私がラジオを聴いていると、友人がやってきて、
「モノラルは古臭くていけない。ステレオに変えよう。」
と言った。
「ステレオもモノラルもちょっと音が違うだけなのだから、どっちでもいいではないか?」
と問うと、
「いや、ステレオでないといけない。そもそも人間の耳は二つあり、基本的に両方違う音を同時に聞いているのだ。」
「違う音を聞いていたって、頭の中では一緒になるだろう。」
「一緒にはならない。二つの目で物を見ると立体的に見られるように、音の奥行きが発生するのだ。」
「つまり、私は2次元の音を聞いている?と言うことか?」
「そうだ。2次元と3次元では世界が違うように、音に奥行きが在るか無いかは天と地の差がある。」
「そう言うが、音楽はそもそも空気の振るえ。つまりリズムとメロディーではないか。
つまり、左右で違ったとしても、基本的なものは一つではないか?」
「違う。両方の耳で聞こえたものをその様に再生する事でより臨場感が感じられるようになる。」
「お前は、より多くの情報がより多くの感情をもたらすと考えるのか?」
「極論ではあるが、間違いではなかろう。」
友人は少し得意げに言った。
「そうかも知れない。しかし、だからと言ってステレオがモノラルに勝るとは言えないと思うのだが?」
「そうだな。価値に絶対はないからな。」
「つまるところ、好き嫌い、又は気にするか否かの問題にまでレベルを下げることができるのではないか?」
「そういうと、身も蓋も無くなるが・・・・」
「であれば、私が先に言ったようにどっちでもいいのではないか?」
「まあそう言われればそうだが・・・・・」
と、友人は私に言いくるめられ、嫌な顔をした。
しかし直ぐに反論してきた。
「しかし、音を3次元化することにより、より表現の仕方が増えることになりはしないか?」
「理屈上そうなるね。」
「そうだとしたら、2次元のままで満足するのはそれでもよいが、可能性を求めるのであれば3次元、つまりステレオではないか?」
「確かにそうかも知れない。右から左、上から下へなど立体的に表現できればそれだけ幅が広がり、人間の感情を直接刺激できるからね。」
「そうだろう!」
友人は、勢いづいた。
「しかし、確かニーチェが言ったと思うが、音楽はある意味で大変危険なものではないか?」
「と言うと?」
「感情に直接及ぼす影響が大きいと言うことではないかな?」
「具体的に言うと?」
「例えば突撃ラッパ。一時、人間から善悪、死の恐怖を忘れさせる。」
「確かにそうだな。ある音楽を聴くと感情が音楽に掴み取られ、左右される。」
「であれば、むしろ我々はモノラルで感情を防御する方が良いのではないか?
お前はお前の感情に土足で入ってくるやつの方が好きなのか?」
「そう言うと苦しいが・・・・・そこまで考えて聴かなきいけないのも疲れると思うけど・・・」
「詰まるところ、好みだろうけどな。」
「まあそうだね。」
友人は納得したようではあったが、話の出口には納得していない様子だった。
ラジオからは、「ワルキューレの騎行」が流れ始めたていた。
了
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投稿者: balard
カレー屋さん
郊外の大型ショッピングセンターの駐車場から歩いて直ぐのカレー屋のカレーは、油分が少ないがしっかりとコクがある。
「市販のカレールーは一切使用していません。」
との事だ。
小さなプレハブ店舗の前には、店主が作ったらしい芝生の庭があり、客はセルフでその庭に置かれた席で食べる。
「何が入っていて、どうやって作るの?」
窓口で、お金を払いながら若い女性が尋ねた。
「内緒です。すみません。」
