プシュー。
「プシュー・・・・プシュー」
彼は古い木造の階段を一段上るごとに息をはいた。
「プシュー」
そして、二階に上るとアイロンをかけ始めた。今度はアイロンが
「プシュー」
と、シャツを伸ばしていった。
アイロンをかけ終わると、スニーカーを履き散歩に出かけた。近所の家の間を縫うように黙々と歩いた。いつもの折り返し地点で彼は息を吸った。そして再び歩きだした。しかし、「プシュー」とは言わなかった。
彼は自分でその変な癖に気づいていた。しかし、散歩のときは何も考えないのが彼のポリシーだったので、大きな石や、犬の糞をよけながら歩いた。
途中、いつものパン屋でバケットを1本買って、小脇に挟み市場に行った。今日水揚げされた魚がたくさん並べられ、どれも安かった。彼はそこで舌平目を一枚買った。
家に帰ると、フライパンでムニエルを作り、昨日の残りのラタテュユを暖め、バケットにバターを塗って食べた。
そのころになると、もう彼の中には蒸気は残ってはいないようだった。