大根ろの種

「大根ろの種」は隣に知らない大根の種がある事に妙に気になった。このまま成長して芽を出すと、葉が、隣とかぶる事は必死だ。と言うわけで「大根ろの種」はあせって芽を出し、その隣の種よりも早く成長しようとした。そのおかげで少しばかり隣の種よりは早く大きく成長し、昼間少しばかり多くの太陽を浴びることができた。光合成が活発に行われ、細い根は徐々に成長していた。
丸っこい双葉の間から、ギザギザの大きな葉がでてきて、大きくなっていった。
ある晴れた日、「大根ろの種」の隣の苗は、いきなり人間の手で抜かれ、畑の草木のゴミの中に捨てられた。日々の成長への努力が「大根ろの種」を生き抜かせたことに違いなかった。
朝の冷たい露の水を葉に受け、「大根ろの種」はますます成長していった。既に丸っこい双葉は消えて、ギザギザの大きな葉が幾枚も生え、その下の根も少しばかり太さを持ちつつあった。
天気のよい昼間、蛾が卵を産みつけようと飛んではくるが、防虫ネットがしっかりと防いでくれたおかげで葉は完全体で日光を受けることができた。しかし、 「大根ろの種」は少しばかり他の大根の葉の下になる部分が多くなってきた。他の大根より土の栄養が少し足らなかったかも知れない。もしくは、遺伝的に少し葉が小さいのかもしれなかった。
そしてよく晴れたある日、防虫ネットが外され、 「大根ろの種」は人間の手によって抜かれた。
葉は立派だが、まだ根は細く、直径は0.5センチにも満たなかった。人間は少しばかり「大根ろの種」を見つめた後、籠の中に放り込んだ。

宇宙船屋

宇宙船屋が、飛びつくように電話に出た。しかし、非常に落ち着いた声で、ゆっくりと
「ありがとうございます。宇宙船屋です。」
と受話器に向かって喋った。
大体の客は、第一声で、落ちるかどうか決まる。
 感じの良し悪ししか素人は判断基準を持たないと言うのが、長年この商売をしてきた、彼、宇宙船の製造から販売まで手がける宇宙船屋の持論だ。
 後は、客を如何に気持ちよくさせるか。
 ある客は割引、他の客は安全性。オプション、お買い得感等、客が一番欲しい答えを与えてやればよい。しかし、それが一番難しい。
「宇宙船なのだが・・・・・」
「はい、当社は製造から販売まで行っておりますので、何なりとご相談ください。」
「ま、一台買おうと思っているのだが、中型船でいくら位からあるかな?」
これは、お買い得を重視する客で、結構面倒しいかもしれないと思った。
値段はオプションに左右される。少しでも安いものを、お得に買おうとすれば、自ずとあれこれ付けたり引いたりする必要がある。こういう客には、こちらから決めてやらなきゃいけない。
 面倒だ。
「ご予算は如何程でございましょうか?実用性と快適性を兼ね備えたものとなれば、ワンクラス下げてクラス最高のものを。実用性だけならワンクラス上のものを皆さん考えられます。」
「ま、予算は・・・・・」
そらきた。はっきりしないのだ。
「そうですね、よく売れるものは300Gクラスです。お値段は250万からですね。」
「へー。今度見に行ってもいいかな。」
 後、時間がかかったが無事ご購入。めでたしめでたし。
 「何しろ宇宙船だから、安全性と快適性を兼ね備えていなきゃ。あいつの言うように、ワンクラス落としていい買い物ができた。」
と、購入者のR氏は月の裏側軌道を航行中、漆黒の中の星を眺め、ワインを傾けて思った。アテは、スルメだ。
 「そういえば・・・・スルメは宇宙船には厳禁って言ってたっけ?確かに、言っていたよね。」
 R氏は、宇宙船屋に電話をかけた。 
「え、スルメを持って行ったんですか?それはいけません。保証外となります。では・・・」
電話は向こうから切られた。
 しばらくすると、R氏の乗った宇宙船は月の裏側の軌道を外れ、銀河系の外へ外へと流れだした。R氏は思いつく限りの連絡先に、何度も電話をかけたが誰も出てくれなかった。
「スルメを宇宙では食べないで下さいね。もし食べると誰とも話せなくなります。そして誰とも会えなくなります。」
と言ってはいたが、まさか本当だとは・・・・・
 その頃、宇宙船屋は、スルメを口に銜え、次の宇宙船の鋲をハンマーで打っていた。

