黒い煙

堤防沿いの片側二車線道路。夜九時ともなればぐっと車両が少なくなり、制限速度の60キロは名目だけの数値になっていた。
1日街で働いた彼が先頭で信号待ちをしていると、次々と川向こうの土手から橋を渡って自動車が流れてくる。
ヘッドライトが後方へ勢いを増して流れていく。
車両が少なくなったと言っても、朝のように時速50キロそこらで繋がって走るのではなく、80キロ程度の速度で走れる程度の交通量だ。
言うなれば、全くストレスなく飛ばしていける道だ。
彼の後ろにも、次々と車両が詰まってきた。
彼は、カーステレオのCDを換え、ロンリーヒルの「ミスエデュケーション」を挿した。
スピーカから街の音が聞こえ出し、それがロンリーヒルの歌声に変わる頃、信号が青に変わった。
彼はファーストのギアにクラッチを合わせるとアクセルを踏み車を発信させた。
ヘッドライトが中央分離帯を照らし出した。
セカンドに入れる。
隣のクラウンが車両の前方を上に突き出しながらエンジンを吹かして前方へ離れていく。
直ぐに三速に入れ、四速、そして5速に入れる。
クラウンの後を大型ダンプが食らい着くようについていった。
大方、帰社を急いでいる運ちゃんなのだろう。
秋の冷たい夜風がロンリーヒルにあっているような感じだ。
空気が乾いているせいか、安物のステレオ音がワンランク上の音のように聞こえた。
確かに、いい音はいい。
堤防二車線を走り続けた。
途中再び信号に引っかかった。
先程の大型ダンプの後ろに、大きなジープが一台着いていた。
いつの間に抜かされたのだろうか。
それともわき道から出てきたのだろうか。
信号がダンプの陰になっているので見えない。
そろそろ青かなと思った頃に、動き出した。
ジープから吐き出された真っ黒な煙が見えたので窓を閉めた。
この先は1車線になる。
斜め前のワゴン車がジープの斜め前で左のウィンカーを出している。
ジープとダンプの間隔は1メートル程度だろうか。
ジープがブレーキを踏めば自分もブレーキを踏むだろうと彼は思った。
が、実際はブレーキを未だ踏んでいない。
ジープと彼の車も1メートル程度の間隔で、ワゴン車の割り込む余地は無かった。
ジープも未だブレーキを踏まない。テールランプは白のままだ。
彼は尚もジープの後ろにぴったりとついて走っていた。
ワゴン車は左のウィンカーを点けたまま次第に左に寄って行った。
ジープがけたたましくクラクションを鳴らした。
彼はブレーキを少し踏んだ。
なおもワゴン車はジープの前に強引に割り込もうとしていた。
もう少しで一車線なので、車2台がほぼ1車線に並んで走っている状態だった。
危険を感じた彼はブレーキを強く踏み、ジープとの間隔を広げた。
ワゴン車はジープの前しか目に入っていないのか、なおも強引に左に寄っている。
再びジープがクラクションを鳴らし、ワゴン車のテールランプが赤く点った。諦めたようだ。
そして直ぐにジープの後ろのスペースに気づき、彼の前に滑り込んだ。
彼は再びアクセルを踏み、ワゴン車の後に続いた。
彼の車のロンリーヒルはエックス-ファクターを歌い始めていた。

秋のドライブがモチーフ。
黒い煙にまかれないようにしたいものです。
小説はロンリーヒルのアルバム、効果音が秋の虫の鳴き声のように
響く事が知っている人には効果あり。
しかし、小説に音楽を登場させるのって結構プラスマイナスありますね。