店主はお金を手提げ金庫の中に入れながら答えた。
メニューは、
骨付きチキン、大きなジャガイモがそれぞれ一個入ったさらさらのチキンカレー。
鳥挽肉のキーマカレー。
とろとろの豚バラブロックが2個入ったポークカレー。
レンズ豆を使ったダルカレー。
の4つだけ。どれも600円。
店主は
「始めは基本をしっかりとしたいので。」
と言う。
先ほどの女性客は、チキンカレーの入った器と、コップにスプーンと水を入れたものを手に持って空いている席に座った。
天気のよい日はこうやってピクニック気分で食べられるが、風雨がきつい日は客は車まで持ち帰って食べた。
幸い、ここ数日は秋の晴天で、日曜日の今日も木陰で虫が鳴く気持ちのよい日差しだった。
白いご飯とカレーを一口食べると、香辛料の香が鼻を抜け、程よい辛さが舌を刺激した。
辛さの調節はカイエンペッパーのスープで行っているらしい。
女性は鞄からカメラを取り出して、一口食べたカレーを写真に収めた。
どうやら、期待に沿ったらしい。
そして、カメラを脇に置くと、再び食べ始めた。
女性の斜め前の席には、若いカップルが食べていた。
「ちょっとちょうだい。・・・・・からー。何辛?」
「大辛。美味しいんじゃない?」
「そうね。油でもたれないしね。」
「何が入っているのかな?作れるこれ?」
「そうねえ。出汁はきちんと採らなきゃいけないと思うわ。コクの素だから。後は基本的に具はミキサーでペースト状にしてと言う感じじゃないかしら。
スパイスの基本はパプリカとターメリックと胡椒とカイエンペッパー、唐辛子ね。後は塩が大事じゃないかしら。
生姜とニンニクもたくさん入っていると思うわよ。」
「今度作ってみてよ。」
「いいわよ。その代わり、後片付けは・・・・」
「やるやる。」
男は、スプーンを止めることなく口に運んだ。
「ご馳走様。美味しかったわ。何処に返せば?」
「こちらで頂きます。」
と、プレハブ店舗で店主は客から皿を受け取った。
「何処に行こうか?」
「そうね。お腹も膨れたし、街にでも出てみる?」
客は満足そうにカレー屋の庭を後にした。
了
最近カレーがマイブーム。
スパイシーでコクのあるさらさらのカレーが大好きです。
ホットなドライカレーも。
カレーのすべて
神様のお酒
今は昔。
お爺さんが濁酒(どぶろく)を仕込んでいる最中、重たいカメを持ち上げた時ぎっくり腰になった。
婆さんは畑に行っており、お爺さんはカメを下ろすに下ろせず困りはて、額からは脂汗が流れ出していた。
そんな時、お爺さんがふと神棚を見上げて再び目の前を見ると、白い着物を着た子供、未だ五・六歳の男の子が立っていた。
「坊主、誰か呼んで来てくれ。」
「そのカメを下ろしたいのか?」
「たいのだが、お前さんじゃ無理だ。誰か呼んで来てくれ。」
近所の子供にしては見覚えの無い顔の子供だった。
「貸してみろ。」
子供はそう言うと、軽々と爺さんが一抱えにしていた濁酒のかめを両手で持ち、
「どこにおくのだ?」
と聴いてきた。
「水がめの隣に置いてくれ。」
やっと腰を下ろせたお爺さんは、その場にへたり込んだ。
「これでいいのか?」
「有難う。ところで坊主、ドコノ子だ?」
「おいらは神棚の神様だ。お前さんが助けてくれと言うから出てきてやったのだ。」
小さい神様はそういうと、布団を敷き、爺さんをひょいと持ち上げ軽々と運んで寝かせた。
「さて、次は何をしようか?」
「濁酒の仕込みも終わったことだし、婆さんが帰ってくるまで遊んでおいてくれ。」
そう言われると、小さい神様は外に飛び出し、遊びに行った。
晩飯時になると、小さい神様はきちんと帰ってきて、お婆さんの作ったご飯をたくさん食べて直ぐにすやすやと眠ってしまった。
それから、お爺さんとお婆さんは、神様を大変かわいがって育てた。
