化粧

彼女はトイレで化粧を直している時に、その異変に気がついた。
化粧が全く落ちなくなっていたのだ。
それは、鏡の横の女性にも起きていた。
彼女は上塗りをして隠したが、帰宅後クレンジングを使った時にそれははっきりとした。
化粧が皮膚にはりつき、全く取れなくなっていたのだった。
それは、彼女だけの異変ではなく、着けたテレビのニュースで既に流れ出していた。
そのテレビで、全世界的に起こっている現象だと、彼女は知ることになった。
祭りの最中だったものは、ふざけた化粧がそのまま顔に張り付いていた。
反対に、綺麗に化粧していた女性は喜んだ。
化粧をほとんど行わない男性は傍観者となった。
科学者は、太陽の活動がある放射線を放出し、それが元で化粧が化学反応を起こし皮膚と同化してしまったのではないかと言った。
そして、皮膚が生まれ変わる過程で、化粧も消えて無くなるのでは?と楽観的観測を述べた。
しかし、数ヶ月経っても全く取れないことが分かると、全世界に失望の声と喜びの声が同時にあがった。
失望した者達は化粧の上塗りを試みたが、下地そのものが化粧の為どうしても上手く化粧は出来なかった。
企業は化粧の上から綺麗に化粧が出来る商品の開発を始めた。
しかし、化粧のベースが出来ていない上に化粧を乗せるのは難しくその開発は難航した。
男性の間では、女性の本当の顔についての議論が沸き起こった。
「化粧を含めて本当の顔である」と言う意見と「化粧が落ちた時が本当の顔である」
と言う議論は元々あったが、
「落ちなくなった化粧は、顔の一部と考えられる。よって化粧をした顔も本当の顔である。」
「いや、あくまで化粧なので、本当の顔はその下、又は化粧をする前の顔である。」
「いや、顔と化粧が同化した事により、本当の顔自体、顔の存在そのものがなくなったのだ。」
などの様々な意見が出た。
テレビのワイドショウでは哲学者、評論家、ファッションデザイナー達が気楽に様々な意見を戦わせた。
しかし、身分証明書等を扱う場所から、実社会に徐々に混乱が発生しだしていた。
入国審査時に、パンダの化粧をした人を通すか通さないのか?
証明書の顔と比較しようにも、化粧が判断の邪魔をしてしまい分からなくなっていた。
また、手にも化粧を施していた者は指紋もぼけてしまっていた。
そして、本人確認が必要なちょっとした手続きも滞る事態が発生しだした。
多くの役人達は全ての判断を停止せざるを得なくなった。
混乱はいよいよ政治的判断で決着する必要性が高まった。
国連に世界中の首脳、哲学者、知識人が集まり、1ヵ月議論に議論が重ねられた。
そして出された結論は
「本当の顔とは哲学的議論であり、判断は個々の自由とする。
であるので、大いに、好きに、どんだけでも、化粧をしてよろしい。
そのため、証明書の写真が役に立たなくなる事は仕方なく、今後一切の証明写真を廃止する。
つまり、人類は顔で、その人か否か、一度会ったか会っていないか等、判断をしない事に決定した。
これは今後、一切の裁判等の目撃証言が無効であることを意味する。
目で見る顔は、もはや個人を特定する為には使用できない。
個人を特定する為にはDNAしかなく、今後一切の証明にDNA情報を埋め込んだICチップを用いる事とする。
また、犯罪等の抑制の為、その携帯を義務とし(体に埋め込む方向で考え)、全てのゲートには自動でチップを読み取り記憶するセンサーを設置する。」
というものであった。
その頃、太陽では・・・・・
新たな核融合が起こり、人類のDNAに深刻な影響を与える放射線を放出し始めていた。

本当の顔とは?

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