ガリガリ君の当たり棒

今回は「豆大福」作です
ガリガリ君の当たり棒
僕という人間は生まれつき運に見放されているのかもしれない。
父さんも母さんも青春時代にニキビとは無縁だったというけれど、最近ニキビが増えてきた。
鼻の頭のが治ったかなと思ったらこんどは鼻の下。「鼻クソニキビ」ってやつだ。
まるでもぐら叩きみたいに出てくる。痛い。赤い。カッコ悪い。
部活のテニスもパッとしない。小学校からやってるし、けっこう上手いと思うんだけれど、いかんせん僕の学校は上手い奴が多すぎる。
高校二年で158cmという身長も悲劇的だ。これは父さんの遺伝。うちの父さんは母さんより10cmは背が低い。
手も足も短い僕。前衛なんかではとても不利だ。今度の大会でも、やっぱりレギュラーから外されていた。
でも僕は意地でもテニス部はやめない。なぜなら青木かなえさんの存在があるからだ。
青木さんは女子テニス部。僕の目から見るとだが、テニス部で一番可愛い。いつも一生懸命で、ハツラツとしている。
今は真っ黒に日焼けしているけれど、青木さんがコートの脇で靴下を脱いだとき、靴下に隠れている足が真っ白だった。
変態っぽいけど、その足にグッとくる。日焼けした腕のうぶ毛?も金色に光っている。脱色とか、女の子だからしているんだろうか。
青木さんにも見事にフラれた。直接ではなくて、間接的に。
僕は分かりやすい人間らしく、部活中につい青木さんのことばかり見ているのを榎本に指摘された。
「お前、青木さんばっかり見てね?好きなんじゃね?」図星を指されて赤面。
「っるせー!んなことねーよ!」とは言ってみたものの、その日の部活が終わる頃には僕の好きな人は青木さんということが部活中に広がっていた。
学校の帰り、近くのファミマで青木さんを含む女子グループが雑誌を見ていた。気まずいけれど、逃げるのももっとイヤだ。
アイスやジュースを物色するふりをしていると、グループの一人が雑誌を見ながら青木さんに言った。
「やっぱやまピーかっこいいよねー、ぜったい今度のドラマ見るぅ。かなえもやまピー好きだよねー?」
「うん、やまピーってそんなに背高くないけど、170はあるよねー、私、自分より背の低い人ってありえないしー」
・・・明らかに聞こえよがしな感じだった。青木さんは僕より背が高い。165cmはありそうだ。自分より背の高い女の人が好きだというのも父の遺伝か。
それより良く考えてみよう。
今の瞬間、僕は間接的にフラれたのだ。告白もできないままに。メル友にもなれないままに。
青木さんたちがファミマを出て行ったあと、僕は「ガリガリ君」を買った。
本当はジャイアントコーンが好きだけれど、コンビニで買うと126円もするし、チョコにナッツはニキビの大敵だ。
ガリガリ君でも食いながらこの失恋の痛みを癒すしかない。
こんな時にでも食えるのが僕のイマイチかっこよくないところだけれど、いやな事があると食に走るというのは、母さんの遺伝かもしれない。
ガリガリ君を食い終わると、なんと棒に「一本当り」と刻印してあった。
これまでの16年の人生で、何かに当たるというのは初めての出来事だ。
クリスマス会のビンゴゲームとか、友達といったボーリング場のインスタントくじとか、僕だけ当たらない、ということはこれまで多々あったけれども。
単純に嬉しかった。
失恋の痛みと、ガリガリ君で当たり棒が出た嬉しさと、どちらが大きいかといえばもちろん失恋の痛みだけれども、まあなんというかガリガリ君に励まされたような気がしたのだ。
高校二年の男子の食欲ならすぐに当たり棒をアイスに換えそうだが、僕はその棒を丁寧に舐め、鞄のポケットに入れた。
ガリガリ君の当たり棒は、今洗われて僕の机の上に鎮座ましましている。
「臥薪嘗胆」とはいうけれど、苦いものを舐めるよりも、僕の場合は甘いアイスの棒を見て「まあ、いいこともあったじゃないか」と暗くなりがちな気持ちを明るくしようとする。
身長のみならず、小さい男だとは思うけれど、しばらくの間はこの当たり棒のお世話になろう。