ミスエデュケーション

モノラルとステレオ

私がラジオを聴いていると、友人がやってきて、
「モノラルは古臭くていけない。ステレオに変えよう。」
と言った。
「ステレオもモノラルもちょっと音が違うだけなのだから、どっちでもいいではないか?」
と問うと、
「いや、ステレオでないといけない。そもそも人間の耳は二つあり、基本的に両方違う音を同時に聞いているのだ。」
「違う音を聞いていたって、頭の中では一緒になるだろう。」
「一緒にはならない。二つの目で物を見ると立体的に見られるように、音の奥行きが発生するのだ。」
「つまり、私は2次元の音を聞いている?と言うことか?」
「そうだ。2次元と3次元では世界が違うように、音に奥行きが在るか無いかは天と地の差がある。」
「そう言うが、音楽はそもそも空気の振るえ。つまりリズムとメロディーではないか。
つまり、左右で違ったとしても、基本的なものは一つではないか?」
「違う。両方の耳で聞こえたものをその様に再生する事でより臨場感が感じられるようになる。」
「お前は、より多くの情報がより多くの感情をもたらすと考えるのか?」
「極論ではあるが、間違いではなかろう。」
友人は少し得意げに言った。
「そうかも知れない。しかし、だからと言ってステレオがモノラルに勝るとは言えないと思うのだが?」
「そうだな。価値に絶対はないからな。」
「つまるところ、好き嫌い、又は気にするか否かの問題にまでレベルを下げることができるのではないか?」
「そういうと、身も蓋も無くなるが・・・・」
「であれば、私が先に言ったようにどっちでもいいのではないか?」
「まあそう言われればそうだが・・・・・」
と、友人は私に言いくるめられ、嫌な顔をした。
しかし直ぐに反論してきた。
「しかし、音を3次元化することにより、より表現の仕方が増えることになりはしないか?」
「理屈上そうなるね。」
「そうだとしたら、2次元のままで満足するのはそれでもよいが、可能性を求めるのであれば3次元、つまりステレオではないか?」
「確かにそうかも知れない。右から左、上から下へなど立体的に表現できればそれだけ幅が広がり、人間の感情を直接刺激できるからね。」
「そうだろう!」
友人は、勢いづいた。
「しかし、確かニーチェが言ったと思うが、音楽はある意味で大変危険なものではないか?」
「と言うと?」
「感情に直接及ぼす影響が大きいと言うことではないかな?」
「具体的に言うと?」
「例えば突撃ラッパ。一時、人間から善悪、死の恐怖を忘れさせる。」
「確かにそうだな。ある音楽を聴くと感情が音楽に掴み取られ、左右される。」
「であれば、むしろ我々はモノラルで感情を防御する方が良いのではないか?
お前はお前の感情に土足で入ってくるやつの方が好きなのか?」
「そう言うと苦しいが・・・・・そこまで考えて聴かなきいけないのも疲れると思うけど・・・」
「詰まるところ、好みだろうけどな。」
「まあそうだね。」
友人は納得したようではあったが、話の出口には納得していない様子だった。
ラジオからは、「ワルキューレの騎行」が流れ始めたていた。

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カレー屋さん

郊外の大型ショッピングセンターの駐車場から歩いて直ぐのカレー屋のカレーは、油分が少ないがしっかりとコクがある。
「市販のカレールーは一切使用していません。」
との事だ。
小さなプレハブ店舗の前には、店主が作ったらしい芝生の庭があり、客はセルフでその庭に置かれた席で食べる。
「何が入っていて、どうやって作るの?」
窓口で、お金を払いながら若い女性が尋ねた。
「内緒です。すみません。」
店主はお金を手提げ金庫の中に入れながら答えた。
メニューは、
骨付きチキン、大きなジャガイモがそれぞれ一個入ったさらさらのチキンカレー。
鳥挽肉のキーマカレー。
とろとろの豚バラブロックが2個入ったポークカレー。
レンズ豆を使ったダルカレー。
の4つだけ。どれも600円。
店主は
「始めは基本をしっかりとしたいので。」
と言う。
先ほどの女性客は、チキンカレーの入った器と、コップにスプーンと水を入れたものを手に持って空いている席に座った。
天気のよい日はこうやってピクニック気分で食べられるが、風雨がきつい日は客は車まで持ち帰って食べた。
幸い、ここ数日は秋の晴天で、日曜日の今日も木陰で虫が鳴く気持ちのよい日差しだった。
白いご飯とカレーを一口食べると、香辛料の香が鼻を抜け、程よい辛さが舌を刺激した。
辛さの調節はカイエンペッパーのスープで行っているらしい。
女性は鞄からカメラを取り出して、一口食べたカレーを写真に収めた。
どうやら、期待に沿ったらしい。
そして、カメラを脇に置くと、再び食べ始めた。
女性の斜め前の席には、若いカップルが食べていた。
「ちょっとちょうだい。・・・・・からー。何辛?」
「大辛。美味しいんじゃない?」
「そうね。油でもたれないしね。」
「何が入っているのかな?作れるこれ?」
「そうねえ。出汁はきちんと採らなきゃいけないと思うわ。コクの素だから。後は基本的に具はミキサーでペースト状にしてと言う感じじゃないかしら。
スパイスの基本はパプリカとターメリックと胡椒とカイエンペッパー、唐辛子ね。後は塩が大事じゃないかしら。
生姜とニンニクもたくさん入っていると思うわよ。」
「今度作ってみてよ。」
「いいわよ。その代わり、後片付けは・・・・」
「やるやる。」
男は、スプーンを止めることなく口に運んだ。
「ご馳走様。美味しかったわ。何処に返せば?」
「こちらで頂きます。」
と、プレハブ店舗で店主は客から皿を受け取った。
「何処に行こうか?」
「そうね。お腹も膨れたし、街にでも出てみる?」
客は満足そうにカレー屋の庭を後にした。