小さい神様はぐんぐんと大きくなり、一年も経つ頃には立派な青年になっていた。
青年になった神様は畑仕事もこなし、村の仕事もテキパキとした。
そして、やること成す事全てにおいて、間違いが無く、完璧にこなした。
やがて村人達の噂は広まり、近隣の村人達も青年の神様の元に集まり万事相談するようになった。
そんな月日が流れたある日、青年の神様はお爺さんとお婆さんに
「そろそろ私は結婚相手を探しに旅に出なければなりません。
神棚の神様は、ちゃんと次を手配しておきましたので心配は要りません。
長い間有難うございました。」
と打ち明けた。
お爺さんとお婆さんは大変悲しんだが、神様の都合も都合なので、
「いい相手が見つかるように。そして、いつかまた縁があれば。」
と青年になった神様に言った。
神様は、酒が大好きなお爺さんとお婆さんに
「これは私の国の、お酒の素です。次に濁酒を仕込む時に是非お試しください。」
と一袋のお酒の素を渡した。
そして青年の神様は、村人達に惜しまれながら旅立って行った。
あくる年、お爺さんは神様に貰った酒の素で酒を造ってみた。
出来上がってみると、なんとも言えない美味しいお酒が出来上がった。
自分一人で飲んでは勿体無いので、お爺さんとお婆さんは村人達にも分けて、皆で飲んだ。
それからその村は酒どころとなり、酒を飲んだ村人は、決まって長生きをしたそうな。
了
湯豆腐の季節となりました。
美味しい日本酒と、はふはふの湯豆腐を食べたいですね。
京都のある湯豆腐屋さんの仲居さんに教えてもらった
自宅での湯豆腐の美味しい作り方は、
豆腐は湯だって一分程度でちょうどだったような記憶です。
ぐつぐつやらないで、出来上がったら火から下ろして、又は火は小さくして食べましょう。
日本酒は純米。
アー極楽極楽。
京都全日空ホテル
砂金
工場の生産ラインで働いていた職人が、扇の要を外したように頭から崩れ、足元には一山の砂金が残っていた。
工場長は経営者に報告したが無視され、生産ラインは止まらなかった。
しかし、次の週も同じように、二人の職人が砂金になった。
その次の週になると、雪崩を起こしたかのように全ての職人が砂金に変わり、生産ラインは完全にストップした。
強欲な経営者は事業をたたみ、手にした砂金で豪邸を建て、優雅な生活を始めた。
テレビのニュースでは人間砂金化事件が連日報道された。
「砂金が誰の物か?」
が大きな問題となり、事件の特異性から連邦会議で議論された。
しかしなかなか結論は出ず、街の工場・生産現場では人間砂金化事件は次々と起こっていった。
造幣局でもそれは起こり、国家の紙幣・貨幣は生産がストップした。
暫くすると世の中から物が無くなり、トイレットペーパー一巻きが砂金1kgとなった。
しかし、直ぐにトイレットペーパーは世界中から無くなった。
薬も、ガソリンも、食べ物も、作られるもの全てが無くなった。
人々の間に誰かが秘匿していると疑心が起こり、強盗・殺人が起こりやがて国家間の戦争が始まった。
始まって見ると、稀に密かに隠している物が見つかり益々戦闘は激しくなった。
しかし、やがてそれも終わりを告げた。
人々は食うに困り、物に困り次々と倒れ死んでいった。
死体はやがて骨まで風化し、風がもち去った。
そして人類が滅亡したその時、一粒の砂金がピクリと脈打ちだした。
了
プロレタリアートなものが書きたくなって
書いていたら安部公房の「洪水」の習作となってしまったもの。
安部公房全集(030(1924.03ー199)
村人と賢人
ツァラトに弟子のアイヘンが尋ねた。
「師は諸国から仕官を請われていますが、全て断っています。どうして仕官しないのですか?」
それに対し、ツァラトは
