砂金

工場の生産ラインで働いていた職人が、扇の要を外したように頭から崩れ、足元には一山の砂金が残っていた。
工場長は経営者に報告したが無視され、生産ラインは止まらなかった。
しかし、次の週も同じように、二人の職人が砂金になった。
その次の週になると、雪崩を起こしたかのように全ての職人が砂金に変わり、生産ラインは完全にストップした。
強欲な経営者は事業をたたみ、手にした砂金で豪邸を建て、優雅な生活を始めた。
テレビのニュースでは人間砂金化事件が連日報道された。
「砂金が誰の物か?」
が大きな問題となり、事件の特異性から連邦会議で議論された。
しかしなかなか結論は出ず、街の工場・生産現場では人間砂金化事件は次々と起こっていった。
造幣局でもそれは起こり、国家の紙幣・貨幣は生産がストップした。
暫くすると世の中から物が無くなり、トイレットペーパー一巻きが砂金1kgとなった。
しかし、直ぐにトイレットペーパーは世界中から無くなった。
薬も、ガソリンも、食べ物も、作られるもの全てが無くなった。
人々の間に誰かが秘匿していると疑心が起こり、強盗・殺人が起こりやがて国家間の戦争が始まった。
始まって見ると、稀に密かに隠している物が見つかり益々戦闘は激しくなった。
しかし、やがてそれも終わりを告げた。
人々は食うに困り、物に困り次々と倒れ死んでいった。
死体はやがて骨まで風化し、風がもち去った。
そして人類が滅亡したその時、一粒の砂金がピクリと脈打ちだした。

プロレタリアートなものが書きたくなって
書いていたら安部公房の「洪水」の習作となってしまったもの。

安部公房全集(030(1924.03ー199)