軍隊

テレビのコマーシャルが終わりニュースの時間になった。
アナウンサーは
「緊急ニュースをお知らせします。」
と、なにやら動揺した様子で原稿を読み始めた。
「ただ今、わが国は、A国から宣戦を布告されました。よって憲法20010条題98項により、わが国の国民は
これより全員徴兵されることになります。」
そこまで一挙に読んだあと、テレビがFAXの信号音の様な不快な音を流し始めた。
それは30秒ぐらい続いた。
と、今まで鯖煮込み定食を食べていた労働者が箸を置いて急に立ち上がり、テレビに向かってかかとを鳴らして敬礼をすると、店を出て道路へ飛び出して行った。
道路にはこの労働者と同じように、何かを途中で切り上げて急いで出てきた人達で直ぐにあふれかえった。
路上の人々は、お互い何を話すでもなく暫く呆然としていたが、上空に一機のヘリコプターが見えるとその後ろをぞろぞろとついていった。
先程の鯖定食を食べかけていた労働者もその中にいた。
やがてヘリコプターは、災害時避難場所のヘリポートに着陸し、中から軍服を着た兵隊が5・6人降りてきた。
人々は、避難場所にぞろぞろと集まり続けていた。
兵隊はそれぞれに拡声器を手に持ち、先ほどテレビで流れていたFAX信号のような音を大音量で流し始めた。
すると人々は、それぞれの兵隊の前に、新兵よろしく鉛筆を立てたように一直線に綺麗に並び始めた。
誰も一言も喋らず、質問もしなかった。広場にザワザワと人々の足音だけがこだました。
最後の一人が並び終わってから、兵隊達の中で一番偉そうな人物がヘリコプターから降りてきた。
そして、俄かに作られた壇上に上ると手に持った拡声器を、静かに真っ直ぐに整列した人々に向けて、またもやFAX信号音を流し始めた。
すると、人々は銃を持っていない手で、銃の装填操作の練習を始めた。
「なかなかいいぞ。」
大佐は一人ごち、人々が一糸乱れぬマスゲームよろしく動く姿に感動を覚えていた。
「軍曹!」
「はい!大佐殿!」
「やはり最初の催眠は軍人魂の注入で正解だったな。見ろ!一糸乱れぬ動きを!
俺達だってこうは揃わない!」
大佐と呼ばれた男は、人々が同時ザッ!ザッ!ザッ!と音をさせながら動くさまを暫く眺め感慨に耽った。
そして再び軍曹へ、興奮して叫んだ。
「いいか!今日1日訓練すれば、立派な兵士だ。何より怒鳴って殴って教えなくていいのだからこんなに楽なことは無い。
後はお前に任す。
いいな!拡声器で教育音波を流し続けろ。
なに、これだけの人数だ。一人や二人駄目になってもかまわん。今日は徹夜で流し続けろ!」
「わかりました!大佐殿!」
「明日10時、我が隊はA国のB市へ突撃攻撃を敢行する。準備を怠るな!」
「わかりました!大佐殿!」
軍曹はかかとを鳴らしながら敬礼をした。
拡声器からは耳障りなFAX信号が流れ続け、鯖定食を途中で放り出してきた労働者は、銃の取り扱いの訓練を終わり、ロケット弾の訓練に移っていた。
大佐は軍曹達が設営した野営テントに入ると、テレビ電話で本部と交信を始めた。
「こちら、HJ隊。準備は滞りなく進行中。」
「こちら。本部。了解・・・・」
と、テレビ電話からはFAX音が流れ始めた。

前回のリライト編。
ほんと、楽天は何でもあるねえ。感心します。
野球の方はどうなりますか。がんば!