「昔々、村人に酋長への就任を請われた賢人が言った。」
と語り始めた。
「貴方方は忘れてはいけない。私が強く貴方方に請われて酋長になることを。
そして、これから先必ず貴方方は私を石の礫(つぶて)で追い払うことを。」
「そんな事は絶対にない!未来永劫貴方がこの村の酋長だ!」
村人達は声をそろえて賢人に言った。
賢人は目をつむって考えた。
しばらく沈黙が流れ、村人の視線はいっそう強く賢人に注がれた。
やがて賢人は目を開けて
「一年。一年間だけ引き受けよう。」
村人達は狂喜乱舞し、7日間の宴が開かれた。
その歳の春は暖かく、宴会の頭上には桜が満開だった。
それから1ヵ月、長引く梅雨に村人は頭を抱え始めていた。
「これでは作物が育たない。どうすればよいのか?」
賢人の所に村人は教えを請いに集まってきた。
賢人は、
「この雨は必ず上がり、夏が必ずくるので心配は要らない。
それよりも崖下や、沢の近くに住んでいる人は万が一のことがあるので集会場や、親戚の家などに非難するように。」
と言った。
その日の夜、激しい雨が降り、がけ崩れが起き、避難していた村人は助かった。
村人達は賢人をよりいっそう敬った。
梅雨がようやく終わり夏が来た。
しかし中々暑くなりきらず、農作物の成長は遅れた。病害虫がはやりだした。
再び村人は賢人の元へ集まり、教えを請うた。
「畝の溝をより深く掘り、排水を良くしなさい。また、一番良く生った物は来年の種として食べないで取って置きなさい。次第に冷害に強い作物になっていくだろう。」
村人は賢人の言うとおり、溝を深く掘り、排水を良くしたおけがで根ぐされ等はなく飢饉にはならなかった。
益々賢人への尊敬は強くなり、中には神さまとして拝むものさえ出だした。
例年より早く秋になると、野山の果実は色づき、少ないながらも収穫を祝った。
「賢人様。来年はこれよりももっと多く収穫できるかな?」
村人が問うた。
「それは分からない。天のみ知る。」
賢人はそう答え、村人が酌む杯を飲み干した。
賢人の好むと好まざるとに関わらず村人は賢人を崇めた。
秋が終わり、冬がやってきた。
村から見える北の山に雪が積もるころ、村人達は少ない収穫を少しずつ食べ、寒い冬を耐えすごした。
村に雪が深く積もる頃、ある村人が賢人に助けを請うた。
「食べ物を全部食べてしまい、来年に蒔く種も食べてしまった。どうすればよいか?」
「他の村人は余裕は無いながらも充分に冬を越せる。どうして貴方は越せないのか?」
と賢人は問うた。
「分かってはいてもお腹いっぱい食べたいのでつい食べてしまった。」
ツァラトはそこまで語って
「アイヘンならどうする?」
と、アイヘンに尋ねた。
アイヘンはしばらく考え
「村人を集め、幾ばくかの食料を村人達に分けてもらいます。」
「それが良かろう。して、罰はどうする?」
「村の仕事をやらせます。」
「それも良かろう。」
ツァラトは話を続けた。
賢人は村人を集めアイヘンが言ったように食料を分けてもらった。
そして男に
「3日ごとに私の所へ食料を取りに来なさい。また、食料を分けてもらった分、村の仕事を無償で行いなさい。」
と言った。
「なるほど。そうすれば全部食べてしまっても3日ごとだから大丈夫ですね。
でも、どうしてそんな賢人が村から追い出されるのですか?」
と、アイヘンは尋ねた。
「そこなんじゃ。」
村人達は賢人のそんなやり方にいたく感心して益々尊敬したが、中にそんな賢人を快く思わなかった人達がいた。
それまで村を治めていた者達は、賢人が敬われれば敬われる分逆に、村人達から蔑まれるようになっていった。
お株が下がってしまったのじゃ。
そうなると、このままでは納得しないものが出てきて終には賢人のよからぬ噂を流し始めた。