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麦藁帽子の下で

休日の早朝、夜のうちに洗い終わった洗濯物を干しに二階へ上がり、ベランダの窓を開けると
新鮮な空気が肺の中にわっと入って来て一気に目が冷めた。
ふと下を見ると、スリッパの横に、仰向けになって死んだカナブンが転がっていた。
洗濯物を干し終わり、カナブンを転がしておくわけにもいかず、両手でスリッパを持ち、カナブンを挟んで下の芝生の庭に落とした。
直ぐに蟻が見つけて、持ち去るだろう。
朝のコーヒーを飲み新聞を読んだ後、芝生の草むしりをするために、ジャージに着替えて麦藁帽子をかぶり庭へ出た。
朝日が既に昼の日差しのように暑く、ジャージの上から皮膚に染みてくる。
まずは、蚊取り線香に火をつけた。
次に物置で、ゴム手袋をはめ、除草ホーク(草抜きの道具で、先がホーク状に二つに分かれた物で、片手で扱うもの)と、草入れの塵取りを持った。
物置の前から順次、草を抜いていく。
しゃがんだままの姿勢であるが、慣れているのでそう足には来ない。
最初は蚊が寄ってくるが、辺りに蚊取り線香の匂いがする頃には何処とはなしに逃げて、いなくなる。
この頃、6月の草は、双葉を出している小さな物が多い。
と言っても、隔週ぐらいに草むしりをしているからなのだが。
緑の濃い芝生の隙間から、幾分薄い緑の二葉を小さく出している。
除草フォークで根から抜き取り、塵取りへ放り込んでいく。
余りに小さなものは、面倒なので次回の草むしりへまわす。
クローバーが、30センチ平方メートル程の大きさに繁茂している箇所にでくわした。
この草は厄介だ。
抜こうとしても、ぷっつりと茎が切れて根が残り、上だけが取れる。
また、放っておくと横にツルのように根を伸ばし、芝生と競うように繁ってくる。
まさに、その放置した後の繁茂状態だ。
根気よく根を探していくわけにも行かず、手当たり次第に芝生ごと削り取っていく。
この時、除草ホークは大活躍だ。
てこの原理で、強い芝生の根もブツリブツリと、諸共にクローバーを削り取っていく。
湿った茶色の土が現れてくる。
そんな作業を延々と行っていると、作業視野に朝のカナブンの死骸が入ってきた。
未だ蟻も見つけていないらしい。
ゴム手袋の手で掴み、蟻がよくいる樫の根元へ放った。
と、地面へ落下する刹那、死んでいたはずのカナブンが、羽根を広げ、全速力で羽ばたき、急上昇して見えなくなった。
ゴム手袋の手には、カナブンの四肢の抵抗があった様な微かな感覚が残っていた。釣り上げた魚を手で掴んだ時の様なものか。
恐らく、仮死状態だったのが急に目覚めたのに違いない。
しかしながら本当は、この世界でも起こりうる、小さな奇跡なのかもしれない。
麦藁帽子の下で、そんな事を考えつつ・・・草むしりを再開した。
背中には既にじっとりと汗が滲んでいた。


