宇宙船屋が、飛びつくように電話に出た。しかし、非常に落ち着いた声で、ゆっくりと
「ありがとうございます。宇宙船屋です。」
と受話器に向かって喋った。
大体の客は、第一声で、落ちるかどうか決まる。
感じの良し悪ししか素人は判断基準を持たないと言うのが、長年この商売をしてきた、彼、宇宙船の製造から販売まで手がける宇宙船屋の持論だ。
後は、客を如何に気持ちよくさせるか。
ある客は割引、他の客は安全性。オプション、お買い得感等、客が一番欲しい答えを与えてやればよい。しかし、それが一番難しい。
「宇宙船なのだが・・・・・」
「はい、当社は製造から販売まで行っておりますので、何なりとご相談ください。」
「ま、一台買おうと思っているのだが、中型船でいくら位からあるかな?」
これは、お買い得を重視する客で、結構面倒しいかもしれないと思った。
値段はオプションに左右される。少しでも安いものを、お得に買おうとすれば、自ずとあれこれ付けたり引いたりする必要がある。こういう客には、こちらから決めてやらなきゃいけない。
面倒だ。
「ご予算は如何程でございましょうか?実用性と快適性を兼ね備えたものとなれば、ワンクラス下げてクラス最高のものを。実用性だけならワンクラス上のものを皆さん考えられます。」
「ま、予算は・・・・・」
そらきた。はっきりしないのだ。
「そうですね、よく売れるものは300Gクラスです。お値段は250万からですね。」
「へー。今度見に行ってもいいかな。」
後、時間がかかったが無事ご購入。めでたしめでたし。
「何しろ宇宙船だから、安全性と快適性を兼ね備えていなきゃ。あいつの言うように、ワンクラス落としていい買い物ができた。」
と、購入者のR氏は月の裏側軌道を航行中、漆黒の中の星を眺め、ワインを傾けて思った。アテは、スルメだ。
「そういえば・・・・スルメは宇宙船には厳禁って言ってたっけ?確かに、言っていたよね。」
R氏は、宇宙船屋に電話をかけた。
「え、スルメを持って行ったんですか?それはいけません。保証外となります。では・・・」
電話は向こうから切られた。
しばらくすると、R氏の乗った宇宙船は月の裏側の軌道を外れ、銀河系の外へ外へと流れだした。R氏は思いつく限りの連絡先に、何度も電話をかけたが誰も出てくれなかった。
「スルメを宇宙では食べないで下さいね。もし食べると誰とも話せなくなります。そして誰とも会えなくなります。」
と言ってはいたが、まさか本当だとは・・・・・
その頃、宇宙船屋は、スルメを口に銜え、次の宇宙船の鋲をハンマーで打っていた。