最近カレーがマイブーム。
スパイシーでコクのあるさらさらのカレーが大好きです。
ホットなドライカレーも。

カレーのすべて

神様のお酒

今は昔。
お爺さんが濁酒(どぶろく)を仕込んでいる最中、重たいカメを持ち上げた時ぎっくり腰になった。
婆さんは畑に行っており、お爺さんはカメを下ろすに下ろせず困りはて、額からは脂汗が流れ出していた。
そんな時、お爺さんがふと神棚を見上げて再び目の前を見ると、白い着物を着た子供、未だ五・六歳の男の子が立っていた。
「坊主、誰か呼んで来てくれ。」
「そのカメを下ろしたいのか?」
「たいのだが、お前さんじゃ無理だ。誰か呼んで来てくれ。」
近所の子供にしては見覚えの無い顔の子供だった。
「貸してみろ。」
子供はそう言うと、軽々と爺さんが一抱えにしていた濁酒のかめを両手で持ち、
「どこにおくのだ?」
と聴いてきた。
「水がめの隣に置いてくれ。」
やっと腰を下ろせたお爺さんは、その場にへたり込んだ。
「これでいいのか?」
「有難う。ところで坊主、ドコノ子だ?」
「おいらは神棚の神様だ。お前さんが助けてくれと言うから出てきてやったのだ。」
小さい神様はそういうと、布団を敷き、爺さんをひょいと持ち上げ軽々と運んで寝かせた。
「さて、次は何をしようか?」
「濁酒の仕込みも終わったことだし、婆さんが帰ってくるまで遊んでおいてくれ。」
そう言われると、小さい神様は外に飛び出し、遊びに行った。
晩飯時になると、小さい神様はきちんと帰ってきて、お婆さんの作ったご飯をたくさん食べて直ぐにすやすやと眠ってしまった。
それから、お爺さんとお婆さんは、神様を大変かわいがって育てた。
小さい神様はぐんぐんと大きくなり、一年も経つ頃には立派な青年になっていた。
青年になった神様は畑仕事もこなし、村の仕事もテキパキとした。
そして、やること成す事全てにおいて、間違いが無く、完璧にこなした。
やがて村人達の噂は広まり、近隣の村人達も青年の神様の元に集まり万事相談するようになった。
そんな月日が流れたある日、青年の神様はお爺さんとお婆さんに
「そろそろ私は結婚相手を探しに旅に出なければなりません。
神棚の神様は、ちゃんと次を手配しておきましたので心配は要りません。
長い間有難うございました。」
と打ち明けた。
お爺さんとお婆さんは大変悲しんだが、神様の都合も都合なので、
「いい相手が見つかるように。そして、いつかまた縁があれば。」
と青年になった神様に言った。
神様は、酒が大好きなお爺さんとお婆さんに
「これは私の国の、お酒の素です。次に濁酒を仕込む時に是非お試しください。」
と一袋のお酒の素を渡した。
そして青年の神様は、村人達に惜しまれながら旅立って行った。
あくる年、お爺さんは神様に貰った酒の素で酒を造ってみた。
出来上がってみると、なんとも言えない美味しいお酒が出来上がった。
自分一人で飲んでは勿体無いので、お爺さんとお婆さんは村人達にも分けて、皆で飲んだ。
それからその村は酒どころとなり、酒を飲んだ村人は、決まって長生きをしたそうな。