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ある意味で、孤独な船長

「船長!また、一人眠っています!」
ブリッジの船員は船長の方へ、救いを求めて叫んだ。
「船長!」
宇宙船の船長は黙ったままだった。
『これまでだって幾度の困難をかいくぐってきたのだ。これにもきっと解決策があるはずだ。』
船長はそう考えた。
しかし、船員は原因不明の眠り病にかかって、揺すっても殴っても目覚めなかった。
ロボット船医に原因を調査させたが
「不明」
と言うことしか分からなかった。
ロボット船医は、データベースにある病気ならば瞬時に見分けて治療を開始できるのだが、
如何せん、未知の病気には対応できなかった。
船長は怒鳴った。
「おい!お前らも何が原因か考えろ!途中、立ち寄った所で変な事はなかったか!」
ブリッジの船員は、誰も答えなかった。
代わりに
「船長!乗組員のほとんどが眠りにつき、起きているのは我々ブリッジにいる者だけです。」
と航海士が言った。
「分かった、仕方がない、一旦船を停止しろ。」
「アイアイサー」
船は静かに停止した。
船が止まった事を確かめた船長は続けて言った。
「起きているのはブリッジの11名だけか。これでは船が機能しない。
船医、眠っている者は、いつまで眠り続けるのか?」
「一番長いもので、今3日目です。調査した所、体温は下がり、まるで熊が冬眠しているように脈も遅くなっています。」
「と言うことは、このまま2・3ヵ月眠り続ける可能性があるということか?」
「そう予想されます。また目覚めない可能性があり、その場合は衰弱死してしまいます。」
船長は腕組みをしたまま考え込んだ。
ブリッジの皆は、船長を見て黙り込んだ。
船長は考えた。
『ここにいる者は眠った者がいない。ここは他の船室と違い、空気は全て隔離されている。だからここだけは無事と言うことになる。
しかし、眠りから覚まさないと我々は宇宙の幽霊船になってしまう。この状態では何処にも寄航させてはくれまい。
厄介者は敬遠されるからな。
結局、原因が分かって対応できない限り、生延びられないというわけだ。
しかし肝心の、船医は役立たずか・・・・。さて、どうする?
最悪、ブリッジを切り離して我々だけで脱出し、他の船員は見殺しにするか?
まあ待て。
空気感染すると言うことは、何らかの原因物質があると言うことになる。
そしてそれを取り除けば問題は解決する可能性がある?
また、その原因物質は、間違いなく脳にあるのではなかろうか?』
船長は早速ロボット船医に患者の脳を調査する様に指示した。
ロボット船医は指示通り、調査を開始した。
しばらく経って、ロボット船医から得意げに報告が入った。
「船長。分かりました。原因は寄生虫でした。また、虫下しを点滴すると駆除できることも確認できました。」
「良し、早急に虫下しを点滴して治療に当たれ。また、空気を浄化する様に。」
ブリッジに安堵のため息が漏れた。
船長もふーと息を吐いた。
『俺が、皆を見殺しにして、逃げる事を考えていたと知ったらどう思われるかな。言わぬが花か・・・』
と船長は思った。

眠りといえば「枕」
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今使ってる枕も、あまり・・・・
ところで、楽天で検索してみると・・・・・
レビューが結構ありますね。
うーん、そんなに高くないし、どうしましょうか?
「船長!」

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紙と少年

少年は52点と書かれたテストをびりびりに破って、川へ捨てた。
テストを捨てたのは2回目だった。
「そのこと」を発見したのは、朝の漢字テストの時だった。
前日、少年はきちんと漢字の練習をし、そのテストに臨んだ。
なので満点を取る事は出来た。
しかし、0点だった。
なぜ0点だったのか?
少年は、漢字を全て書くことは出来た。
しかし、数日立てば漢字の何割かを忘れてしまう。何か変だ。
では、紙とは何なのか?
いつか受験で、紙に答案を書いてそれを誰かが採点し、自分の人生が左右される。
と言うことは、紙というのは自分の人生を左右するものなのか?
テストは出来の悪い時だってある。
それなのに、なぜ?
人生を紙に左右されなければならないのか?
そうか、人間の文明は紙から生まれたのだ。
紙が無いと、英知は次の世代へ受け継がれない。
紙があるからこそ、知恵を蓄える事ができ、次の世代が飛躍できるのだ。
と、考えた少年は、急に、紙というのもが自分に重たくのしかかってくるのを感じた。
それは少年の息を止めそうにまでなった。
そして、少年は紙と徹底的に戦うことを決めた。
最近DVDで見た、ターミネータのコナーだって機械と戦った。
本当に戦う相手は、機械ではなく「紙」なのに、と少年は考えた。
そうして少年は52点のテストを破って捨てたのだった。
本当は80点ぐらいは取れたが、文字を紙に書くことを極力避けるために52点となった。
0点を取れば誰かにこの戦いがばれてしまうので、そこそこの点は取る必要があった。
なので、記号問題は許される範囲ではあった。
その様な孤独な戦いを続ける少年は、ある時、自分の部屋の本が、紙でできていることに気づき愕然とした。
お金だって紙でできていた。
それでも紙と戦おうと思い、少年は地道に自分のルールでその戦いを続けた。
が、ある朝、トイレットペーパを使った時に少年は敗北を認めた。
それも紙でできていたのだった。
それからしばらくたって、少年はこんなことがあったことすら忘れた。
しかし、少年の奥底には、小さいが、固い石のようなものができていた。

少年とまではいかないでも
観念に囚われることは誰にでも起こりえます。
そしてとても厄介なやつです。
観念って。
コンプレックスの正体って観念かも?

