今回は「豆大福」作です
ガリガリ君の当たり棒
僕という人間は生まれつき運に見放されているのかもしれない。
父さんも母さんも青春時代にニキビとは無縁だったというけれど、最近ニキビが増えてきた。
鼻の頭のが治ったかなと思ったらこんどは鼻の下。「鼻クソニキビ」ってやつだ。
まるでもぐら叩きみたいに出てくる。痛い。赤い。カッコ悪い。
部活のテニスもパッとしない。小学校からやってるし、けっこう上手いと思うんだけれど、いかんせん僕の学校は上手い奴が多すぎる。
高校二年で158cmという身長も悲劇的だ。これは父さんの遺伝。うちの父さんは母さんより10cmは背が低い。
手も足も短い僕。前衛なんかではとても不利だ。今度の大会でも、やっぱりレギュラーから外されていた。
でも僕は意地でもテニス部はやめない。なぜなら青木かなえさんの存在があるからだ。
青木さんは女子テニス部。僕の目から見るとだが、テニス部で一番可愛い。いつも一生懸命で、ハツラツとしている。
今は真っ黒に日焼けしているけれど、青木さんがコートの脇で靴下を脱いだとき、靴下に隠れている足が真っ白だった。
変態っぽいけど、その足にグッとくる。日焼けした腕のうぶ毛?も金色に光っている。脱色とか、女の子だからしているんだろうか。
青木さんにも見事にフラれた。直接ではなくて、間接的に。
僕は分かりやすい人間らしく、部活中につい青木さんのことばかり見ているのを榎本に指摘された。
「お前、青木さんばっかり見てね?好きなんじゃね?」図星を指されて赤面。
「っるせー!んなことねーよ!」とは言ってみたものの、その日の部活が終わる頃には僕の好きな人は青木さんということが部活中に広がっていた。
学校の帰り、近くのファミマで青木さんを含む女子グループが雑誌を見ていた。気まずいけれど、逃げるのももっとイヤだ。
アイスやジュースを物色するふりをしていると、グループの一人が雑誌を見ながら青木さんに言った。
「やっぱやまピーかっこいいよねー、ぜったい今度のドラマ見るぅ。かなえもやまピー好きだよねー?」
「うん、やまピーってそんなに背高くないけど、170はあるよねー、私、自分より背の低い人ってありえないしー」
・・・明らかに聞こえよがしな感じだった。青木さんは僕より背が高い。165cmはありそうだ。自分より背の高い女の人が好きだというのも父の遺伝か。
それより良く考えてみよう。
今の瞬間、僕は間接的にフラれたのだ。告白もできないままに。メル友にもなれないままに。
青木さんたちがファミマを出て行ったあと、僕は「ガリガリ君」を買った。
本当はジャイアントコーンが好きだけれど、コンビニで買うと126円もするし、チョコにナッツはニキビの大敵だ。
ガリガリ君でも食いながらこの失恋の痛みを癒すしかない。
こんな時にでも食えるのが僕のイマイチかっこよくないところだけれど、いやな事があると食に走るというのは、母さんの遺伝かもしれない。
ガリガリ君を食い終わると、なんと棒に「一本当り」と刻印してあった。
これまでの16年の人生で、何かに当たるというのは初めての出来事だ。
クリスマス会のビンゴゲームとか、友達といったボーリング場のインスタントくじとか、僕だけ当たらない、ということはこれまで多々あったけれども。
単純に嬉しかった。
失恋の痛みと、ガリガリ君で当たり棒が出た嬉しさと、どちらが大きいかといえばもちろん失恋の痛みだけれども、まあなんというかガリガリ君に励まされたような気がしたのだ。
高校二年の男子の食欲ならすぐに当たり棒をアイスに換えそうだが、僕はその棒を丁寧に舐め、鞄のポケットに入れた。
ガリガリ君の当たり棒は、今洗われて僕の机の上に鎮座ましましている。
「臥薪嘗胆」とはいうけれど、苦いものを舐めるよりも、僕の場合は甘いアイスの棒を見て「まあ、いいこともあったじゃないか」と暗くなりがちな気持ちを明るくしようとする。
身長のみならず、小さい男だとは思うけれど、しばらくの間はこの当たり棒のお世話になろう。
了
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