湯豆腐の季節となりました。
美味しい日本酒と、はふはふの湯豆腐を食べたいですね。
京都のある湯豆腐屋さんの仲居さんに教えてもらった
自宅での湯豆腐の美味しい作り方は、
豆腐は湯だって一分程度でちょうどだったような記憶です。
ぐつぐつやらないで、出来上がったら火から下ろして、又は火は小さくして食べましょう。
日本酒は純米。
アー極楽極楽。

京都全日空ホテル

砂金

工場の生産ラインで働いていた職人が、扇の要を外したように頭から崩れ、足元には一山の砂金が残っていた。
工場長は経営者に報告したが無視され、生産ラインは止まらなかった。
しかし、次の週も同じように、二人の職人が砂金になった。
その次の週になると、雪崩を起こしたかのように全ての職人が砂金に変わり、生産ラインは完全にストップした。
強欲な経営者は事業をたたみ、手にした砂金で豪邸を建て、優雅な生活を始めた。
テレビのニュースでは人間砂金化事件が連日報道された。
「砂金が誰の物か?」
が大きな問題となり、事件の特異性から連邦会議で議論された。
しかしなかなか結論は出ず、街の工場・生産現場では人間砂金化事件は次々と起こっていった。
造幣局でもそれは起こり、国家の紙幣・貨幣は生産がストップした。
暫くすると世の中から物が無くなり、トイレットペーパー一巻きが砂金1kgとなった。
しかし、直ぐにトイレットペーパーは世界中から無くなった。
薬も、ガソリンも、食べ物も、作られるもの全てが無くなった。
人々の間に誰かが秘匿していると疑心が起こり、強盗・殺人が起こりやがて国家間の戦争が始まった。
始まって見ると、稀に密かに隠している物が見つかり益々戦闘は激しくなった。
しかし、やがてそれも終わりを告げた。
人々は食うに困り、物に困り次々と倒れ死んでいった。
死体はやがて骨まで風化し、風がもち去った。
そして人類が滅亡したその時、一粒の砂金がピクリと脈打ちだした。

プロレタリアートなものが書きたくなって
書いていたら安部公房の「洪水」の習作となってしまったもの。

安部公房全集(030(1924.03ー199)

草刈

高速で回る丸い刃が、草をブンブンと切っていく。
地区の草刈と言うわけだ。
いいのか悪いのか晴天。1・2時間程度の肉体労働。
取りあえずここからあそこまで刈ってしまえば、自分の分担範囲は終わりだ。
と思っていたら、大きな石でもあったのか、チッン!という音がして、刈払機が跳ねた。
気になって足で草をどけて見てみると、錆が浮いた甲冑の兜だった。
後ろの誰かに言おうと思って振り返ると、一面緑の丘で誰もいない。
さっき刈ったはずの草は、私の膝下程度まであった。
息をすると、草の濃い匂いが鼻をこじ開けた。
私は刈払機のエンジンを止めて、360度ぐるりと見た。
静かな風の音が耳に入るだけだった。
山の稜線には見覚えがあった。
誰もいない。
私は麦藁帽子の下から青い空を見上げた。
いつかどこかで見たような、デジャヴ。
上を見たためか、頭の血液が潮が引くように薄れていく。
体の力が入らず視界が薄れていった。
目を開けると、看護婦の後姿が見えた。
戻ってこれたと言うわけか。
私は深く息を吸い込んだ。
クレゾール消毒液の匂いが鼻腔に染みた。
「大丈夫ですか?」
と、私を覗き込んで言った医者の頭が丁髷(チョンマゲ)だった。

草刈の時いつも空想してしまう事をどうしても書いてみたい。
と言うわけで、これは空想。
どんな意味があるのか?
どうして空想してしまうのか?
そろそろ京都が懐かしくなってきた