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残雪

3月の半ばも過ぎた頃、富山へ出張へ行くことになった。
大阪からは、特急が出ているが、車で行って寄り道でもして、のんびりしたいと思った。
それに、昔の友達の顔も見てみたい。
車のナビゲーションに従って高速を降り、信号で右に曲がった。
目的の会社までは相当ある。
結構山の方へ走って行くことになった。
北陸特有の散居村の中の道だ。
道の横の用水路には、たくさんの綺麗な水が光を乱反射しながら流れていた。
富山の平野はそのまま海へと流れ込む、微妙な傾斜を持っている。
大きな視点に立てば、立山のすそ野、イコール、富山の平野と言っても良いのかもしれない。
続く田んぼの中にはぽつんぽつんと、それぞれ独立した林がある。
その林の中に家がある。これが散居村というものらしい。
よく晴れた日で、空は、東に見える立山の稜線に切り取られているだけで、後は日本海との接点まで続いている。
車のナビは、真っ直ぐ上を指したままで、黙ったままだ。
やがて、緩やかな上り坂になり、だんだんと道が曲がってきた。
立山までは行かないけれども、そのふもとに目的の会社がある。
車は、林の中のつづら折の道を上り始めた。
木々の間には、未だ数十センチの残雪があり、一面を覆っている。
が、木々の根元の周りだけ雪が解ける、いわゆる「根開け」があった。
残雪の上には、雪の重みで折れたのか、枯れ枝等が落ち、真っ白ではない。
道の両脇はガードレールは見えず、それに代わる様に、こちらは真っ白な雪が残っていた。
三脚を出し、この光景をカメラに留めようとしている人がちらほらといる。
確かに、このような光景はそう見られたものではない。
ふと、ナビに目をやると、目的地まで10分と出ていた。
約束の時間には、早すぎるようだった。
私は車を脇に停め、エンジンを切って、しばしこの林の残雪の、根明けの光景を見ることにした。
車から外に出ると、雪が音を吸収しているのか、途端、静かになった。
どうして根元の周りだけ雪が融け始めるのが早いのか?
一説によれば、冬の間、木々は凍っているらしい。
そして、背の高く太陽の光を最初に受ける木がまず融け始める。
脈を打ち始めた木は地中の水分を吸い上げ、徐々に温度を上げていく。
その温度の輻射熱で根元の雪が融けるらしい。
理屈はそうかもしれないが、私はこの光景から目が離せなかった。
バキッという音に首を向けると、
朽ちた枝が折れたらしく、落下途中に他の枝にぶつかり、はねて、鈍い音を響かせていた。
そして、最後には雪の上にサクッと落ちた。
未だ芽吹きは遠く、儀式がゆっくりと進められているようだった。
私の中ではザワザワと、何かがざわめき始めていた。

