
「二人で使わせてくれ」
と頼んだが、
「法律で決められているので」
と受け付けてはもらえなかった。
聞くところによれば、かなりの賄賂をつかませれば、こっそり二人乗せてくれるらしいのだが。
私の体力もそろそろ限界で、あと一週間のうちにタイムマシンに乗らなければ未来に行ったとしても
治療の見込みがないと医者に宣告された。
私はもう一度、窓口に行った。
「二人で乗せてくれ。どう考えたって一人で生延びても仕方がない。
貴方だって、必要なパートナーと別れるのと死を選択しろと言われたら選択できないでしょう。」
「時間設定を二・三〇年にしてみてはどうなのですか?
それなら、奥さんもまだ生きていらっしゃるのではありませんか?」
「しかし、医者が言うには最低一〇〇年先ぐらいにしないと見込みがないんだ。
だから、何とか・・・・」
私は、小切手を役人に見せた。
「そういうことは受け付けておりません。」
「そこを何とか・・・・」
「いっそのこと、乗るのを止めたらどうですか?
これは個人的な見解ですが、もともとタイムマシンなんか無かったわけだから。
無いと思えば、悩むことも困ることもないのでは?」
「それは、論点のすり替えでしょう。」
・・・・・・
結局、駄目だった。
家に帰り、私は女房と話した。
そして私が取った決断をここで話したいのだが、
如何せん「法律で未来のことは喋ってはいけない。」ことになっているのだ。
「無いと思えば、悩まずに・・・・・

少々嫌味なオチとなっているが、
小説の構造自体は結構気に入っています。
話しは変わりますが、いくら楽天でも、さすがに「タイムマシン」は売っていないでしょう?

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前回のたまねぎのねぎを食べた感想。
美味しかったです。

ねぎとたまねぎの違い

寒い冬、12月におじいさんに植えられたねぎは、4月の始め、一本、おじいさんに抜かれました。
と、言うのももう玉が出来なければならないのに、一本だけ、なぜか玉が出来なかったのです。
他のたまねぎは、たまねぎらしく玉を作りつつありました。
抜かれたたまねぎは、一見するとねぎのようでした。
しかし、根っ子の直ぐ上に、ちょっとだけ丸みが出来かけていました。
おじいさんは少し後悔しました。
5月まで待ってみても良かったのではないか?と悔やみました。
しかし、根が切れているので、もう畑に戻すことは出来ません。
これまでこんなことが無かったので、この出来損ないのたまねぎが食べられるのか
おじいさんは、隣のおじいさんに聞きに行きました。
「食べられると思うが、俺もわからん。隣のじいさんに聞いてみよう。」
と隣のおじいさんが言いました。
隣に行くとそこでも
「うーん。こんな事は初めてだ。食べられるかどうか?」
そういうことが続き、とうとう村中のおじいさんが集まり議論となりました。
「ジャガイモも、出来損ないは毒になると言うから止めたほうがいいのではないか?」
一人のおじいさんが言いました。
「じゃがいもはジャガイモ。たまねぎはたまねぎだ。」
「誰も知らんというのはおかしくないか?」
「これまで経験したことのない、未知との遭遇は、歳をとっても、あるにはあるということさ。」
「で、どうするの?」
などと議論の末、おじいさん達はそのたまねぎを見つめ、黙ってしまいました。
しばらくの沈黙の後、
「食べてみるか・・・・」
と、抜いたおじいさんが言いました。
「危ないぞ!」
他のおじいさんが言いました。
「何でも最初はある。」
と、抜いたおじいさんはその言葉を制し、自分の家の台所へ皆を引き連れて行きました。
「ばあさん、包丁を貸してくれ。」
「珍しいですね。何か?」
「うん。この出来損ないのたまねぎが食べられるかどうか食べてみようと思って。」
「あら、そんなことなら、もう今朝納豆と一緒に食べてますよ。」
と、お婆さんは言いました。
おじいさん達は一様に驚きました。
「だ、大丈夫なのか!」
抜いたおじいさんが、お婆さんに迫りました。
「大丈夫ですよ。でなかったら、毎年毎朝死んでますよ。」
「と言うことは、今までずっと食べてきたと言うことか?」
「ええ。朝にちょっと緑が欲しくて採ってますけど。」
「おおお・・・!」
集まっていたおじいさん達は一堂に瞠目し、おばあさんに注目しました。
「で、・・・・・どうして食べられると分かった?」
おじいさんは聴きました。
「食べられないんですか?食べられないなんて思ったこともないですけど?」
おばあさんはおじいさん達に不思議そうに聴きました。
「なんだか、ねぎとたまねぎって、おれたちと、ばあさんみたいに、微妙に違うんだな・・・・」
と、おじいさんの中の誰かが言いました。

