街の中心の、背の一番高い杉の木に留まった黒い鳥は大きな嘴を開き、
「夜が明けるぞ!」
と赤い舌を振るわせながら鳴いた。
すると何処からともなく、蝙蝠(コウモリ)の大群が飛来し空を埋め尽くした。
黒い鳥は依然として鳴き続けた。
蝙蝠は黒い鳥の頭上を中心にして、渦を巻くようにぐるぐると旋回し出した。
やがてその中心に一層暗い穴が開き始めた。
その穴は周りの光をぐんぐん吸い込み、夜の光全てを吸い込もうとしているかのようだった。
黒い鳥の頭の毛が逆立ち始めた。
東の山の端が薄っすらと白ぎ始めた。
空中の真っ黒なその穴はその光さえも吸い込む勢いで、街中の光を吸い込み続けた。
「夜が明けるぞ!」
黒い鳥はけたたましく鳴き続けた。
やがてその真っ黒な穴は空中から徐々に速度を増し、竜巻が地上に降りるように黒い鳥の頭上へ降りてきた。
穴と黒い鳥が接した瞬間、黒い鳥はその穴の中へ飛び立った。
黒い竜巻は一瞬で上昇し上空に戻ると、渦を巻いて飛んでいた蝙蝠は一瞬で回転を止め四方へ飛び去った。
その刹那、東の山の端からは日の光が輝き、今まで闇に浮かんでいた樫の木を一光の下に浮かび上がらせた。
黒い鳥が留まっていた枝には早くも雀が舞い降りようとしていた。
了
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