脂がたっぷり♪秋の鯖煮1切れ×5パック 

モノラルとステレオ

私がラジオを聴いていると、友人がやってきて、
「モノラルは古臭くていけない。ステレオに変えよう。」
と言った。
「ステレオもモノラルもちょっと音が違うだけなのだから、どっちでもいいではないか?」
と問うと、
「いや、ステレオでないといけない。そもそも人間の耳は二つあり、基本的に両方違う音を同時に聞いているのだ。」
「違う音を聞いていたって、頭の中では一緒になるだろう。」
「一緒にはならない。二つの目で物を見ると立体的に見られるように、音の奥行きが発生するのだ。」
「つまり、私は2次元の音を聞いている?と言うことか?」
「そうだ。2次元と3次元では世界が違うように、音に奥行きが在るか無いかは天と地の差がある。」
「そう言うが、音楽はそもそも空気の振るえ。つまりリズムとメロディーではないか。
つまり、左右で違ったとしても、基本的なものは一つではないか?」
「違う。両方の耳で聞こえたものをその様に再生する事でより臨場感が感じられるようになる。」
「お前は、より多くの情報がより多くの感情をもたらすと考えるのか?」
「極論ではあるが、間違いではなかろう。」
友人は少し得意げに言った。
「そうかも知れない。しかし、だからと言ってステレオがモノラルに勝るとは言えないと思うのだが?」
「そうだな。価値に絶対はないからな。」
「つまるところ、好き嫌い、又は気にするか否かの問題にまでレベルを下げることができるのではないか?」
「そういうと、身も蓋も無くなるが・・・・」
「であれば、私が先に言ったようにどっちでもいいのではないか?」
「まあそう言われればそうだが・・・・・」
と、友人は私に言いくるめられ、嫌な顔をした。
しかし直ぐに反論してきた。
「しかし、音を3次元化することにより、より表現の仕方が増えることになりはしないか?」
「理屈上そうなるね。」
「そうだとしたら、2次元のままで満足するのはそれでもよいが、可能性を求めるのであれば3次元、つまりステレオではないか?」
「確かにそうかも知れない。右から左、上から下へなど立体的に表現できればそれだけ幅が広がり、人間の感情を直接刺激できるからね。」
「そうだろう!」
友人は、勢いづいた。
「しかし、確かニーチェが言ったと思うが、音楽はある意味で大変危険なものではないか?」
「と言うと?」
「感情に直接及ぼす影響が大きいと言うことではないかな?」
「具体的に言うと?」
「例えば突撃ラッパ。一時、人間から善悪、死の恐怖を忘れさせる。」
「確かにそうだな。ある音楽を聴くと感情が音楽に掴み取られ、左右される。」
「であれば、むしろ我々はモノラルで感情を防御する方が良いのではないか?
お前はお前の感情に土足で入ってくるやつの方が好きなのか?」
「そう言うと苦しいが・・・・・そこまで考えて聴かなきいけないのも疲れると思うけど・・・」
「詰まるところ、好みだろうけどな。」
「まあそうだね。」
友人は納得したようではあったが、話の出口には納得していない様子だった。
ラジオからは、「ワルキューレの騎行」が流れ始めたていた。

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カレー屋さん

郊外の大型ショッピングセンターの駐車場から歩いて直ぐのカレー屋のカレーは、油分が少ないがしっかりとコクがある。
「市販のカレールーは一切使用していません。」
との事だ。
小さなプレハブ店舗の前には、店主が作ったらしい芝生の庭があり、客はセルフでその庭に置かれた席で食べる。
「何が入っていて、どうやって作るの?」
窓口で、お金を払いながら若い女性が尋ねた。
「内緒です。すみません。」
店主はお金を手提げ金庫の中に入れながら答えた。
メニューは、
骨付きチキン、大きなジャガイモがそれぞれ一個入ったさらさらのチキンカレー。
鳥挽肉のキーマカレー。
とろとろの豚バラブロックが2個入ったポークカレー。
レンズ豆を使ったダルカレー。
の4つだけ。どれも600円。
店主は
「始めは基本をしっかりとしたいので。」
と言う。
先ほどの女性客は、チキンカレーの入った器と、コップにスプーンと水を入れたものを手に持って空いている席に座った。
天気のよい日はこうやってピクニック気分で食べられるが、風雨がきつい日は客は車まで持ち帰って食べた。
幸い、ここ数日は秋の晴天で、日曜日の今日も木陰で虫が鳴く気持ちのよい日差しだった。
白いご飯とカレーを一口食べると、香辛料の香が鼻を抜け、程よい辛さが舌を刺激した。
辛さの調節はカイエンペッパーのスープで行っているらしい。
女性は鞄からカメラを取り出して、一口食べたカレーを写真に収めた。
どうやら、期待に沿ったらしい。
そして、カメラを脇に置くと、再び食べ始めた。
女性の斜め前の席には、若いカップルが食べていた。
「ちょっとちょうだい。・・・・・からー。何辛?」
「大辛。美味しいんじゃない?」
「そうね。油でもたれないしね。」
「何が入っているのかな?作れるこれ?」
「そうねえ。出汁はきちんと採らなきゃいけないと思うわ。コクの素だから。後は基本的に具はミキサーでペースト状にしてと言う感じじゃないかしら。
スパイスの基本はパプリカとターメリックと胡椒とカイエンペッパー、唐辛子ね。後は塩が大事じゃないかしら。
生姜とニンニクもたくさん入っていると思うわよ。」
「今度作ってみてよ。」
「いいわよ。その代わり、後片付けは・・・・」
「やるやる。」
男は、スプーンを止めることなく口に運んだ。
「ご馳走様。美味しかったわ。何処に返せば?」
「こちらで頂きます。」
と、プレハブ店舗で店主は客から皿を受け取った。
「何処に行こうか?」
「そうね。お腹も膨れたし、街にでも出てみる?」
客は満足そうにカレー屋の庭を後にした。

