19時発のバス

プルプルプル・・・プルプルプル・・・
携帯電話の呼び出し音が耳障りに聞こえた。
音は、鞄の中から取りだされ、さらに大きくなった。
プルプルプル・・・
「はい。あたし。エー!」
19時発のバスは街の中で人々を吸い込み、通路には隙間なく人が立ち、堤防の上の道路を、ベットタウンへ向けて走っていた。
切られる様子のない携帯電話に、窓際に座っていたサラリーマンが
「うるせー」
と、見えない声へ声を上げた。
「ヤベー。切るよ。あはは・・・」
「だってサー・・・・」
電話ではなくても、女達の声が騒がしく続いた。
「うるせー」
サラリーマンはもう一度言った。
他の乗客は黙って、暮れかけた車窓に目線を送っていた。
バスの運転手が
「他のお客様のご迷惑になりますので、車内ではお静かに願います。」
と、細部がよく聞き取れない車内放送をした。
「ヤベーよ。ははは・・・・」
「それでサー」
女達は、少し声を落として続けた。
と、プルプルプル・・・プルプルプル・・・
再び、電話の呼び出し音がした。
女が電話のボタンを押して耳に当てると、コトンと電話が床に落ち、女は消えた。
女の連れは、床に落ちた電話を拾い電源を切ってポケットに入れた。
停留所に止まったバスの扉がプシューと開き、おばあさんが上がって来た。
座っていた乗客の一人が席を立ち、おばあさんがそこへゆっくりと腰を落とした。
運転手は、ミラーの中でそれを確認し、
「・・・ご注意ください・・・」
と、ゆっくりとバスを発車させた。
車窓に見える家々の窓には、明かりが点き始めていた。

お疲れ様の一日に・・・

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