実際、我が家の家庭菜園での出来事を題材に書いてみました。
で、これからたまねぎのねぎを食べてみます。
ラーメンの具として・・・・・
だ・・・大丈夫か!?

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春の匂い

まだ古い家並みが残る商店街を、一升瓶を荷台に乗せて自転車をこいでいる若い娘がいた。
その娘の背上に、まだ雪をまとった稜線がくっきりと空を切り取っている大山(ダイセン)が見える。
山肌は、絶壁の岩が春の太陽に青く輝き、刻み込まれた残雪が白く光っている。
まだ、20、2・3過ぎぐらいだろうか。
娘は東京の大学を出てから、ここ故郷の酒屋を継ぐために戻ってきた。
東京で就職をすることは考えはしたが、四方をコンクリートで囲まれた場所で働き続けることには自信がもてなかった。
それに、故郷には娘の幼馴染がいた。
「ごめんください。お酒、置いておきます!」
ある旅館の調理場に、若い娘の声が響いた。
「ご苦労様!」
白い調理服を身につけた若い男が答えた。
男は、濡れた手を手ぬぐいで拭きながら、娘の顔を見た。
「祥(ショウ)ちゃん、よく漕ぐねえ。重たくはないかい?」
娘の嬉しそうな目を見れば、この若い男が娘の幼馴染に間違いなかろう。
「もう慣れましたから。それに、自動車に乗り出すと、きりが無いでしょう。
近くは出来るだけ、自分の足で行くことにしているの。」
「それにしても、坂道もあるのに。ずいぶん鍛えられた?」
「まあね。見て、このふくらはぎ。」
祥子(ショウコ)は、ジーンズから白いふくらはぎをだして、自慢げに若い男に見せた。
「すごいね。俺よりすげーや。」
「今日のお昼は何にするの?」
娘は若い男に「まかない」をたずねた。
「今日か。今日は刺身の残りの、あらの煮付け。食べていく?」
「りょうちゃんがよければ。」
男の名は、亮と言う。
祥子と亮の間には、変な気遣いも無ければ、男と女の気まずい間もなかった。
娘にとっては、それが歯がゆかったたが、亮が一人前の料理人になり旅館の跡取りになるほうが重要だった。
亮の父親は女癖が悪く、亮が中学の時に女と駆け落ちし、以来連絡が無い。
それからは、母親一人で従業員10人の旅館を支えている。
そんな事があってか、亮は中学高校と荒んだ学校生活を送った。
が、高校を出たあと、何処かの料亭で仕事を叩きこまれ、帰ってきた時にはすっかり角が取れ、好青年になっていた。
今は、板長の下で、料理の勉強に励み、女将からは営業を教え込まれる忙しい日々だった。
「お待たせ。」
亮は、磨きこまれたステンレスの調理台に、まず板長のものを先に、それから祥子の膳をだした。
「今日は、生姜を効かせて、煮汁を餡かけ風にしてみました。
あらは、骨が細いので、一旦揚げてそのまま食べられるようにしています。」
板長はうなずいて、まず一口、口にした。
亮よりも祥子のほうが真剣に板長の顔をのぞいている。
「いいんじゃないか。もう少し大胆に、生姜を効かせてもいいかもしれんな。
生姜が油をさっぱりと仕上げている。
まずまず。」
「ありがとうございます。」
亮はお辞儀をした後、自分の物を始めてよそい、食事を共にした。
「美味しかったわ。」
祥子は自転車を押しながら、亮に言った。
「まあね。ありがとう・・・・・まだまだだけど。」
調理場から、商店街の通りまで、亮は祥子を送って一緒に歩いていた。
亮は、何かを決めかねた様子だったが、祥子が自転車に乗った時
「今度、弁当作って見るからさ、食ってみてくれないか?」
と言った。
「いいわよ。じゃあ、今度の月曜日、亮のお弁当でピクニックね。」
「そうだな。」
「楽しみねぇ。どこにする?私が決めていい?」
「うん。」
「どこにしようかなぁ。決めたら連絡するね。じゃあ。」
幾分早口でそう言うと、祥子はペダルを自慢のふくらはぎで漕ぎだした。
亮も
「じゃあ。」
と、片手を挙げて答えた。
祥子の漕ぐ自転車は、すぐに春の新芽の匂いに包まれた。