ウェスティン都ホテル京都

夏夜の列車

真夏の白光が車のボンネットを照らし、車内のエアコンは冷気を出し続けていた。
車がカーブに差し掛かったとき、彼の目に、歩道のフェンスを包み込んだ緑の茂みが映った。
緑の向こうに鉄道のトンネルが見え、彼の脳裏を昔の記憶が占領した。
各駅停車のディーゼル車。何処かの駅でその列車は退屈な待ち時間をすごしていた。
そのキハ系といわれる列車の、4人がけの席に彼は乗っていた。
彼は未だ小さく、小学生だろうか。
少年の前には父親らしき人が、くたびれた様子で車両に頭を傾け眠っている。
重い窓は中ほどまで開けられ、夏の夕闇の匂いがディーゼルの匂いと共に入ってきた。
向こうの山の更に向こうの方で、雷が遠く鳴っていた。
少年はしばらく窓から駅のフォームを観ていたが、退屈のあまり立ち上がり、列車の後ろの方へ歩き出した。
連結部分の扉は子供には重く体を預けてやっと開いた。そのくせ、手を離すと直ぐに閉まった。
一両、二両と行くと最後尾にたどり着いた。
客は二人しか乗っていなかった。
車掌が退屈そうに列車の外で立っていた。
「未だ出発せんの?」
「あと10分かな。」
車掌はその質問に嬉しそうに答えた。
「座席にほってある漫画読んでいいん?」
と彼が質問した。
「ああ、いいよ。」
車掌は幾分気を削がれたように答えた。
少年は礼を言った後、空いた席に置いていかれた少年漫画を手にとって、窓の開いた席に座り読み始めた。
「ぼく、何年生?」
乗客の一人、通路向こうに座っていた三十前後の女が少年に話しかけた。
少年が答えると女は適当に感心して
「何処まで行くの?」
と聴いてきた。
しばらく質問を続けたが、女は諦めて窓の外を見た。
少年は漫画に集中し、ページをめくった。
ディーゼルエンジンの重たい音の中に、夏の虫の音が混じり始めた。
いつの間にかフォームには蛍光灯の明かりが点り、山は黒い影しか見えなかった。
車掌の吹く笛の音がして、列車のドアが遠慮がちに動き、一旦止まって、ゴソッゴソと閉まった。
エンジンがうなり、ゆっくりと列車が動き出した。
少年は漫画を座席に置き、再び窓の外に目を向けた。
信号機の音が流れて行き、列車は田舎の街中を通り抜け直ぐに田んぼの中を走りだした。
単調な車輪の音を聞きながら、人家の窓の明かりを少年は楽しんだ。
やがて山間に入り、列車の速度ががくんと落ちた。
と、木々が近くなり列車はトンネルに入った。
ヒヤッとした空気が車内に入り込み、少年は目を細めた。
トンネルの中には黒い蛇のようにうねる配線があった。
反対側が気になって見ると、同じように蛇のよう配線がうねっていた。
さっきの女の人は目を瞑って休んでいるようだった。
彼は、そのままカーブを抜けて、走り続けた。

つい先日新幹線には乗りましたが、
キハ系のディーゼル車が非常に懐かしく思います。
明日は選挙ですね。
村上春樹さんは行くのかな?
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律子の情事

彼の手が、律子の頬をやさしく刺激した。
ベットの上で律子は体をくねらせた。
肩から脇、横腹へと手はすべるが、律子の要求どおりに彼の手は動かない。
それが新鮮だった。
高ぶりを求めて大胆なシチュエーションがどうしても必要だった律子だったが、今は違った。
ベットの上にただ身を横たえていれば快感は彼が与えてくれた。
彼の手が律子の求める周辺に来た。
律子はそのまま行ってと願ったが遠ざかっていった。
体が自然と彼を求めて揺らいだ。
腹部に熱く震え、今にも爆発しそうな塊ができていることに律子は驚いた。
それがこれまでにない絶頂をもたらすものであることは自然と解った。
やっと彼の手が胸の頂に触れた時、律子の口から官能の声が漏れた。
そして自らの太ももにヌメル感触を感じた。
今までにない快感に律子は陶酔し始めていた。
彼と優しく口づけを交わした後、律子は何時もなら言えない事を彼に求めていた。
「まだ・・・・・」
彼はそう言って再び律子への愛撫を続けた。
「マグロのようだ。」
と、以前の男に言われたことがあった。
女友達に聞いてみても、それほど自分が不感症だとは思わなかったし、言われるほどマグロでもないと思っていた。
男に「下手くそ!」と心の中では言っては見るが、口には出せなかった。
体が跳ねる・・・・。
律子は敏感に反応する自分の体に驚いた。
彼が女の花芯に触れると律子は自ら体を開いていた。
腹部の熱い塊は次第に大きくなり、律子の頭をしびれさせていた。
耳の下に自らの脈拍が大きく聞こえ、律子は今まで発したことのない声をあげていた。
脊髄の中心を駆ける、とろける様な痺れが脳まで達し、体は自然と反りかえった。
手足にも甘美な痺れは伝わり、律子は彼の手を太ももで挟んでいた。
ゆっくりと動き続ける彼の手を律子は震える両手で制したが、止める事はできなかった。
律子は自分が壊れるのではないかと思った。
胸の鼓動が喉近くに感じられた。
しびれた上に続く彼の愛撫は、律子の自制を突き抜け崩していった。

