髪は金色で、肌の色はまっ白。
身の丈は天井より高くて大きく、分からない言葉を喋る。
そんな話は、あっという間に街に広がり、町役人の知る所となった。
そんな事があってから、十数年。
長崎の出島に、一艘の帆船が一年がかりの航海の末たどり着いた。
外国人は直接長崎の街には入れず、出島内のみ出入りが許される。
沖に船を泊め、小船で上陸した。
そんな中に、ある青年がいた。ただの水夫のようで、特徴と言えば鼻の右にホクロがあるぐらいか。
「おお、これが日本か!」
建物は中国の物に似ているが、反りが少ない。男性は前髪を剃り、後ろ髪を結っている。
女性は長い髪を器用にまとめて上げている。
そして、日本人は執拗に頭を下げる。
これは挨拶で、握手や、キスと同じ意味を持つようだ。
同じ人間だが、随分と違う。また、途中寄航したどこの国とも違うある種の丁寧さがあるようだった。
彼は、日本人を見るなりそう思った。
出島の門をくぐって中に入ると、弓状に曲がった道の両側にずらりと木で作られた家々が建っている。
と、上ばかり見ていると、前を横切ろうとした女性が彼の足を踏んでしまい
「すみません」
と女は謝った。彼の靴には跡が残ったが、彼にも跡が残った。
その後女は彼の子供を身ごもった。
しかし、それとは知らず彼は帰国していった。
それから数百年。
現在、出島は博物館として生まれ変わり、多くの観光客が足を運んでいる。
そんな博物館に、日本人の夫婦が観光で訪れた。
彼らが、出島商館が再現された二階の畳の上を、当然靴を脱いで見学し
「へー。やっぱり土足で。」
と、当時の、靴のまま畳の上に立っている西洋人の絵を見ながら感心していると、
その横へ靴のままで歩いてくる西洋人がいた。
「あかんで。靴」
日本人の男が、指差しながら言うと
「オオ。」
と西洋人は慌てて、靴を脱いで手に持った。
言葉は通じないが、分かったようだった。
ふと、日本人の女が
「貴方と同じ場所に。」
と男の肩を叩き、西洋人の顔を見るように促した。
西洋人もそれと分かったのか自分の鼻の右のホクロを指してにっこりと笑った。
「同じところにホクロか・・・」
日本人の男はおもむろに手を差し伸べ握手を求めた。
それに答え、西洋人は丁寧にお辞儀を返した。
笑いがはじけた。
それから日本人の夫婦と西洋人は、手を振りながら一時の交流に別れを告げた。
了
長崎の旅情に誘われて書いてみました。
旅の疲れで筆は滑っています。
が、過去と現在が不思議に交差する長崎の街はとても楽しい空間です。
訪れてみては?
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