淡々と書く方法は評判がよろしくないようですが、
これはまあまあ、出来はいいのでは?
うーん・・・
こんなお茶発見!今まで知りませんでした。

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危険

街角の掲示板に、「危険だ!注意しろ!」と貼り続ける人がいた。
誰も、その人が貼っている所を見たことはない。
けれども、字体、雰囲気などから、たぶんこの人に違いない、と街の人々は噂した。
その人は、年金暮らしで、毎日、庭の草むしりが終われば、散歩に行き、
散歩が終われば昼寝、昼寝が終われば近所の図書館に新聞を読みに行く生活を送っていた。
その日、図書館からの帰り道、その人は街角の掲示板の前に足を止めた。
その人は右を見、左を見、辺りに人影がないことを確かめた。
すると、ゆっくりと手提げ袋の中から、「危険だ!注意しろ!」と書かれたA4のコピー用紙をとりだして、セロテープで掲示板に貼り付けた。
その人は、貼り付けると直ぐにその場をゆっくりと、ただ通り過ぎるように離れて行った。
自宅に帰るのかと思ったが、その人は途中の公園の空いたブランコに腰を掛け、ポケットの中からゴールデンバットを一本取り出し、ライターで火をつけた。
空を見上げるでもなく、ゆらゆら揺れるブランコの上でふーと大きな煙をはき、その人の目は見えない何かを凝視していた。
一本のタバコは直ぐに吸い終わり、その人は吸殻を携帯灰皿へしまいこんだ。
重たい腰を上げ、その人は自宅へ向けて歩き出した。
そんな生活が随分続いているが、その人に何が危険なのか、何に注意すればいいのか、誰も聞いた人はいなかった。
そして、その人も、それ以上何も、語ろうとはしなかった。
「危険だ!注意しろ!」
意外は。

やんごとなき事情で、一日遅れの公開。
サラリーマンに
一週間に一本はなかなかもって、きついですね。
今回は、雰囲気を書いて見た。
なんとも言えない空気を感じていただければ、とりあえず成功か?
セロテープで貼る所は、結構気に入っています。

風にそよぐ草花...ヒーリング...ありがとう!の気持ちを込めてガラセロテープ ハーブフ…

牛乳タンクローリー

幾分長い信号待ちから、信号が青に変わってしばらく走ると、私の車は、鏡のように磨かれたタンクローリーのタンクの後ろを走り始めた。
緩やかなカーブで、タンクの横に「・・・牛乳」の文字が見えた。
この辺りにある牧場から牛乳をしこたま積んで出てきたらしく、重たそうだ。
タンクはステンレス製で、その表面は辺りの景色を映しこんで光っていた。
前を見ると、自分が運転している姿がタンク後部の凸面に写り込み、流れる車窓と共に見えていた。
タンクローリーの凸面を見ながら運転していると、実際の運転の感覚がずれそうになる。
運転ゲームでもしているような錯覚が襲ってくる。
そのたびに周りへ視線を移し、現実にアクセルを踏んでいる感覚を取り戻した。
それでも、田舎の一本道を走っているせいか、タンクの中に吸い込まれそうになる。
タンクとの距離を余計に取って離れても、凸面の中の自分が小さくなるだけで依然として見えていた。
いや、見てしまっていた。
信号で止まると、嫌でも鏡を覗くように自分を見た。
運転席に座ってハンドルを握っている姿を自分では見たことがないので余計に気になるのか、いよいよ凝視してしまう。
タンクが動き出し、自分自身を見ながらアクセルを踏んで行く。
ふと、自分がタンクの鏡の中から自分を見ている気がした。
危ない、と思いアクセルを戻すと、遠ざかった。
嫌な感覚が背中を襲った。
タンクの中に閉じ込められ、運転しているのは映った影だった。
タンクから離れないように慎重にアクセルワークを行い、どうしようかと考えた。
まだ目的地は遠い。
そうこうしている内に、車がトンネルに入った瞬間、ふっと、体が車のシートに戻っていた。
急いでスピードを落とし、ハザードを点けると、追いした別の車がタンクとの間に入って行った。
トンネルを抜けると、さっき追い越した車が、タンクローリーにぴったりと、磁石で引っ付いたように走りながら遠ざかった。
私はゆっくりと、路肩に車を寄せて停車した。
自分の手をハンドルから離して、じっくりと手のひらを見た。
指を指でつまんでみた。
不確かな肉体感覚が、そこには存在しているようだった。