先週は当ブログもお盆休みをいただきました。
さて、今回はぬれ場に挑戦。
書けているか?
うーん・・・・・・・・

スローセックス完全マニュアル

裂きイカ

日曜日も酒を飲んだ。
土曜日も金曜日も。
風呂上り、パンツとシャツだけ羽織った彼は、扇風機にあたりながら机の上の裂きイカをつまみにして今日も飲んでいる。
今朝は胃が痛かった。胃腸薬を飲んで出勤したが、昼飯を食べた頃から気持ちが悪いのは何とか治ったようだ。
その時、もう酒は止めようと心の中で思った。
営業先で出された、味気ない茶碗の不味いお茶を飲む時も、今日からは酒を飲まないようにしようと思った。
とりあえず木曜日までは。
しかし、一日の疲れが、何の成果も生まない営業の疲れが彼の心に忍び寄った5時ごろ、昼の禁酒の思いはどこかに追いやられていた。
癖の悪い酒ではない。ただ量が多いだけだ。
明日の仕事のことを思えば、9時以降は飲めないし量は飲めない。
だから風呂上りに350mlのビールを一本飲むだけだ。
彼の目には眺めているテレビの映像が映っていた。
「このまま肝炎にでもなってノタレ死ぬのだろうか?
不況は続いているし、失業率だって過去最高だ。
今の仕事は楽ではない。給料だって安い。
しかしなぁ。」
彼はまた裂きイカを口に運んだ。
「この裂きイカだってそんなに安くない。
一袋300円もする。スナックの方が安上がりだが、油が多いし高コレステロールだ。
イカは確か、タウリンがあるから、コレステロールは高いが大丈夫だったよな。
ちょっと心配になってきたなぁ。ネットで調べるか?
まあ、明日昼休みにでも調べよう・・・・・」
彼はグラス一杯目のビールを飲み干し、最後の二杯目をグラスに注いだ。
「350ってすぐ無くなるよな。
こうやってリラックスしていると全く酔った気がしないのは何故なんだろう?」
ビールの泡を口に含むと苦美味(にがうま)さが舌に広がり、金色の液体を喉に落とすと、先の心配が幾分和らぐようだった。
「こうやって無駄に時間を重ね、年をとり、何も成し遂げないまま・・・・」
再び裂きイカを奥歯で噛み締めた。
テレビの中では、誰かが逆転ホームランを打っていた。
扇風機を弱にして彼は寝転んだ。
「いったい、こうやって一杯やっている時間って一年のうち何時間なんだろう?
この時間に何かやれば何かできるかも知れない。そう言っても、昔の夢は未だ実現の目処も、半歩も進んではいない。
しかし仕事から帰って更に何かするとなると・・・・・。
そういえば、昔、電車で1時間の遠い高校へ通っていた時も疲れ果てて、帰宅してから勉強しようなんて少しも考えなかったよな。
なんだかその頃から変わっていないような、その延長上に今があるのは間違いはない気がするなぁ。
だったら酒は関係ないか。確かに酒は好きだが、その前の問題かもな・・・・。」
彼はその様な下らない事を思いながらグラスのビールを飲み干し、机の上の最後の裂きイカに手を伸ばした。
めくれたシャツの下の彼の腹周りには、なかなか取れない脂肪が積み重なっていた。

仕事後の一杯って美味しいですよね。
スポーツ観戦しながらもサイコー。
ビールも第三のビールも、いつも使うグラスではなくて
その夏に買った新しいグラスに注いで飲むといっそう美味しくなるのは何ででしょう?
大笑い