恋の始まりっぽいものが
上手に書けたら楽しいでしょうねえ。
と、書いては見ましたが、どうでしょう?
まだまだですか・・・・・。
さて、以下は
「楽天で、まさか、魚の煮付けは売っていないよなー?」
と思って検索してみたら、
意外にも良く売れているようで、
焼き鳥なんかも・・・・好評みたいでレビュー数が(全 3,680件)!?
恐るべし!楽天!

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シンジン蕎麦

蕎麦屋に行って蕎麦を食べる。
当然、誰もが出来ることだが、なかなかに美味い蕎麦には当たらない。
東京は神田の藪蕎麦が日本全国あるわけもなし。
田舎は田舎の蕎麦を食べるしかない。
そう思って、車を西に向けて走らせていると、そう言えば、ここらは蕎麦所だった事に気がついた。
気に留まった看板を頼りに、わき道にそれ、川べりの道を山の方へ数分走るとその店はあった。
口が既に蕎麦口だ。
暖簾をくぐり、店の引き戸を開けて中に入ると、既に先客が大勢いた。
先客の手元を見ると、赤く丸い茶碗ぐらいの大きさの、そんなに底が深くない漆器を3段に重ねた上に蕎麦が盛ってあり、それを箸でつまんで食べている。
どうやら、土地の蕎麦らしい。
席に座ると蕎麦湯が出てきた。水でない所が良いではないか。
「決まったら呼んでください。」
こちらの顔を見もせず、引上げていく。
「お姉さん。2枚追加。」
奥から叫ぶ声がする。
メニューを見ると、シンジン蕎麦と釜揚げ蕎麦、てんぷら・・・・などなどと続いている。
手を上げ、お姉さんを呼んで
「初めて来たんだけど、どれを食べたらいいかな?」
「シンジン蕎麦」
「じゃあお願いします。」
「シン 一つ!」
と言うわけで、私は蕎麦湯を飲みながらしばし待つ事になった。
周りを見れば、なかなか繁盛している店らしく、席は8割がた埋まっている。
店の人も休むまもなく立ち働いている。
程なく、そのシンジン蕎麦なるものが私の席に登場した。
三段重ねた赤い漆器の上に、薄い漆器の皿で蓋がしてあり、それに薬味が数種類盛りわけられている。
蕎麦は、東京のそれとは違い、黒い粒がん混じっている挽きぐるみの蕎麦だ。
上から一段目をとってみると、二段目にもそばが盛られている。
三段合わせてちょうどの量といった塩梅だ。
めんつゆは、徳利みたいなものに入ってあり、それを碗(一段目)にかけて、薬味をちょいと落としてずるっとすすって一噛みする。
腰のある硬めの歯ごたえのあるもので、鼻に蕎麦の香りがすーと抜け、舌に味が広がる。
喉越しもよい。
上から一段目を食べ終わり二段目に行く。さっきと少しばかり薬味を変えてみる。
これもまた美味い。三回、四回とすすりこめば無くなるので、あっという間に三段目、最後になってしまった。
足りるのだろうか?と思い、腹の周りをなでてみる。まだまだ入りそうだ。
それに、こんな田舎にこれほどの蕎麦屋があるとは!と思い、店の名前を探してみた。
箸袋に書いてあるはずだが、と見れば、文字か文字に似せたデザインか、よく読めない。
まあ、帰り際に見ればいいかと思い、
「お姉さん、2枚追加。」
と、脇を通るさっきのお姉さんに言った。
「追加2枚!」
残る三段目をかきこめば、追加の二枚がテーブルに置かれた。