よからぬ噂は村人達の間に直ぐに広まり、賢人はつるし上げにあってしまった。
賢人がいくら弁明しても全く相手にされず、結局賢人は村人達から石を投げられつつ村を去って行った。
「と言う結末じゃ。」
「よからぬ噂は何だったんですか?」
「賢人が3日ごとに与える食料から少しずつ抜き取って横領したと言う噂だよ。
愚人はそう言えば食料をもっと多く貰えると言われてそう証言した、と言うことは誰でも思いつく事だと思うが、
村人は賢人の悪い噂を決して止めようとはしなかった。詰まるところ、噂の中身はどうでも良かったのじゃ。」
「なるほど・・・・そういう性向はありますね。」
とアイヘンは頷いた。
「千慮一失。賢人は予言どおり石の礫(つぶて)で追い払われたというわけじゃ。」
了
物語の中の物語。
こうすることで、より自由に物語に介入できる。
子曰く・・・・・
古典は上手に書いているなと思いますね。
こども論語塾
草刈
高速で回る丸い刃が、草をブンブンと切っていく。
地区の草刈と言うわけだ。
いいのか悪いのか晴天。1・2時間程度の肉体労働。
取りあえずここからあそこまで刈ってしまえば、自分の分担範囲は終わりだ。
と思っていたら、大きな石でもあったのか、チッン!という音がして、刈払機が跳ねた。
気になって足で草をどけて見てみると、錆が浮いた甲冑の兜だった。
後ろの誰かに言おうと思って振り返ると、一面緑の丘で誰もいない。
さっき刈ったはずの草は、私の膝下程度まであった。
息をすると、草の濃い匂いが鼻をこじ開けた。
私は刈払機のエンジンを止めて、360度ぐるりと見た。
静かな風の音が耳に入るだけだった。
山の稜線には見覚えがあった。
誰もいない。
私は麦藁帽子の下から青い空を見上げた。
いつかどこかで見たような、デジャヴ。
上を見たためか、頭の血液が潮が引くように薄れていく。
体の力が入らず視界が薄れていった。
目を開けると、看護婦の後姿が見えた。
戻ってこれたと言うわけか。
私は深く息を吸い込んだ。
クレゾール消毒液の匂いが鼻腔に染みた。
「大丈夫ですか?」
と、私を覗き込んで言った医者の頭が丁髷(チョンマゲ)だった。
了
草刈の時いつも空想してしまう事をどうしても書いてみたい。
と言うわけで、これは空想。
どんな意味があるのか?
どうして空想してしまうのか?
そろそろ京都が懐かしくなってきた
ウェスティン都ホテル京都
ダイジョウブ。
ロータリー制の広い広場をぐるぐると自転車で回っていた。
ヨーロッパの広場で、目に付くのは異国の人達だ。
私が探していたカフェが見つかり、その前を通り過ぎた。
私には連れ合いがいて、ちょうどこのロータリーへ入る前、黄色い玄関の前で
「見てくる」
と言って私だけロータリーへ漕ぎいれ、くるくると見て回っていたのだ。
黄色い玄関・・・黄色い玄関・・・・
と思って探しているがなかなか見つからない。
何処かの角を入るのだったのか?
少し私はあせりだした。
一周回ってしまったらしく、さっきのカフェの前を再び通り過ぎた。
カフェの中で客は、名物のチョコレートケーキを食べている。
私の姿は彼女からは見えているのだろうか?
声でもかけてくれれば助かるのだが、こう車が走っていては声は届かないか?
カフェを通り過ぎると街路樹の間にベンチが置いてあり、
日がな一日本を読んだり、寝たり、とにかくベンチ上の人々は動かない。
その前をまた、自転車で通り過ぎた。
二度目となると、眼鏡越しの興味の対象になるらしく、複数の視線が私に注がれた。
どうやら黄色い玄関の前の彼女を見失ったらしい。
彼女の方が動いてしまったのかもしれなかった。
いや、黄色い玄関を見失ってしまったのだ。
これは悪夢なのだろうか?