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デンタルロボット

「虫歯の治療が自分でできる!」
と、某ポータルサイトのNEWSに新着記事があった。
ちょうど歯医者に行かなきゃいけない歯の具合だったし、何より1万円と言うのが魅力だった。
何週間も休日が歯の治療で潰れるよりも、自分の空いた時間に自分で治療できるというのが最大の魅力だ。
早速注文、そして土曜日のお昼に宅急便が届けてくれた。
お昼を食べた後、歯を磨きパソコンの前で封を開けた。
説明書を読むと、取り扱いは簡単だった。
まず、口の中で勝手に治療してくれるデンタルロボットのコードをパソコンのUSBに接続。
すると、ロボットはUSB電源で起動し、パソコンの画面にロボットに備え付けられたカメラで写される私が映しだされていた。
次にそいつを口の中に入れる。
すると、実際の私の歯達が映し出され、
「どれを治療しますか?」
と音声と画面で聴いてきた。
私は画面の中で具合の悪い歯をクリックした。
「この歯でよろしいですか?」
「Yes」をクリックした。
すると、パソコンの画面に
「診断中です・・・・・しばらくお待ちください。」
と出て、口の中のロボットは、その歯の周りを執拗に動き回り状況を調べているらしい。
「治療を開始します。
が、その前に、治療途中口をゆすぐ必要がありますのでコップ一杯の水と洗面器をご用意ください。
用意ができましたら、治療開始のボタンを押してください。」
と出た。
私は一旦デンタルロボットをティッシュの上に取り出し、それらを洗面所から取ってきた。
さて、万事整った。デンタルロボットを再び口に入れ「治療開始」のボタンを押した。
「治療を開始します。気分が悪くなったりした場合は中止してください。」
と告げられた。
デンタルロボットは虫歯を削りだした。小さいボディながら、なかなか上手に削っている。
それに痛みがほとんど無い。
画面の右上に表示されているヘルプで調べてみると、液体麻酔を使っているので痛みがないとのことだった。
削るのは、もうそろそろいいんじゃないか?と思ったら
ロボットは削るのをぴたりと止めた。
「一旦口をゆすいでください。」
と言われた。
私は言われたとおりして、再び「開始」ボタンを押した。
次にロボットはセンサーで削った歯の形を読み取り、かぶせ物を造型する旨を知らせてきた。
と思ったら直ぐに
「終了しました。一旦口からロボットを取り出し、キットの中にあるカバー作成アダプタにデンタルロボットを装着してください。」
といわれた。言われたとおり、ちょうどパソコンのマウスぐらいの大きさのそのアダプターにデンタルロボットをはめると
「かぶせ物作成開始」
ボタンが画面に表示された。
迷わずクリック。すると結構大きな音で金属を削っているような音がしばらく続いた。
画面にはその金属が削られている様子が映し出されていたが、綺麗に削りだされていく金属の歯、は芸術品のような存在感があった。
出来上がると
「そのかぶせ物を掴んだままのデンタルロボットをアダプタから外し、再度口の中に入れてください。
治療はあと5分です。」
と表示された。
言われたとおり、口に放り込み「治療続行」ボタンを再度押した。
デンタルロボットは出来上がったかぶせ物を歯にはめ、微調整か、ちょっと削っては
「噛んでみてください。」
と聴いてきた。それを3回ほどした後、
「治療が終了しました。噛み具合はいかがですか?」
聴いてきた。私は何の問題も無いので
「OK」
をクリックした。
正味、1時間ほどで終了したことになる。これはすばらしいと、私は素直に感動した。
私は、洗面器などを片付けて、再び居間のTVを付けた。
すると、今私が使ったデンタルロボットに関するNEWSをしていた。
何でも、使う手順を間違ったり、治療しなくていい歯をクリックしたりと操作を間違えるケースが頻発しているらしい。
中でも、治療中にパソコンがウィルスに感染した人は、デンタルロボットが暴走し、全ての歯を抜いてしまったという事だった。
評論家達はこぞってデンタルロボットの開発会社と、
「そんなものを使う方が間違っている。自業自得である。」
等と批判していた。
私は気になって、洗面台に行き、治療した歯を良く見てみたが、何も問題はなさそうだった。
噛み締めてみてもばっちり直っている。
運が良かっただけなのかも知れない・・・・・と思いつつも、再度説明書を読み返したら、利用規約の最後に
「※このデンタルロボットをご利用になるお客様は、このデンタルロボットを使ってお客様がこうむるいかなる不利益・損害にも当社は一切の責任を負はないものであることに、完全に合意するものとします。」
と書かれていた。
ナルホド。


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