ふと、思って胸に手を当てると、いつもあるはずのふくらみ、財布がない事に気がついた。
あわてて尻のポケットに手をやると、ほっとため息が漏れた。
さっき客先で、上着を脱いだ時に、尻のポケットに入れておいたのだった。
安心したら俄然蕎麦に集中し、あっという間に二枚を腹のなかに収めた。
ああ、これっきり食えなくなるのかと思うと、もう二枚食べておきたくなり
「お姉さん、もう二枚追加。」
と言った。
「お客さん、好きですねえ。」
お姉さんが、あきれた顔で私を見た。
しばらくすると、追加のシンジンと、蕎麦湯が出てきた。
改めて蕎麦湯をすすると、ちょっとしょっぱい、とろんとした濃厚な湯で、シンジン蕎麦とは違った美味さが濃縮されている。
蕎麦も、早速かきこむ。
食べ終わると、かなり満腹になっていた。
「お客さん、奥で休んでいかれ。」
お姉さんは、店の奥の方を指差してそう言った。
車で時間を潰すより、横になって一眠りできればと思い、勘定をすませて、店の奥のふすまを開けた。
ここにも数人の蕎麦好き達が満足げに横になり、新聞を読んだり、TVを見たりしてリラックスしている。
私は部屋の隅に、座布団を枕に横になり、うとうととまどろんだ。
午後の仕事を思うと、昼下がりの幸せなひと時だった。
冷たい感覚に目が覚めると、お姉さんが私の体にジョロで水をかけている。
「ちょっと!お姉さん!」
「もう芽が出てきたわねえ。たっぷり食べたから養分も充分だし。」
と言われ自分の体を見ようとすると、起き上がれない。
まるで砂風呂にでも浸かったみたいに、首から下を埋められて、腹の上辺りには緑の双葉がびっしりと生えている。
「勘定は払った。出してくれ!」
「お客さん。看板見たでしょう。(新蕎麦自社栽培の店。蕎麦は食っても食われるな)って。お客さんは蕎麦に食われちまったんで
しょうがなく、家で世話をすることにしてるのさ。あのままだったら、あんた発狂してるよ。突然腹から蕎麦が生えたら。
一週間もすれば収穫できるから、まあTVでも見てのんびりして。」
「ちょっと待ってくれ、突然こんな事に。これは!」
見ている間にも、双葉はぐんぐん成長し、早回しの観察ビデを見ているようだった。
「理由は定かでないんだけど、・・・・・」
とお姉さんはポツリポツリと私を諭すように話した。
昔、二代前の店主が、手の甲に生える蕎麦を発見したのが初めらしい。
興味本位で育てて収穫し、蕎麦を打ってみると滅法美味い。
これは! というので栽培を始めた。しかし苗床が不足して増産できないジレンマに陥り悩んだ末に、
客に苗床になってもらう方法を思いついた。
種は挽きぐるみの蕎麦なので簡単に仕込める。但し、胃酸でやられるので大量に食べてもらう必要がある。
蕎麦湯も肥料代わりに大量に飲まないとうまく発芽しない。
で、ますます蕎麦打ちに磨きがかかり、美味くなって客も増える。そうすると苗床にも苦労しなくなり、今のサイクルが完成したという訳だ。
「客は怒らないのか?」
「まあ、中には怒る客も居るけれど、人間諦めざるを得ない状況で、手も足も出せないとなったら、自然と適応しようとするのが自衛本能らしく、無事収穫、何事も無かったように帰って行きますよ。」
と、お姉さんはジョロに残ったしずくを私の腹の上で切り、
「じゃあまた後で」
と振り向きもせず、忙しそうに去っていった。