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19時発のバス

プルプルプル・・・プルプルプル・・・
携帯電話の呼び出し音が耳障りに聞こえた。
音は、鞄の中から取りだされ、さらに大きくなった。
プルプルプル・・・
「はい。あたし。エー!」
19時発のバスは街の中で人々を吸い込み、通路には隙間なく人が立ち、堤防の上の道路を、ベットタウンへ向けて走っていた。
切られる様子のない携帯電話に、窓際に座っていたサラリーマンが
「うるせー」
と、見えない声へ声を上げた。
「ヤベー。切るよ。あはは・・・」
「だってサー・・・・」
電話ではなくても、女達の声が騒がしく続いた。
「うるせー」
サラリーマンはもう一度言った。
他の乗客は黙って、暮れかけた車窓に目線を送っていた。
バスの運転手が
「他のお客様のご迷惑になりますので、車内ではお静かに願います。」
と、細部がよく聞き取れない車内放送をした。
「ヤベーよ。ははは・・・・」
「それでサー」
女達は、少し声を落として続けた。
と、プルプルプル・・・プルプルプル・・・
再び、電話の呼び出し音がした。
女が電話のボタンを押して耳に当てると、コトンと電話が床に落ち、女は消えた。
女の連れは、床に落ちた電話を拾い電源を切ってポケットに入れた。
停留所に止まったバスの扉がプシューと開き、おばあさんが上がって来た。
座っていた乗客の一人が席を立ち、おばあさんがそこへゆっくりと腰を落とした。
運転手は、ミラーの中でそれを確認し、
「・・・ご注意ください・・・」
と、ゆっくりとバスを発車させた。
車窓に見える家々の窓には、明かりが点き始めていた。

お疲れ様の一日に・・・

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ビジネスホテル

「いらっしゃいませ。」
21時。
うっすら髭の生えた男の受付が、事務的に対応を始める。
私は名前を言って、チェックインを行う。
「代金は先払いとなっております。」
と言われる。
先払い・・・・
どこか信用されていないような感じを受ける。でも、最近はその方が多いのかもしれない。
昔、水戸黄門でよくあった、旅籠代の到着が遅れ、店の手代として働かされる黄門様。
テレビの中では楽しそうに、廊下の拭き掃除をしていた。いや黄門様は風呂焚きか?
私は、その水戸黄門の中で、日本手ぬぐいが、部屋の手拭掛に掛けられた光景を思い出していた。
さて、代金を払いキーを受け取り、部屋へ向かう。
自分の荷物は自分で運ぶ。出張で、スーツに、いつもより多くの物を突っ込んでいるのでより重たく感じる。
ここは、ビジネスホテルなのだ。
部屋に入ると、ドアの直ぐ後ろに、20センチ以上蹴上がらなくてはいけない、風呂とトイレのユニットバスがあり、そこを二歩で通り過ぎると
壁にへばりついた机と、ベットがあった。
机とベットの間は30センチぐらいか?
鞄をその隙間の床に置き、どこでくつろげば良いのか部屋を見回してみるが、椅子はない。
汗みどろのままベットに座るわけも行かず、服を1個しかないハンガーに吊るし、風呂に入ることにした。
裸になって、風呂に入る前、トイレを使うが、
便器に座ったら出入り口のドアに、右足がぴったりとくっつき、足を充分に開けない狭さだ。
左肩の直ぐ横にも小さな洗面台があり、便器にはまったように用を足す。
先程の洗面台で手を洗おうとすると、列車のトイレ備え付けの洗面台とまでは行かなくとも、小さい。
その小ささに合わせて、手を細かく動かして洗う。それでも水が外に跳ねて、神経が休まらない。
バスタブに入って、石鹸を探すがボディーソープしかなく、仕方なく泡立ちの悪いそれで洗う。
体を小さくしながら洗い終わり、洗面台で歯お磨こうと、アメニティーの歯ブラシを空けて使ってみると、太い釣り糸の束で洗っているような感覚を覚える。
とりあえず体を拭いて部屋に戻るが、室温は高いままで、どうも自分で調節が出来ないらしい。
備え付けのスリッパも、風呂上りの汗で濡れ、ひっついてくる。
止まらない汗を、無駄に大きいバスタオルで拭き拭き、さっきコンビにで買った缶ビールを開けて喉に流しこんだ。
テレビをつけてみる。
ベットにやっと腰を落とし、しばらく汗を乾かし、ビールを飲む。
ベットでは寄りかかれる所がなく座りが悪い。
暑いので窓を開けようと思って見てみたが、ここ数年動かした跡がないようなホコリを見て止めた。
500mlのビールは空っぽになった。
次に、旅では不足する野菜を採るために、野菜ジュースを空けて胃に流し込む。
そうこうする内、やっと汗が下火になり、下着を着けて、ベットの上で初めて横になる。
ベットの上掛けがマットレスの下に挟み込まれているのを引きずり出して、寝返りが打てるようにする。
テレビは地元の今日のニュースを流している。
チャンネルをまわしてみるがこれと言った興味を引く番組はなく、有料チャンネルも見てみるが、直ぐに視聴は終わった。
家で見るテレビとは違う?
テレビ画面が目の前にあるので、疲れ目にはきつい事に気づき、消す。
今日の仕事を思い出し、明日もきつくなるだろうと想像する。
この部屋で休むしかないのだが、疲れが取れるような気がしない。
ふーっと息を抜いてみるが、部屋の狭さで跳ね返ってくるような感覚がする。
ホテルの廊下を、運動部の学生の団体か?妙な敬語で話し、笑いながら歩く音が部屋のドアの直ぐ外に聞こえる。
隣の部屋の咳払いが聞こえる。
仕方なく、観もしないテレビをつける。
部屋の明かりを消して、跳ねるベットに横たわる。
やれやれ・・・・・。
明日も大変だ。
夜中に目が覚め、時計を見てみると、2時を過ぎた頃だ。
寝汗をかいているので、下着を替える。
部屋の外の廊下から、笑い声と、ドアをコツコツ叩く音、次にバタンと閉める音がしては消えていく。
どうやら、学生達は楽しい夜を過ごしているらしい。
それから、私は便所にはまって用を足し、机に足をぶつけながらベットに戻り、眠れないままの目をそれでも閉じて、うつらうつらと朝を迎えた。

