裂きイカ

日曜日も酒を飲んだ。
土曜日も金曜日も。
風呂上り、パンツとシャツだけ羽織った彼は、扇風機にあたりながら机の上の裂きイカをつまみにして今日も飲んでいる。
今朝は胃が痛かった。胃腸薬を飲んで出勤したが、昼飯を食べた頃から気持ちが悪いのは何とか治ったようだ。
その時、もう酒は止めようと心の中で思った。
営業先で出された、味気ない茶碗の不味いお茶を飲む時も、今日からは酒を飲まないようにしようと思った。
とりあえず木曜日までは。
しかし、一日の疲れが、何の成果も生まない営業の疲れが彼の心に忍び寄った5時ごろ、昼の禁酒の思いはどこかに追いやられていた。
癖の悪い酒ではない。ただ量が多いだけだ。
明日の仕事のことを思えば、9時以降は飲めないし量は飲めない。
だから風呂上りに350mlのビールを一本飲むだけだ。
彼の目には眺めているテレビの映像が映っていた。
「このまま肝炎にでもなってノタレ死ぬのだろうか?
不況は続いているし、失業率だって過去最高だ。
今の仕事は楽ではない。給料だって安い。
しかしなぁ。」
彼はまた裂きイカを口に運んだ。
「この裂きイカだってそんなに安くない。
一袋300円もする。スナックの方が安上がりだが、油が多いし高コレステロールだ。
イカは確か、タウリンがあるから、コレステロールは高いが大丈夫だったよな。
ちょっと心配になってきたなぁ。ネットで調べるか?
まあ、明日昼休みにでも調べよう・・・・・」
彼はグラス一杯目のビールを飲み干し、最後の二杯目をグラスに注いだ。
「350ってすぐ無くなるよな。
こうやってリラックスしていると全く酔った気がしないのは何故なんだろう?」
ビールの泡を口に含むと苦美味(にがうま)さが舌に広がり、金色の液体を喉に落とすと、先の心配が幾分和らぐようだった。
「こうやって無駄に時間を重ね、年をとり、何も成し遂げないまま・・・・」
再び裂きイカを奥歯で噛み締めた。
テレビの中では、誰かが逆転ホームランを打っていた。
扇風機を弱にして彼は寝転んだ。
「いったい、こうやって一杯やっている時間って一年のうち何時間なんだろう?
この時間に何かやれば何かできるかも知れない。そう言っても、昔の夢は未だ実現の目処も、半歩も進んではいない。
しかし仕事から帰って更に何かするとなると・・・・・。
そういえば、昔、電車で1時間の遠い高校へ通っていた時も疲れ果てて、帰宅してから勉強しようなんて少しも考えなかったよな。
なんだかその頃から変わっていないような、その延長上に今があるのは間違いはない気がするなぁ。
だったら酒は関係ないか。確かに酒は好きだが、その前の問題かもな・・・・。」
彼はその様な下らない事を思いながらグラスのビールを飲み干し、机の上の最後の裂きイカに手を伸ばした。
めくれたシャツの下の彼の腹周りには、なかなか取れない脂肪が積み重なっていた。

仕事後の一杯って美味しいですよね。
スポーツ観戦しながらもサイコー。
ビールも第三のビールも、いつも使うグラスではなくて
その夏に買った新しいグラスに注いで飲むといっそう美味しくなるのは何ででしょう?
大笑い

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