大根ろの種

「大根ろの種」は隣に知らない大根の種がある事に妙に気になった。このまま成長して芽を出すと、葉が、隣とかぶる事は必死だ。と言うわけで「大根ろの種」はあせって芽を出し、その隣の種よりも早く成長しようとした。そのおかげで少しばかり隣の種よりは早く大きく成長し、昼間少しばかり多くの太陽を浴びることができた。光合成が活発に行われ、細い根は徐々に成長していた。
丸っこい双葉の間から、ギザギザの大きな葉がでてきて、大きくなっていった。
ある晴れた日、「大根ろの種」の隣の苗は、いきなり人間の手で抜かれ、畑の草木のゴミの中に捨てられた。日々の成長への努力が「大根ろの種」を生き抜かせたことに違いなかった。
朝の冷たい露の水を葉に受け、「大根ろの種」はますます成長していった。既に丸っこい双葉は消えて、ギザギザの大きな葉が幾枚も生え、その下の根も少しばかり太さを持ちつつあった。
天気のよい昼間、蛾が卵を産みつけようと飛んではくるが、防虫ネットがしっかりと防いでくれたおかげで葉は完全体で日光を受けることができた。しかし、 「大根ろの種」は少しばかり他の大根の葉の下になる部分が多くなってきた。他の大根より土の栄養が少し足らなかったかも知れない。もしくは、遺伝的に少し葉が小さいのかもしれなかった。
そしてよく晴れたある日、防虫ネットが外され、 「大根ろの種」は人間の手によって抜かれた。
葉は立派だが、まだ根は細く、直径は0.5センチにも満たなかった。人間は少しばかり「大根ろの種」を見つめた後、籠の中に放り込んだ。

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