庭の隅、草の間を縫うように蟻達が餌を持って歩いている。
それを、麦藁帽子の下で屈んで見ていたアツシは、もう30分ぐらい動かない。
次々に違う蟻が餌を持ってアツシの下を横切っていく。
延々と続く規則正しい蟻の列は、アツシにピラミッドの工事をする労働者達を思い起こさせた。
街の図書館で読んだ「ピラミッドの不思議」の挿絵がアツシの脳裏に浮かんでいた。
アツシは小さな木の枝で一匹の蟻をつついてみた。
蟻は迷惑そうにその木をよけたが、直ぐに線路の上を走る列車のように、元の通り道に戻って進んだ。
今度はその枝を横倒しにして、蟻の通り道に置いてみた。
蟻は餌を持ってその枝を乗り越えようとするが、体制が整わないのか、登るのは無理みたいだった。
だんだん蟻が枝の前に溜まって来た。
興味深そうにアツシはそれを見ていた。
すると一匹の蟻が枝に沿って歩き出し、枝の端までくるとそこで向こう側に回り、また元の通り道へ辿り着いた。
それに続いて他の蟻も枝を迂回して歩き出した。
枝の前の溜まっていた蟻は直ぐに再び一直線になって進みだした。
アツシはやっと立ち上がり、餌を持った蟻の進む方向に沿って歩き出した。
直ぐに蟻の行進は見えなくなった。
最終的に蟻が何処に行っているのか?アツシは庭の塀際の下を棒でつついてみた。
すると、途端に蟻達が四方八方にあふれ出してきた。
アツシは少しひるみ、後ずさった。
しかし、アツシは勇気を奮い起こし、再び蟻達が溢れかえるその穴を良く見ようと、近づいてしゃがんだ。
蟻達はアツシの存在など気に留めないようで、壊れた巣の中から小さな土を持っては外に出てきた。
蟻に反撃されない事で安心し落ち着きを取り戻したアツシは、蟻が小癪に思えてきた。
そしてその小癪な蟻にもう一撃を加えようと思った。
手に持った枝をびくびくしながら其の穴にねじ込んで・・・・・
と思ったら後ろの家の網戸の中から
「お昼ご飯よ~」
とママの声が聞こえた。
アツシは何か救われたような心持がし、手に持った枝をそこに落とし、蟻の巣に背を向けた。
アツシの頭の中には、お昼ごはんの事で一杯になっていた。
了
さすがにピラミッドは売ってはいないみたいですね。
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