黒い鳥

街の中心の、背の一番高い杉の木に留まった黒い鳥は大きな嘴を開き、
「夜が明けるぞ!」
と赤い舌を振るわせながら鳴いた。
すると何処からともなく、蝙蝠(コウモリ)の大群が飛来し空を埋め尽くした。
黒い鳥は依然として鳴き続けた。
蝙蝠は黒い鳥の頭上を中心にして、渦を巻くようにぐるぐると旋回し出した。
やがてその中心に一層暗い穴が開き始めた。
その穴は周りの光をぐんぐん吸い込み、夜の光全てを吸い込もうとしているかのようだった。
黒い鳥の頭の毛が逆立ち始めた。
東の山の端が薄っすらと白ぎ始めた。
空中の真っ黒なその穴はその光さえも吸い込む勢いで、街中の光を吸い込み続けた。
「夜が明けるぞ!」
黒い鳥はけたたましく鳴き続けた。
やがてその真っ黒な穴は空中から徐々に速度を増し、竜巻が地上に降りるように黒い鳥の頭上へ降りてきた。
穴と黒い鳥が接した瞬間、黒い鳥はその穴の中へ飛び立った。
黒い竜巻は一瞬で上昇し上空に戻ると、渦を巻いて飛んでいた蝙蝠は一瞬で回転を止め四方へ飛び去った。
その刹那、東の山の端からは日の光が輝き、今まで闇に浮かんでいた樫の木を一光の下に浮かび上がらせた。
黒い鳥が留まっていた枝には早くも雀が舞い降りようとしていた。

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空中の散歩

「よし。次!」
教官らしき人物が私に言った。
私は、ひょいと飛び上がると、両手で空気をかき、上昇していった。
風はなく、すいすいと斜め上に昇っていく。
後ろの方では
「おお!」
と感嘆の声が聞こえた。
気分が良かった。
暫くすると、谷に差し掛かった。
地面では、地が白で襟だけが赤色の学校の体操服を着た女の子が、走ってこけて泣いていた。
体育の時間だったっけ?
と、大きな松の木の天辺に差し掛かりこのままではぶつかるので急いで手をばたつかせる。
すると、くいっくいっと上昇し、松ノ木の天辺を通り越せた。
まだまだ上昇できそうだ。
すると、下から私を見上げていた友人の純一が
「お前、結構上に昇れるんだな。」
と言って、手をばたつかせて昇ってきた。
「おれはこれが限界かな。」
と、体育館の屋根の上の辺りでとまっていた。
「ああ・・・・そう。」
と私は得意げに答え、依然として上に昇っていった。
このまま宇宙まで行けるのかも知れない。
そう思って空を見ると、青がだいぶ濃くなってきた。
この前テレビで見たような成層圏ではないかと思った。空気が薄くなってきたのかもしれない。
だったら手をばたつかせても、空気抵抗が減るのだからもう上には昇らないだろう。
と思ったが、依然として上に昇って行った。
止めようとしても止まらない。むしろ空気抵抗が少なくなって加速したようだ。
だんだん息が苦しくなってきた。
光る星がちらちらと見え出し、私は
「助けてくれー!」
と声にならない声で叫んでいた。
と、次の瞬間、底が外れたかのように落下しだした。
加速がぐんぐん加わり、私は体を縮こませるしかなかった。
力の限り手を握り締め、歯を噛み締めた。
地面にブツカル!
が、ふわっと体が止まった。
「あんまり調子に乗るなよ。」
教官の太い腕が私の体を受け止めたようだった。
私は恥ずかしくなり、他の皆が真っ直ぐ並んでいる列の後ろに急いで座った。
「よし、次!」
教官が言うと、次のものがひょいと飛び上がり、手をばたつかせて空へ昇って行った。


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蟻(あり)

