帰ってこなかった宇宙人

「もしもし!」
「もしもし!」
叫んでも答えは帰ってこなかった。
「これで俺たちだけになったのか・・・」
ヒューム船長はそうつぶやいた。
 そうつぶやいた10ヶ月と10日前、人類の長年の探索と呼びかけが実を結び、
地球外生物からコンタクトがあり、人類は初めて他者といえる知的生命体と接触した。
 その接し方については、秘密裏に常任理事国の10カ国で
「ある程度は距離を置き、紳士的にすべきであり、また、決してこちらの弱みを見せるべきではない!」
と全会一致で合意に達していた。
 接待役に決まったアメリカではマンハッタン沖のエリス島に宇宙船を停泊してもらった。そして盛大な歓迎パレードがニューヨークを行進した。
 宇宙人はリッツホテルのスイートに泊まり、精力的にニューヨークの視察をこなした。
 病院に行けば、数々の難病を意図も簡単に治療し、大統領主催の歓迎晩餐会歓では
「ほんのささやかなプレゼント・・・・」
として地球の温度を意図も簡単に2度下げてくれた。
 この地球的な貢献に、全人類はこの日を全人類の祝日とし、記念した。
 
 フランスでは、宇宙船はエッフェル塔の展望台に横付けで停泊した。
 マキシムを筆頭に連日連夜の三ツ星フレンチにさすがの宇宙人も驚嘆した。その調理方法を教えてくれということで、滞在期間を1ヶ月延期したほどであった。
 フランスの大統領は、子供たちからの素朴な質問を宇宙人にぶつけてくれた。
 「本当に宇宙人はいるのですか?」とか「牛とか馬とかを勝手にさらっているのですか?」「UFOって本当に円盤型なの?」「ピラミッドは貴方が作ったの?」とか。
 宇宙人はそれらに疑問を差し挟む余地がないほど丁寧に答えてくれた。フランス大統領は我を忘れて聞き入った。
 ちなみに宇宙人も「モナリザ」がすばらしい!と絶賛した。フランス国民はいたく友好ムードになった。
 そのころになると常任理事国の秘密裏の約束はなかったの様に忘れ去られた。
 イギリス、イタリア、ドイツ、ロシア、インド、中国、日本等などの国々をゆっくりと歴訪した宇宙人は全人類から、名誉地球人一号の栄誉を送られるにいたった。
 そんな、ムードの中である一人の宇宙船の船長ヒュームだけが何か違和感を感じていた。彼は、宇宙人の随行の仕事を命じられ一番長く宇宙人と接した一人だった。
 その違和感を視聴率の悪いTVのインタビューで述べたところ、その視聴率は一瞬にして上がり、ヒューム船長への抗議は一瞬にしてアメリカ大統領の耳に入り、ヒューム船長はインタビューが放映されてから1時間という異例の速さで、「偏見に満ちている!」という理由で月基地の倉庫番へ左遷された。
 ヒューム船長は月基地でも冷遇された。実際ヒューム船長の意見
「信用信頼すべきではない。」
は、宇宙人の実績からすると偏見でしかなかった。
「命の恩人に対してなんと言うことを!」
というメールを何万通も彼は受け取った。しかし、ヒューム船長は自分の意見を曲げることはなかった。
 宇宙人への何でも質問が再び行われ、ある子供が
「ヒューム船長をどう思いますか?」
と聴くと、宇宙人は
「彼はとてもよい人です。しかし、残念ながら私とはうまくやっていけそうにはありませんでした。今は月基地の倉庫番をされているそうですが、彼の船長としての腕前は一流です。たった一つの意見の相違で左遷されるのは良くないと思います。是非とも彼の能力を世界の人々の役に立ててあげてください。そうすることが彼の幸せであると思います。」
と答えた。それから一時間後、ヒューム船長は再び船長の役職に戻されていた。
 宇宙人が来てから10ヶ月が経過し、そろそろ宇宙人は一旦帰るという事になった。
盛大なパーティーが開かれ、宇宙人は地球人の大合唱で送られた。ヒューム船長は月の宇宙船ドックのモニターに映し出された映像をしばらく観ていたが、依然として宇宙人への信用は生まれなかった。理由を聞かれても答えようがないのだが、ただの感なのか、生理的なのかとにかく彼の中では怪しいままだった。
 宇宙人が去った後、異変はすぐに現れ始めた。地球の温度が3度、4度と急激に落ち始めたのだ。そのスピードは速く、その異変が報道された翌日には全球が真冬になっていた。
 物理学者は、宇宙人が急激に2度気温を落とした為に生じる一時的な異変であるとしたが、その翌日には地球の気温はマイナス10度にまでなった。
 南国の人達へは援助物資が運ばれ対策が採られたが、月から観る地球は海の半分が凍っており、取り返しのつかない事態になりつつあるのがわかった。
 月からは何の手も差し伸べようがない絶望感がヒューム船長ら月基地にいる人達を襲った。
 そししてあれから10月10日目、地球のあらゆる物が凍てつき果てた。地下5キロに作られたアメリカ大統領のシェルターにも冷気は入り込んだらしく月との交信が途絶えた。
「もしもし!」
ヒューム船長は月基地の皆が見守る中、再び叫んだ。