「パンの耳の逆襲」にちょっと満足できなかったので
「シンジン蕎麦」を急遽書いてみました。
安部公房が強いものになってしまいましたが、まあ習作ということで。
因みに、下の商品はこのお話とは全く関係がありません。
こんな話を読んだら蕎麦が嫌いになるかも?
筆者は大好きなんだけど。

安曇野から信州の生そば6人前を打ったその日に発送♪なんと!安曇野産生わさび・北アルプス天然…

パンの耳の逆襲

ある町のパン屋さんでは、毎日たくさんのパンが焼かれていた。
この日も朝早くから、パン職人が生地を整形し、次から次へ釜へ放り込んでいた。
そして、次から次へと、多くのパンが焼きあがり、店内の棚に綺麗に並んでいく。
そんな中で、食パンだけが焼きあがっても直ぐには切れないので、しばらく店の奥の棚で熱を冷まされていた。
「お前はいつも遅いなあ。」
アンパンが食パンをいつものようにいびった。
「どうせ食われちまうんだから、遅くたって構わない!」
「いや、お前の耳だけは食われないのだぜ。」
と、穀物パンが言った。
「食パンカッターの横に積み上げられて、(犬のえさにくださいな)って客に言われてもらわれていくんだ。」
「ザマーネーナ」
フランスパンが、パリパリとはやし立てた。
食パンはうんともすんとも言えず、いつものように黙ってしまった。
そして、2時間後。
食パンは店員に5枚切り、6枚切り、サンドイッチ用と切られていき、ビニールの袋に綺麗に包まれていく。
耳は、穀物パンの言ったように無造作に積み上げられていった。
お昼時、近くの工場の工員たちが次々とパンを買っていく。
「あばよ!」
とみなぞれぞれ、湯気を出して去っていった。
昼過ぎに近所の主婦がやってきて、食パンを買っていく。ついでに
「犬のえさにパンの耳をくださいな。」
といわれ、パンの耳は無造作にナイロン袋の中に入れられて、くるくるっと口を縛られ、アンパン連中と同じ袋に入れられた。
「ケガラワシイ!」
「寄るな!犬のえさ!」
パン達に散々コケにされ、返す言葉も無くパンの耳はうなだれた。
台所に置かれたパンたちは、今か次かと食われるのを待ちわびた。
3時ごろ、ゴゾカサと、袋が開けられ、主婦が覗いた。
「俺を食え!」
「いや、おれだ!」
パンたちは一斉に叫んだ。パンの耳だけはうなだれ曲がった状態だ。
と、主婦が取り出したのはパンの耳だった。
「犬のおやつか。」
パンたちは深いため息をして、またごろんと横になった。
主婦は、と言えば、トースターを出し、曲がったパンの耳をパンと真っ直ぐに直し、マヨネーズをうねっと伸ばしてタイマーを5分にセットした。
「おい!おい!犬に食わせるんじゃなかったのかよ!」
アンパンが叫んだが、その声は主婦には届かない。
ジジジ・・・とトースターのタイマーが回り続けてチンとなった時、
「どうして売れないのかしら、一番美味しいのにねえ」
と香ばしく焼けたパンの耳を手に持ち、かぶりついた。
「ザマーネーナ!」
パンの耳は、アンパン達と、そしてかぶりついた主婦に叫んだ。

