少年は52点と書かれたテストをびりびりに破って、川へ捨てた。
テストを捨てたのは2回目だった。
「そのこと」を発見したのは、朝の漢字テストの時だった。
前日、少年はきちんと漢字の練習をし、そのテストに臨んだ。
なので満点を取る事は出来た。
しかし、0点だった。
なぜ0点だったのか?
少年は、漢字を全て書くことは出来た。
しかし、数日立てば漢字の何割かを忘れてしまう。何か変だ。
では、紙とは何なのか?
いつか受験で、紙に答案を書いてそれを誰かが採点し、自分の人生が左右される。
と言うことは、紙というのは自分の人生を左右するものなのか?
テストは出来の悪い時だってある。
それなのに、なぜ?
人生を紙に左右されなければならないのか?
そうか、人間の文明は紙から生まれたのだ。
紙が無いと、英知は次の世代へ受け継がれない。
紙があるからこそ、知恵を蓄える事ができ、次の世代が飛躍できるのだ。
と、考えた少年は、急に、紙というのもが自分に重たくのしかかってくるのを感じた。
それは少年の息を止めそうにまでなった。
そして、少年は紙と徹底的に戦うことを決めた。
最近DVDで見た、ターミネータのコナーだって機械と戦った。
本当に戦う相手は、機械ではなく「紙」なのに、と少年は考えた。
そうして少年は52点のテストを破って捨てたのだった。
本当は80点ぐらいは取れたが、文字を紙に書くことを極力避けるために52点となった。
0点を取れば誰かにこの戦いがばれてしまうので、そこそこの点は取る必要があった。
なので、記号問題は許される範囲ではあった。
その様な孤独な戦いを続ける少年は、ある時、自分の部屋の本が、紙でできていることに気づき愕然とした。
お金だって紙でできていた。
それでも紙と戦おうと思い、少年は地道に自分のルールでその戦いを続けた。
が、ある朝、トイレットペーパを使った時に少年は敗北を認めた。
それも紙でできていたのだった。
それからしばらくたって、少年はこんなことがあったことすら忘れた。
しかし、少年の奥底には、小さいが、固い石のようなものができていた。
了
少年とまではいかないでも
観念に囚われることは誰にでも起こりえます。
そしてとても厄介なやつです。
観念って。
コンプレックスの正体って観念かも?
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