軍隊

テレビのコマーシャルが終わりニュースの時間になった。
アナウンサーは
「緊急ニュースをお知らせします。」
と、なにやら動揺した様子で原稿を読み始めた。
「ただ今、わが国は、A国から宣戦を布告されました。よって憲法20010条題98項により、わが国の国民は
これより全員徴兵されることになります。」
そこまで一挙に読んだあと、テレビがFAXの信号音の様な不快な音を流し始めた。
それは30秒ぐらい続いた。
と、今まで鯖煮込み定食を食べていた労働者が箸を置いて急に立ち上がり、テレビに向かってかかとを鳴らして敬礼をすると、店を出て道路へ飛び出して行った。
道路にはこの労働者と同じように、何かを途中で切り上げて急いで出てきた人達で直ぐにあふれかえった。
路上の人々は、お互い何を話すでもなく暫く呆然としていたが、上空に一機のヘリコプターが見えるとその後ろをぞろぞろとついていった。
先程の鯖定食を食べかけていた労働者もその中にいた。
やがてヘリコプターは、災害時避難場所のヘリポートに着陸し、中から軍服を着た兵隊が5・6人降りてきた。
人々は、避難場所にぞろぞろと集まり続けていた。
兵隊はそれぞれに拡声器を手に持ち、先ほどテレビで流れていたFAX信号のような音を大音量で流し始めた。
すると人々は、それぞれの兵隊の前に、新兵よろしく鉛筆を立てたように一直線に綺麗に並び始めた。
誰も一言も喋らず、質問もしなかった。広場にザワザワと人々の足音だけがこだました。
最後の一人が並び終わってから、兵隊達の中で一番偉そうな人物がヘリコプターから降りてきた。
そして、俄かに作られた壇上に上ると手に持った拡声器を、静かに真っ直ぐに整列した人々に向けて、またもやFAX信号音を流し始めた。
すると、人々は銃を持っていない手で、銃の装填操作の練習を始めた。
「なかなかいいぞ。」
大佐は一人ごち、人々が一糸乱れぬマスゲームよろしく動く姿に感動を覚えていた。
「軍曹!」
「はい!大佐殿!」
「やはり最初の催眠は軍人魂の注入で正解だったな。見ろ!一糸乱れぬ動きを!
俺達だってこうは揃わない!」
大佐と呼ばれた男は、人々が同時ザッ!ザッ!ザッ!と音をさせながら動くさまを暫く眺め感慨に耽った。
そして再び軍曹へ、興奮して叫んだ。
「いいか!今日1日訓練すれば、立派な兵士だ。何より怒鳴って殴って教えなくていいのだからこんなに楽なことは無い。
後はお前に任す。
いいな!拡声器で教育音波を流し続けろ。
なに、これだけの人数だ。一人や二人駄目になってもかまわん。今日は徹夜で流し続けろ!」
「わかりました!大佐殿!」
「明日10時、我が隊はA国のB市へ突撃攻撃を敢行する。準備を怠るな!」
「わかりました!大佐殿!」
軍曹はかかとを鳴らしながら敬礼をした。
拡声器からは耳障りなFAX信号が流れ続け、鯖定食を途中で放り出してきた労働者は、銃の取り扱いの訓練を終わり、ロケット弾の訓練に移っていた。
大佐は軍曹達が設営した野営テントに入ると、テレビ電話で本部と交信を始めた。
「こちら、HJ隊。準備は滞りなく進行中。」
「こちら。本部。了解・・・・」
と、テレビ電話からはFAX音が流れ始めた。

前回のリライト編。
ほんと、楽天は何でもあるねえ。感心します。
野球の方はどうなりますか。がんば!