最近カレーがマイブーム。
スパイシーでコクのあるさらさらのカレーが大好きです。
ホットなドライカレーも。

カレーのすべて

神様のお酒

今は昔。
お爺さんが濁酒(どぶろく)を仕込んでいる最中、重たいカメを持ち上げた時ぎっくり腰になった。
婆さんは畑に行っており、お爺さんはカメを下ろすに下ろせず困りはて、額からは脂汗が流れ出していた。
そんな時、お爺さんがふと神棚を見上げて再び目の前を見ると、白い着物を着た子供、未だ五・六歳の男の子が立っていた。
「坊主、誰か呼んで来てくれ。」
「そのカメを下ろしたいのか?」
「たいのだが、お前さんじゃ無理だ。誰か呼んで来てくれ。」
近所の子供にしては見覚えの無い顔の子供だった。
「貸してみろ。」
子供はそう言うと、軽々と爺さんが一抱えにしていた濁酒のかめを両手で持ち、
「どこにおくのだ?」
と聴いてきた。
「水がめの隣に置いてくれ。」
やっと腰を下ろせたお爺さんは、その場にへたり込んだ。
「これでいいのか?」
「有難う。ところで坊主、ドコノ子だ?」
「おいらは神棚の神様だ。お前さんが助けてくれと言うから出てきてやったのだ。」
小さい神様はそういうと、布団を敷き、爺さんをひょいと持ち上げ軽々と運んで寝かせた。
「さて、次は何をしようか?」
「濁酒の仕込みも終わったことだし、婆さんが帰ってくるまで遊んでおいてくれ。」
そう言われると、小さい神様は外に飛び出し、遊びに行った。
晩飯時になると、小さい神様はきちんと帰ってきて、お婆さんの作ったご飯をたくさん食べて直ぐにすやすやと眠ってしまった。
それから、お爺さんとお婆さんは、神様を大変かわいがって育てた。
小さい神様はぐんぐんと大きくなり、一年も経つ頃には立派な青年になっていた。
青年になった神様は畑仕事もこなし、村の仕事もテキパキとした。
そして、やること成す事全てにおいて、間違いが無く、完璧にこなした。
やがて村人達の噂は広まり、近隣の村人達も青年の神様の元に集まり万事相談するようになった。
そんな月日が流れたある日、青年の神様はお爺さんとお婆さんに
「そろそろ私は結婚相手を探しに旅に出なければなりません。
神棚の神様は、ちゃんと次を手配しておきましたので心配は要りません。
長い間有難うございました。」
と打ち明けた。
お爺さんとお婆さんは大変悲しんだが、神様の都合も都合なので、
「いい相手が見つかるように。そして、いつかまた縁があれば。」
と青年になった神様に言った。
神様は、酒が大好きなお爺さんとお婆さんに
「これは私の国の、お酒の素です。次に濁酒を仕込む時に是非お試しください。」
と一袋のお酒の素を渡した。
そして青年の神様は、村人達に惜しまれながら旅立って行った。
あくる年、お爺さんは神様に貰った酒の素で酒を造ってみた。
出来上がってみると、なんとも言えない美味しいお酒が出来上がった。
自分一人で飲んでは勿体無いので、お爺さんとお婆さんは村人達にも分けて、皆で飲んだ。
それからその村は酒どころとなり、酒を飲んだ村人は、決まって長生きをしたそうな。

湯豆腐の季節となりました。
美味しい日本酒と、はふはふの湯豆腐を食べたいですね。
京都のある湯豆腐屋さんの仲居さんに教えてもらった
自宅での湯豆腐の美味しい作り方は、
豆腐は湯だって一分程度でちょうどだったような記憶です。
ぐつぐつやらないで、出来上がったら火から下ろして、又は火は小さくして食べましょう。
日本酒は純米。
アー極楽極楽。

京都全日空ホテル