庭の隅、草の間を縫うように蟻達が餌を持って歩いている。
それを、麦藁帽子の下で屈んで見ていたアツシは、もう30分ぐらい動かない。
次々に違う蟻が餌を持ってアツシの下を横切っていく。
延々と続く規則正しい蟻の列は、アツシにピラミッドの工事をする労働者達を思い起こさせた。
街の図書館で読んだ「ピラミッドの不思議」の挿絵がアツシの脳裏に浮かんでいた。
アツシは小さな木の枝で一匹の蟻をつついてみた。
蟻は迷惑そうにその木をよけたが、直ぐに線路の上を走る列車のように、元の通り道に戻って進んだ。
今度はその枝を横倒しにして、蟻の通り道に置いてみた。
蟻は餌を持ってその枝を乗り越えようとするが、体制が整わないのか、登るのは無理みたいだった。
だんだん蟻が枝の前に溜まって来た。
興味深そうにアツシはそれを見ていた。
すると一匹の蟻が枝に沿って歩き出し、枝の端までくるとそこで向こう側に回り、また元の通り道へ辿り着いた。
それに続いて他の蟻も枝を迂回して歩き出した。
枝の前の溜まっていた蟻は直ぐに再び一直線になって進みだした。
アツシはやっと立ち上がり、餌を持った蟻の進む方向に沿って歩き出した。
直ぐに蟻の行進は見えなくなった。
最終的に蟻が何処に行っているのか?アツシは庭の塀際の下を棒でつついてみた。
すると、途端に蟻達が四方八方にあふれ出してきた。
アツシは少しひるみ、後ずさった。
しかし、アツシは勇気を奮い起こし、再び蟻達が溢れかえるその穴を良く見ようと、近づいてしゃがんだ。
蟻達はアツシの存在など気に留めないようで、壊れた巣の中から小さな土を持っては外に出てきた。
蟻に反撃されない事で安心し落ち着きを取り戻したアツシは、蟻が小癪に思えてきた。
そしてその小癪な蟻にもう一撃を加えようと思った。
手に持った枝をびくびくしながら其の穴にねじ込んで・・・・・
と思ったら後ろの家の網戸の中から
「お昼ご飯よ~」
とママの声が聞こえた。
アツシは何か救われたような心持がし、手に持った枝をそこに落とし、蟻の巣に背を向けた。
アツシの頭の中には、お昼ごはんの事で一杯になっていた。

さすがにピラミッドは売ってはいないみたいですね。

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ダウンロード・オールナイト

年賀状の印刷作業を終え、ノートパソコンをシャットダウンする操作をすると、パソコンの画面に
「ただ今更新ファイルをダウンロード中です。電源は自動的に切れますので、電源を切らないでください。」
と出た。
「いつもの更新か・・・・」
と彼は思い、炬燵の上のみかんに手を伸ばした。
今年は150枚程度印刷したのだが、年々少なくなっていくような気がした。
みかんを口に放り込み、皮をゴミ箱に入れ、新聞を手に取り、テレビの番組表を眺めた。
年末のテレビには、彼の興味を引くような番組は無かった。
「年賀葉書でも出してくるか・・・・」
彼はそう思って炬燵から這い出し、寝巻きのジャージの上からピーコートを羽織って出かけた。
気持ちよく晴れていた。
「来年はどうなることやら・・・・」
そんな不安と心配がいくばくか癒されるような空の青さだった。
さすがに空気は冷たく、保温性のないジャージのズボンから風がすうすうと通り炬燵の余熱は冷めていった。
投函し、再び炬燵に戻り、ネットでもしようとパソコンを見るとまだダウンロード中であった。
「いやに長いな・・・・」
でもしょうがない。
彼はプリンタだけを外して片付け、パソコンはコンセントの傍の部屋の隅に移した。
再び炬燵に足を入ると、ちょうどサーモスタットが切れ、放熱版が赤くなり暖かくなった時だった。
何もする事が無いのを喜べるのは、月々の給与があるからだと思った。
座布団を枕に炬燵に首まで潜り込むと、眠たくなった。
彼は着ていたチャンチャンコを脱いで布団代わりに上にかけ、昼寝ときめた。
目を覚まし時計を見ると16時だった。
パソコンを見るとまだダウンロード中だった。あれから2時間も続いていることになる。
「切ってしまおうか?」
と思ったが、年末がパソコンの再セットアップで潰れても嫌なので、炬燵から出るのは嫌だったが2階の別のパソコンでネットをすることにした。
こちらでは別になんら問題はなく、更新も無いようだった。
気になってITニュースを見てみると新手のウィルスが流行っているらしい。
「感染するとパソコンをシャットダウンする画面が表示されたままになり、
それが8時間経過した時点で=ダウンロード・オールナイト=と表示されてようやくシャットダウンされる。
その後パソコンを立ち上げた時点でこのウィルスは自己消滅し、レジストリに感染記録を残すので二度と感染しない。」
というものらしい。
と言うことは、1階のパソコンが感染した疑いがあると言うことか。
彼は何か駆除できる対処法はないかとブラウザの検索ボックスにカーソルを移したがしかし、突然の大きな虚脱感が彼の手を止めた。
「別にどうでもいいではないか・・・あと6時間経てば消え去るのだから・・・・」
彼はそう思い、初詣に行く予定の、街の神社の名前を入力していた。