脂がたっぷり♪秋の鯖煮1切れ×5パック 

村人と賢人

ツァラトに弟子のアイヘンが尋ねた。
「師は諸国から仕官を請われていますが、全て断っています。どうして仕官しないのですか?」
それに対し、ツァラトは
「昔々、村人に酋長への就任を請われた賢人が言った。」
と語り始めた。
「貴方方は忘れてはいけない。私が強く貴方方に請われて酋長になることを。
そして、これから先必ず貴方方は私を石の礫(つぶて)で追い払うことを。」
「そんな事は絶対にない!未来永劫貴方がこの村の酋長だ!」
村人達は声をそろえて賢人に言った。
賢人は目をつむって考えた。
しばらく沈黙が流れ、村人の視線はいっそう強く賢人に注がれた。
やがて賢人は目を開けて
「一年。一年間だけ引き受けよう。」
村人達は狂喜乱舞し、7日間の宴が開かれた。
その歳の春は暖かく、宴会の頭上には桜が満開だった。
それから1ヵ月、長引く梅雨に村人は頭を抱え始めていた。
「これでは作物が育たない。どうすればよいのか?」
賢人の所に村人は教えを請いに集まってきた。
賢人は、
「この雨は必ず上がり、夏が必ずくるので心配は要らない。
それよりも崖下や、沢の近くに住んでいる人は万が一のことがあるので集会場や、親戚の家などに非難するように。」
と言った。
その日の夜、激しい雨が降り、がけ崩れが起き、避難していた村人は助かった。
村人達は賢人をよりいっそう敬った。
梅雨がようやく終わり夏が来た。
しかし中々暑くなりきらず、農作物の成長は遅れた。病害虫がはやりだした。
再び村人は賢人の元へ集まり、教えを請うた。
「畝の溝をより深く掘り、排水を良くしなさい。また、一番良く生った物は来年の種として食べないで取って置きなさい。次第に冷害に強い作物になっていくだろう。」
村人は賢人の言うとおり、溝を深く掘り、排水を良くしたおけがで根ぐされ等はなく飢饉にはならなかった。
益々賢人への尊敬は強くなり、中には神さまとして拝むものさえ出だした。
例年より早く秋になると、野山の果実は色づき、少ないながらも収穫を祝った。
「賢人様。来年はこれよりももっと多く収穫できるかな?」
村人が問うた。
「それは分からない。天のみ知る。」
賢人はそう答え、村人が酌む杯を飲み干した。
賢人の好むと好まざるとに関わらず村人は賢人を崇めた。
秋が終わり、冬がやってきた。
村から見える北の山に雪が積もるころ、村人達は少ない収穫を少しずつ食べ、寒い冬を耐えすごした。
村に雪が深く積もる頃、ある村人が賢人に助けを請うた。
「食べ物を全部食べてしまい、来年に蒔く種も食べてしまった。どうすればよいか?」
「他の村人は余裕は無いながらも充分に冬を越せる。どうして貴方は越せないのか?」
と賢人は問うた。
「分かってはいてもお腹いっぱい食べたいのでつい食べてしまった。」
ツァラトはそこまで語って
「アイヘンならどうする?」
と、アイヘンに尋ねた。
アイヘンはしばらく考え
「村人を集め、幾ばくかの食料を村人達に分けてもらいます。」
「それが良かろう。して、罰はどうする?」
「村の仕事をやらせます。」
「それも良かろう。」
ツァラトは話を続けた。
賢人は村人を集めアイヘンが言ったように食料を分けてもらった。
そして男に
「3日ごとに私の所へ食料を取りに来なさい。また、食料を分けてもらった分、村の仕事を無償で行いなさい。」
と言った。
「なるほど。そうすれば全部食べてしまっても3日ごとだから大丈夫ですね。
でも、どうしてそんな賢人が村から追い出されるのですか?」
と、アイヘンは尋ねた。
「そこなんじゃ。」
村人達は賢人のそんなやり方にいたく感心して益々尊敬したが、中にそんな賢人を快く思わなかった人達がいた。
それまで村を治めていた者達は、賢人が敬われれば敬われる分逆に、村人達から蔑まれるようになっていった。
お株が下がってしまったのじゃ。
そうなると、このままでは納得しないものが出てきて終には賢人のよからぬ噂を流し始めた。
よからぬ噂は村人達の間に直ぐに広まり、賢人はつるし上げにあってしまった。
賢人がいくら弁明しても全く相手にされず、結局賢人は村人達から石を投げられつつ村を去って行った。
「と言う結末じゃ。」
「よからぬ噂は何だったんですか?」
「賢人が3日ごとに与える食料から少しずつ抜き取って横領したと言う噂だよ。
愚人はそう言えば食料をもっと多く貰えると言われてそう証言した、と言うことは誰でも思いつく事だと思うが、
村人は賢人の悪い噂を決して止めようとはしなかった。詰まるところ、噂の中身はどうでも良かったのじゃ。」
「なるほど・・・・そういう性向はありますね。」
とアイヘンは頷いた。
「千慮一失。賢人は予言どおり石の礫(つぶて)で追い払われたというわけじゃ。」

