3月の半ばも過ぎた頃、富山へ出張へ行くことになった。
大阪からは、特急が出ているが、車で行って寄り道でもして、のんびりしたいと思った。
それに、昔の友達の顔も見てみたい。
車のナビゲーションに従って高速を降り、信号で右に曲がった。
目的の会社までは相当ある。
結構山の方へ走って行くことになった。
北陸特有の散居村の中の道だ。
道の横の用水路には、たくさんの綺麗な水が光を乱反射しながら流れていた。
富山の平野はそのまま海へと流れ込む、微妙な傾斜を持っている。
大きな視点に立てば、立山のすそ野、イコール、富山の平野と言っても良いのかもしれない。
続く田んぼの中にはぽつんぽつんと、それぞれ独立した林がある。
その林の中に家がある。これが散居村というものらしい。
よく晴れた日で、空は、東に見える立山の稜線に切り取られているだけで、後は日本海との接点まで続いている。
車のナビは、真っ直ぐ上を指したままで、黙ったままだ。
やがて、緩やかな上り坂になり、だんだんと道が曲がってきた。
立山までは行かないけれども、そのふもとに目的の会社がある。
車は、林の中のつづら折の道を上り始めた。
木々の間には、未だ数十センチの残雪があり、一面を覆っている。
が、木々の根元の周りだけ雪が解ける、いわゆる「根開け」があった。
残雪の上には、雪の重みで折れたのか、枯れ枝等が落ち、真っ白ではない。
道の両脇はガードレールは見えず、それに代わる様に、こちらは真っ白な雪が残っていた。
三脚を出し、この光景をカメラに留めようとしている人がちらほらといる。
確かに、このような光景はそう見られたものではない。
ふと、ナビに目をやると、目的地まで10分と出ていた。
約束の時間には、早すぎるようだった。
私は車を脇に停め、エンジンを切って、しばしこの林の残雪の、根明けの光景を見ることにした。
車から外に出ると、雪が音を吸収しているのか、途端、静かになった。
どうして根元の周りだけ雪が融け始めるのが早いのか?
一説によれば、冬の間、木々は凍っているらしい。
そして、背の高く太陽の光を最初に受ける木がまず融け始める。
脈を打ち始めた木は地中の水分を吸い上げ、徐々に温度を上げていく。
その温度の輻射熱で根元の雪が融けるらしい。
理屈はそうかもしれないが、私はこの光景から目が離せなかった。
バキッという音に首を向けると、
朽ちた枝が折れたらしく、落下途中に他の枝にぶつかり、はねて、鈍い音を響かせていた。
そして、最後には雪の上にサクッと落ちた。
未だ芽吹きは遠く、儀式がゆっくりと進められているようだった。
私の中ではザワザワと、何かがざわめき始めていた。
了
淡々と書く方法は評判がよろしくないようですが、
これはまあまあ、出来はいいのでは?
うーん・・・
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