ダウンロード・オールナイトという語呂にひかれて
かいてみたもの。
当初予定していた明るい笑い話とは全く違う方へ行ってしまった。
まあ、明るく 明るく行きましょう。
と言うわけで、

キングレコード 私と小鳥と鈴と~金子みすずベスト~

黒い煙

堤防沿いの片側二車線道路。夜九時ともなればぐっと車両が少なくなり、制限速度の60キロは名目だけの数値になっていた。
1日街で働いた彼が先頭で信号待ちをしていると、次々と川向こうの土手から橋を渡って自動車が流れてくる。
ヘッドライトが後方へ勢いを増して流れていく。
車両が少なくなったと言っても、朝のように時速50キロそこらで繋がって走るのではなく、80キロ程度の速度で走れる程度の交通量だ。
言うなれば、全くストレスなく飛ばしていける道だ。
彼の後ろにも、次々と車両が詰まってきた。
彼は、カーステレオのCDを換え、ロンリーヒルの「ミスエデュケーション」を挿した。
スピーカから街の音が聞こえ出し、それがロンリーヒルの歌声に変わる頃、信号が青に変わった。
彼はファーストのギアにクラッチを合わせるとアクセルを踏み車を発信させた。
ヘッドライトが中央分離帯を照らし出した。
セカンドに入れる。
隣のクラウンが車両の前方を上に突き出しながらエンジンを吹かして前方へ離れていく。
直ぐに三速に入れ、四速、そして5速に入れる。
クラウンの後を大型ダンプが食らい着くようについていった。
大方、帰社を急いでいる運ちゃんなのだろう。
秋の冷たい夜風がロンリーヒルにあっているような感じだ。
空気が乾いているせいか、安物のステレオ音がワンランク上の音のように聞こえた。
確かに、いい音はいい。
堤防二車線を走り続けた。
途中再び信号に引っかかった。
先程の大型ダンプの後ろに、大きなジープが一台着いていた。
いつの間に抜かされたのだろうか。
それともわき道から出てきたのだろうか。
信号がダンプの陰になっているので見えない。
そろそろ青かなと思った頃に、動き出した。
ジープから吐き出された真っ黒な煙が見えたので窓を閉めた。
この先は1車線になる。
斜め前のワゴン車がジープの斜め前で左のウィンカーを出している。
ジープとダンプの間隔は1メートル程度だろうか。
ジープがブレーキを踏めば自分もブレーキを踏むだろうと彼は思った。
が、実際はブレーキを未だ踏んでいない。
ジープと彼の車も1メートル程度の間隔で、ワゴン車の割り込む余地は無かった。
ジープも未だブレーキを踏まない。テールランプは白のままだ。
彼は尚もジープの後ろにぴったりとついて走っていた。
ワゴン車は左のウィンカーを点けたまま次第に左に寄って行った。
ジープがけたたましくクラクションを鳴らした。
彼はブレーキを少し踏んだ。
なおもワゴン車はジープの前に強引に割り込もうとしていた。
もう少しで一車線なので、車2台がほぼ1車線に並んで走っている状態だった。
危険を感じた彼はブレーキを強く踏み、ジープとの間隔を広げた。
ワゴン車はジープの前しか目に入っていないのか、なおも強引に左に寄っている。
再びジープがクラクションを鳴らし、ワゴン車のテールランプが赤く点った。諦めたようだ。
そして直ぐにジープの後ろのスペースに気づき、彼の前に滑り込んだ。
彼は再びアクセルを踏み、ワゴン車の後に続いた。
彼の車のロンリーヒルはエックス-ファクターを歌い始めていた。

秋のドライブがモチーフ。
黒い煙にまかれないようにしたいものです。
小説はロンリーヒルのアルバム、効果音が秋の虫の鳴き声のように
響く事が知っている人には効果あり。
しかし、小説に音楽を登場させるのって結構プラスマイナスありますね。

ミスエデュケーション