昔ながらの手拭掛け。
昔は、お客さん用に用意してある家が多かったようです。
便利です。

手拭掛け443yk

ボクサー

ドス!
俺のボディーに、入れやがった。
ちくしょう!いいセンスしていますねえ。
右、右!
なかなか手ごわいやつだ。
いや、手ごわいに決まっている。
なんたって、世界ランカーだもんな。
俺は、普通の格下ボクサー。
バス!イテ!。
ジャブ当ててくるねえ。
俺も、反撃。
右、左。ドス!
当たったぜ。
でも、効いてねえな。
俺もそんなに効いてねえけど、痛いよな。
足はまだまだ動くねえ。
セコンドが何か言ってらあ。
何?聞こえねんだよ。
やってるのは俺。
横から口出すなって!
グワン!イテ!
鼻、ぶちやがった。
鼻血出ちゃうよ。もう!
俺もお返しだ。
グワン。くそ!
外されてカウンターもらっちまった。
あれ?
足がふらつく?
やべえやべえ。
距離を取ろう。
シュシュ!
ほら。
いいジャブ入ったぜ。
俺だってそこそこやるんだって。
ハアハア。
結構、息があがってきたか?
鼻血出ちゃ、息が苦しくなるからな。
まあ、未だ出てねえようだ。
そろそろ。
カーン。
おお、ラウンド終了か。
俺が座ると、セコンドが水、ワセリン、パンツ、肩、
F1のピットさながらにメンテナンスしていく。
「いいぞ。この調子で攻めていけ。やられたら距離。いいな!」
おやじさんが耳元で叫ぶ。
しかし、なんでこんな因果な商売しちまったんだろうな。
これしか出来ねえと言えば、納得するかもしれんが。
殴って殴られて。
まあ、どんな商売も一緒か?
「ジャブ。効いてるか!」
おやじさんに聞いてみる。
「ああ、効いてる。お前のジャブ効いてる。」
もっと、俺を褒めろって。
たださえ弱気になっちまうんだから。
いつか言ってやろう。
カ-ン。
さて、仕事だ。
シュシュ!
ジャブ!ジャブ!。
おら!おら!
逃げてんじゃーねえぞ!こら!
バス!
うっつ!
バス!
おおおお。
目に力が入らねえ。
おい!
おいら、何で座ってんだ?
レフリー手ばっかり振るなって!
仕事、終わったか?
情けねーな。
そう言えば、ファイトマネーいくらだっけ?
次、次。
仕事だもんな。
しょーがねえ。
ふーーーー。

仕事ってタイヘン。
ゲームは、楽しい。
Wii Sports ボクシングできるようです。

Wii Sports