私はもう一度と、自転車をゆっくりと漕ぎ出した。
目的のカフェは彼女も知っているはずだから、最終的にはそこで待つしかないかも知れない。
彼女の白いヘルメットがいないか、私は辺りを探し続けた。
と、黄色い玄関が、あった。
カフェから一ブロック漕いだ所にそれはちゃんとあった。
大きな白いワンボックスがその前に停められてしまい、見えにくくなっていただけだった。
彼女の顔を見つけた私の顔から、不安が消え去るのが自分でもわかった。
私は手を上げて彼女に合図を送り、黄色い玄関の方へ漕いで行った。
「場所が分からなくなったかと思った。この車の陰になったので見えにくくなっていて・・・・・」
「ダイジョウブ。」
彼女は何もなかったように微笑んだ。
了
今回は、夢を題材にしてみたものです。
最初の題名は
-夢ではぐれて-
でした。
楽天で探してみると・・・・・・
やってる人はいるのですね!?↓
ヨーロッパ自転車旅行。
面白そうです。
定年欧州自転車旅行改訂版
夏夜の列車
真夏の白光が車のボンネットを照らし、車内のエアコンは冷気を出し続けていた。
車がカーブに差し掛かったとき、彼の目に、歩道のフェンスを包み込んだ緑の茂みが映った。
緑の向こうに鉄道のトンネルが見え、彼の脳裏を昔の記憶が占領した。
各駅停車のディーゼル車。何処かの駅でその列車は退屈な待ち時間をすごしていた。
そのキハ系といわれる列車の、4人がけの席に彼は乗っていた。
彼は未だ小さく、小学生だろうか。
少年の前には父親らしき人が、くたびれた様子で車両に頭を傾け眠っている。
重い窓は中ほどまで開けられ、夏の夕闇の匂いがディーゼルの匂いと共に入ってきた。
向こうの山の更に向こうの方で、雷が遠く鳴っていた。
少年はしばらく窓から駅のフォームを観ていたが、退屈のあまり立ち上がり、列車の後ろの方へ歩き出した。
連結部分の扉は子供には重く体を預けてやっと開いた。そのくせ、手を離すと直ぐに閉まった。
一両、二両と行くと最後尾にたどり着いた。
客は二人しか乗っていなかった。
車掌が退屈そうに列車の外で立っていた。
「未だ出発せんの?」
「あと10分かな。」
車掌はその質問に嬉しそうに答えた。
「座席にほってある漫画読んでいいん?」
と彼が質問した。
「ああ、いいよ。」
車掌は幾分気を削がれたように答えた。
少年は礼を言った後、空いた席に置いていかれた少年漫画を手にとって、窓の開いた席に座り読み始めた。
「ぼく、何年生?」
乗客の一人、通路向こうに座っていた三十前後の女が少年に話しかけた。
少年が答えると女は適当に感心して
「何処まで行くの?」
と聴いてきた。
しばらく質問を続けたが、女は諦めて窓の外を見た。
少年は漫画に集中し、ページをめくった。
ディーゼルエンジンの重たい音の中に、夏の虫の音が混じり始めた。
いつの間にかフォームには蛍光灯の明かりが点り、山は黒い影しか見えなかった。
車掌の吹く笛の音がして、列車のドアが遠慮がちに動き、一旦止まって、ゴソッゴソと閉まった。
エンジンがうなり、ゆっくりと列車が動き出した。
少年は漫画を座席に置き、再び窓の外に目を向けた。
信号機の音が流れて行き、列車は田舎の街中を通り抜け直ぐに田んぼの中を走りだした。
単調な車輪の音を聞きながら、人家の窓の明かりを少年は楽しんだ。
やがて山間に入り、列車の速度ががくんと落ちた。
と、木々が近くなり列車はトンネルに入った。
ヒヤッとした空気が車内に入り込み、少年は目を細めた。
トンネルの中には黒い蛇のようにうねる配線があった。
反対側が気になって見ると、同じように蛇のよう配線がうねっていた。
さっきの女の人は目を瞑って休んでいるようだった。
彼は、そのままカーブを抜けて、走り続けた。
了
つい先日新幹線には乗りましたが、
キハ系のディーゼル車が非常に懐かしく思います。
明日は選挙ですね。
村上春樹さんは行くのかな?