物語の中の物語。
こうすることで、より自由に物語に介入できる。
子曰く・・・・・
古典は上手に書いているなと思いますね。

こども論語塾

ダイジョウブ。

ロータリー制の広い広場をぐるぐると自転車で回っていた。
ヨーロッパの広場で、目に付くのは異国の人達だ。
私が探していたカフェが見つかり、その前を通り過ぎた。
私には連れ合いがいて、ちょうどこのロータリーへ入る前、黄色い玄関の前で
「見てくる」
と言って私だけロータリーへ漕ぎいれ、くるくると見て回っていたのだ。
黄色い玄関・・・黄色い玄関・・・・
と思って探しているがなかなか見つからない。
何処かの角を入るのだったのか?
少し私はあせりだした。
一周回ってしまったらしく、さっきのカフェの前を再び通り過ぎた。
カフェの中で客は、名物のチョコレートケーキを食べている。
私の姿は彼女からは見えているのだろうか?
声でもかけてくれれば助かるのだが、こう車が走っていては声は届かないか?
カフェを通り過ぎると街路樹の間にベンチが置いてあり、
日がな一日本を読んだり、寝たり、とにかくベンチ上の人々は動かない。
その前をまた、自転車で通り過ぎた。
二度目となると、眼鏡越しの興味の対象になるらしく、複数の視線が私に注がれた。
どうやら黄色い玄関の前の彼女を見失ったらしい。
彼女の方が動いてしまったのかもしれなかった。
いや、黄色い玄関を見失ってしまったのだ。
これは悪夢なのだろうか?
私はもう一度と、自転車をゆっくりと漕ぎ出した。
目的のカフェは彼女も知っているはずだから、最終的にはそこで待つしかないかも知れない。
彼女の白いヘルメットがいないか、私は辺りを探し続けた。
と、黄色い玄関が、あった。
カフェから一ブロック漕いだ所にそれはちゃんとあった。
大きな白いワンボックスがその前に停められてしまい、見えにくくなっていただけだった。
彼女の顔を見つけた私の顔から、不安が消え去るのが自分でもわかった。
私は手を上げて彼女に合図を送り、黄色い玄関の方へ漕いで行った。
「場所が分からなくなったかと思った。この車の陰になったので見えにくくなっていて・・・・・」
「ダイジョウブ。」
彼女は何もなかったように微笑んだ。

今回は、夢を題材にしてみたものです。
最初の題名は
-夢ではぐれて-
でした。
楽天で探してみると・・・・・・
やってる人はいるのですね!?↓びっくり
ヨーロッパ自転車旅行。
面白そうです。

定年欧州自転車旅行改訂版

ゴールデンウィークの秘密

始業式で中学二年生になったばかりのショウタがトイレに入ると、タバコの匂いがした。
トイレ奥の個室の前には、見張り役らしき少年(多分新一年生)が一人いて、個室の上からはタバコの煙が流れ出ていた。
それでもショウタは用を済ませ、手を洗ってトイレを出ようとした時、後ろから
「ショウタじゃねえ?」
と声がした。
振り返ってみると、どこかで見たような顔だった。
「俺だよ。ほら小学校の5年で転校した・・・・・」
「ミノル?」
「だろ!」
「えー。帰ってきたの?」
ショウタは驚きと嬉しさで、トイレ奥の不良グループの方へ行った。
一年生の見張り役の少年が、改めて先輩のショウタに挨拶をした。
ショウタは軽く受けて答えたが、鼻をくすぐられるような違和感を感じた。
「一服しない?」
ミノルがタバコを差し出した。
ショウタはタバコを吸ったことはなかったが、興味はあった。それに断る雰囲気でもなかった。
「おれタバコは初めてなんだ。」
ショウタは一本抜き取り口にくわえながら言った。
ミノルはニコニコしながら
「火点けるから、軽く吸ってみて。」
スッと吸うと、先端が赤くなり火がついた。息を吐くと白い煙が出た。別段不味くも美味くもない。
咳き込みもしなかった。
ただ見つかるとやばい、と、心配があった。しかし、幼馴染との再会は喜ばしいことだった。
ショウタは一本吸う間、あれこれミノルと話した。
ショウタがその日見たミノルは、小学校のミノルではなく、ショウタより少しばかり多くのことを経験し、また見ることによって何処となくすれて、
今までとは違う生活を、どう違うのかは言えないけれど違う生活をしている様にみえた。
というわけで、吸い終わると
「また。」
と言うことでショウタはそこから、あっさりと立ち去った。
会話も昔の様にとはいかなかった。
それから1ヵ月ぐらい過ぎ、ゴールデンウィークの最中、ショウタは近所のスーパーでレジに並んでいるミノルを見かけた。
声をかけようとした時、ミノルが棚に並んでいる105円ライターをズボンのポケットに入れた。
ショウタは直ぐに目を背け、そ知らぬ顔でいつもの買い物をした。
そして普通にレジを済ませて家に帰り、冷蔵庫にペプシネックスを入れた。
ついでに冷凍庫からアイスバーを一本取り出し、食卓に座ったまま、居間でテレビを見ている母親の後ろ姿をぼーと見ながらさっきのことを考えながら食べた。
そして、食べ終わった時、真っ当な人には言えない秘密を抱えた事に気づき、溜め息をした。
「それにしても後味の悪いタバコになったな・・・・。」
と、ショウタは小さな声で一人ごちた。

