幾分長い信号待ちから、信号が青に変わってしばらく走ると、私の車は、鏡のように磨かれたタンクローリーのタンクの後ろを走り始めた。
緩やかなカーブで、タンクの横に「・・・牛乳」の文字が見えた。
この辺りにある牧場から牛乳をしこたま積んで出てきたらしく、重たそうだ。
タンクはステンレス製で、その表面は辺りの景色を映しこんで光っていた。
前を見ると、自分が運転している姿がタンク後部の凸面に写り込み、流れる車窓と共に見えていた。
タンクローリーの凸面を見ながら運転していると、実際の運転の感覚がずれそうになる。
運転ゲームでもしているような錯覚が襲ってくる。
そのたびに周りへ視線を移し、現実にアクセルを踏んでいる感覚を取り戻した。
それでも、田舎の一本道を走っているせいか、タンクの中に吸い込まれそうになる。
タンクとの距離を余計に取って離れても、凸面の中の自分が小さくなるだけで依然として見えていた。
いや、見てしまっていた。
信号で止まると、嫌でも鏡を覗くように自分を見た。
運転席に座ってハンドルを握っている姿を自分では見たことがないので余計に気になるのか、いよいよ凝視してしまう。
タンクが動き出し、自分自身を見ながらアクセルを踏んで行く。
ふと、自分がタンクの鏡の中から自分を見ている気がした。
危ない、と思いアクセルを戻すと、遠ざかった。
嫌な感覚が背中を襲った。
タンクの中に閉じ込められ、運転しているのは映った影だった。
タンクから離れないように慎重にアクセルワークを行い、どうしようかと考えた。
まだ目的地は遠い。
そうこうしている内に、車がトンネルに入った瞬間、ふっと、体が車のシートに戻っていた。
急いでスピードを落とし、ハザードを点けると、追いした別の車がタンクとの間に入って行った。
トンネルを抜けると、さっき追い越した車が、タンクローリーにぴったりと、磁石で引っ付いたように走りながら遠ざかった。
私はゆっくりと、路肩に車を寄せて停車した。
自分の手をハンドルから離して、じっくりと手のひらを見た。
指を指でつまんでみた。
不確かな肉体感覚が、そこには存在しているようだった。
了
【送料込】カスピ海ヨーグルト手づくり用種菌セット