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律子の情事
彼の手が、律子の頬をやさしく刺激した。
ベットの上で律子は体をくねらせた。
肩から脇、横腹へと手はすべるが、律子の要求どおりに彼の手は動かない。
それが新鮮だった。
高ぶりを求めて大胆なシチュエーションがどうしても必要だった律子だったが、今は違った。
ベットの上にただ身を横たえていれば快感は彼が与えてくれた。
彼の手が律子の求める周辺に来た。
律子はそのまま行ってと願ったが遠ざかっていった。
体が自然と彼を求めて揺らいだ。
腹部に熱く震え、今にも爆発しそうな塊ができていることに律子は驚いた。
それがこれまでにない絶頂をもたらすものであることは自然と解った。
やっと彼の手が胸の頂に触れた時、律子の口から官能の声が漏れた。
そして自らの太ももにヌメル感触を感じた。
今までにない快感に律子は陶酔し始めていた。
彼と優しく口づけを交わした後、律子は何時もなら言えない事を彼に求めていた。
「まだ・・・・・」
彼はそう言って再び律子への愛撫を続けた。
「マグロのようだ。」
と、以前の男に言われたことがあった。
女友達に聞いてみても、それほど自分が不感症だとは思わなかったし、言われるほどマグロでもないと思っていた。
男に「下手くそ!」と心の中では言っては見るが、口には出せなかった。
体が跳ねる・・・・。
律子は敏感に反応する自分の体に驚いた。
彼が女の花芯に触れると律子は自ら体を開いていた。
腹部の熱い塊は次第に大きくなり、律子の頭をしびれさせていた。
耳の下に自らの脈拍が大きく聞こえ、律子は今まで発したことのない声をあげていた。
脊髄の中心を駆ける、とろける様な痺れが脳まで達し、体は自然と反りかえった。
手足にも甘美な痺れは伝わり、律子は彼の手を太ももで挟んでいた。
ゆっくりと動き続ける彼の手を律子は震える両手で制したが、止める事はできなかった。
律子は自分が壊れるのではないかと思った。
胸の鼓動が喉近くに感じられた。
しびれた上に続く彼の愛撫は、律子の自制を突き抜け崩していった。
了
先週は当ブログもお盆休みをいただきました。
さて、今回はぬれ場に挑戦。
書けているか?
うーん・・・・・・・・
スローセックス完全マニュアル
ゴールデンウィークの秘密
始業式で中学二年生になったばかりのショウタがトイレに入ると、タバコの匂いがした。
トイレ奥の個室の前には、見張り役らしき少年(多分新一年生)が一人いて、個室の上からはタバコの煙が流れ出ていた。
それでもショウタは用を済ませ、手を洗ってトイレを出ようとした時、後ろから
「ショウタじゃねえ?」
と声がした。
振り返ってみると、どこかで見たような顔だった。
「俺だよ。ほら小学校の5年で転校した・・・・・」
「ミノル?」
「だろ!」
「えー。帰ってきたの?」
ショウタは驚きと嬉しさで、トイレ奥の不良グループの方へ行った。
一年生の見張り役の少年が、改めて先輩のショウタに挨拶をした。
ショウタは軽く受けて答えたが、鼻をくすぐられるような違和感を感じた。
「一服しない?」
ミノルがタバコを差し出した。
ショウタはタバコを吸ったことはなかったが、興味はあった。それに断る雰囲気でもなかった。
「おれタバコは初めてなんだ。」
ショウタは一本抜き取り口にくわえながら言った。
ミノルはニコニコしながら
「火点けるから、軽く吸ってみて。」
スッと吸うと、先端が赤くなり火がついた。息を吐くと白い煙が出た。別段不味くも美味くもない。
咳き込みもしなかった。
ただ見つかるとやばい、と、心配があった。しかし、幼馴染との再会は喜ばしいことだった。
ショウタは一本吸う間、あれこれミノルと話した。
ショウタがその日見たミノルは、小学校のミノルではなく、ショウタより少しばかり多くのことを経験し、また見ることによって何処となくすれて、
今までとは違う生活を、どう違うのかは言えないけれど違う生活をしている様にみえた。
というわけで、吸い終わると
「また。」
と言うことでショウタはそこから、あっさりと立ち去った。
会話も昔の様にとはいかなかった。
それから1ヵ月ぐらい過ぎ、ゴールデンウィークの最中、ショウタは近所のスーパーでレジに並んでいるミノルを見かけた。
声をかけようとした時、ミノルが棚に並んでいる105円ライターをズボンのポケットに入れた。
ショウタは直ぐに目を背け、そ知らぬ顔でいつもの買い物をした。
そして普通にレジを済ませて家に帰り、冷蔵庫にペプシネックスを入れた。
ついでに冷凍庫からアイスバーを一本取り出し、食卓に座ったまま、居間でテレビを見ている母親の後ろ姿をぼーと見ながらさっきのことを考えながら食べた。
そして、食べ終わった時、真っ当な人には言えない秘密を抱えた事に気づき、溜め息をした。
「それにしても後味の悪いタバコになったな・・・・。」
と、ショウタは小さな声で一人ごちた。
了
遠い昔の夏休み。
青臭い思春期ってものを想像・・・・・・
してみました。
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