遠い昔の夏休み。
青臭い思春期ってものを想像・・・・・・
してみました。

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ガリガリ君の当たり棒

今回は「豆大福」作です
ガリガリ君の当たり棒
僕という人間は生まれつき運に見放されているのかもしれない。
父さんも母さんも青春時代にニキビとは無縁だったというけれど、最近ニキビが増えてきた。
鼻の頭のが治ったかなと思ったらこんどは鼻の下。「鼻クソニキビ」ってやつだ。
まるでもぐら叩きみたいに出てくる。痛い。赤い。カッコ悪い。
部活のテニスもパッとしない。小学校からやってるし、けっこう上手いと思うんだけれど、いかんせん僕の学校は上手い奴が多すぎる。
高校二年で158cmという身長も悲劇的だ。これは父さんの遺伝。うちの父さんは母さんより10cmは背が低い。
手も足も短い僕。前衛なんかではとても不利だ。今度の大会でも、やっぱりレギュラーから外されていた。
でも僕は意地でもテニス部はやめない。なぜなら青木かなえさんの存在があるからだ。
青木さんは女子テニス部。僕の目から見るとだが、テニス部で一番可愛い。いつも一生懸命で、ハツラツとしている。
今は真っ黒に日焼けしているけれど、青木さんがコートの脇で靴下を脱いだとき、靴下に隠れている足が真っ白だった。
変態っぽいけど、その足にグッとくる。日焼けした腕のうぶ毛?も金色に光っている。脱色とか、女の子だからしているんだろうか。
青木さんにも見事にフラれた。直接ではなくて、間接的に。
僕は分かりやすい人間らしく、部活中につい青木さんのことばかり見ているのを榎本に指摘された。
「お前、青木さんばっかり見てね?好きなんじゃね?」図星を指されて赤面。
「っるせー!んなことねーよ!」とは言ってみたものの、その日の部活が終わる頃には僕の好きな人は青木さんということが部活中に広がっていた。
学校の帰り、近くのファミマで青木さんを含む女子グループが雑誌を見ていた。気まずいけれど、逃げるのももっとイヤだ。
アイスやジュースを物色するふりをしていると、グループの一人が雑誌を見ながら青木さんに言った。
「やっぱやまピーかっこいいよねー、ぜったい今度のドラマ見るぅ。かなえもやまピー好きだよねー?」
「うん、やまピーってそんなに背高くないけど、170はあるよねー、私、自分より背の低い人ってありえないしー」
・・・明らかに聞こえよがしな感じだった。青木さんは僕より背が高い。165cmはありそうだ。自分より背の高い女の人が好きだというのも父の遺伝か。
それより良く考えてみよう。
今の瞬間、僕は間接的にフラれたのだ。告白もできないままに。メル友にもなれないままに。
青木さんたちがファミマを出て行ったあと、僕は「ガリガリ君」を買った。
本当はジャイアントコーンが好きだけれど、コンビニで買うと126円もするし、チョコにナッツはニキビの大敵だ。
ガリガリ君でも食いながらこの失恋の痛みを癒すしかない。
こんな時にでも食えるのが僕のイマイチかっこよくないところだけれど、いやな事があると食に走るというのは、母さんの遺伝かもしれない。
ガリガリ君を食い終わると、なんと棒に「一本当り」と刻印してあった。
これまでの16年の人生で、何かに当たるというのは初めての出来事だ。
クリスマス会のビンゴゲームとか、友達といったボーリング場のインスタントくじとか、僕だけ当たらない、ということはこれまで多々あったけれども。
単純に嬉しかった。
失恋の痛みと、ガリガリ君で当たり棒が出た嬉しさと、どちらが大きいかといえばもちろん失恋の痛みだけれども、まあなんというかガリガリ君に励まされたような気がしたのだ。
高校二年の男子の食欲ならすぐに当たり棒をアイスに換えそうだが、僕はその棒を丁寧に舐め、鞄のポケットに入れた。
ガリガリ君の当たり棒は、今洗われて僕の机の上に鎮座ましましている。
「臥薪嘗胆」とはいうけれど、苦いものを舐めるよりも、僕の場合は甘いアイスの棒を見て「まあ、いいこともあったじゃないか」と暗くなりがちな気持ちを明るくしようとする。
身長のみならず、小さい男だとは思うけれど、しばらくの間はこの当たり棒のお世話になろう。


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