今回はちょっと駄目ですね。
ブンガクのエッセンスがゼロ。うーん難しい。
笑えたら良しとしてください。

”100%をゆうに超える満足度”「日本一美味しいパン屋」受賞!副素材一切なし。これぞ真の食パ…

少年とバイオリン

煙突から白い煙が見える、モンマルトルのアパートの一部屋で、譜面を前に少年がバイオリンの練習をしている。
少年の前には、先生らしき中年の紳士が厳しい表情で、耳に音を傾けている。
「そこ!もう一度!」
少年は、急いでバイオリンの弓を弾きなおす。
「違う!もっとゆっくり。」
先生は、自ら弾いて聞かせる。
先生の弾くバイオリンの音は荘厳で、音に伸びがあった。そして静かに消えていく。
バイオリンの音は静かな森の音に似ている。
存在することに、何の不思議もなく、太古の昔からそこにあった空気の震え。
それらが、霧のごとく流れるように、音を作っていく。
少年は、その魅力に引かれてバイオリンを始めた。
しかし、最初は製材所のノコギリの様な騒音でしかなかった。
この先生に教えてもらい始めて、やっと、森の音に近づけた気がした。
少年はもう一度、あごでバイオリンを押さえ、指に神経を使いバイオリンの弓を弾く。
静かに、先生はうなづき、少年は続けた。
やがて今日のレッスンが終わり、先生は帰っていく。
少年は、母親の作ったランチを食べて再び、一人でバイオリンを弾き始めた。
少年は目を閉じ、音に集中しながら、慎重に弓を弾いた。
すると、何処からか飛んできたてんとう虫が一匹、バイオリンのf字孔のなかにすっぽっと入ってしまった。
そして、もう一度と・・・弾き続けた所、急に綺麗な音が出るようになった。
少年は何かコツを掴んだのだと思い、嬉しくなって母親に聞かせに台所へ行った。
「すばらしい!」
母親は息子を抱き寄せた。
それから少年は数々のコンクールで優勝し、やがて青年になり、誰もが認めるコンサート・マスターになった。
その間、バイオリンは次々と変わったが、あのてんとう虫が入れ替わったのかは分からない。
青年は今日もコンサート会場の万雷の拍手を背に一日を終えた。
ホテルの部屋に戻り、ワインを飲んでくつろいでいると、青年のバイオリンから一匹のてんとう虫が這い出してきた。
青年は気づく気配もなく、快い疲れのなか、ソファーで寝てしまっていた。
てんとう虫は、磨かれたバイオリンの表面をするりとすべり落ちると、ふっと羽根を広げて飛び立った。
ホテルの部屋をしばらく飛び交ったあと、カーテンのゆれる窓へ飛んで行き、夜のパリへと消えていった。
次の日、青年はコンサートの練習でその異変に気がついた。
音につやがなく、何かが足りない。バイオリンを取り違えたのかと思ってみたが、青年のバイオリンだった。
指揮者は、眼鏡の奥から青年を怪訝な目で見ていた。
青年は調子が出ないと言い、今日の練習を早々に止めてホテルに帰った。
そして、ホテルの部屋で、まるで悪夢でも見ているように、顔は青ざめ、何度もバイオリンを震える手で弾いてみるのだった。
「違う・・・・・」
青年は、頭を抱え、ソファーへ体を沈めた。
開け放たれた窓から、春の夜の生ぬるい風が入ってきた。そして、その風に乗って、一匹のてんとう虫が入ってきた。
青年はかすかな羽音に気づき、顔を上げた。
その方向へ目をやると、そのてんとう虫は青年のバイオリンのf字孔の中へすっぽりと飛びこんだ。
青年はあわてて、バイオリンを手にして振ってみたが、コトリと音もせず、中にてんとう虫の気配もなかった。
「どこかにへばりついているのか?」
と思ったが、壊すわけにもいかず、青年は試しにバイオリンを弾いてみた。
すると、今までの不調が嘘のように、音はつややかに流れ、部屋の空気を森に変えた。
青年は、あごからバイオリンを外し、不思議な物でも見るようにバイオリンもう一度見た。
そして、初めてこの音を弾いた日の、母親が作ったランチを思い出していた。

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