「よし。次!」
教官らしき人物が私に言った。
私は、ひょいと飛び上がると、両手で空気をかき、上昇していった。
風はなく、すいすいと斜め上に昇っていく。
後ろの方では
「おお!」
と感嘆の声が聞こえた。
気分が良かった。
暫くすると、谷に差し掛かった。
地面では、地が白で襟だけが赤色の学校の体操服を着た女の子が、走ってこけて泣いていた。
体育の時間だったっけ?
と、大きな松の木の天辺に差し掛かりこのままではぶつかるので急いで手をばたつかせる。
すると、くいっくいっと上昇し、松ノ木の天辺を通り越せた。
まだまだ上昇できそうだ。
すると、下から私を見上げていた友人の純一が
「お前、結構上に昇れるんだな。」
と言って、手をばたつかせて昇ってきた。
「おれはこれが限界かな。」
と、体育館の屋根の上の辺りでとまっていた。
「ああ・・・・そう。」
と私は得意げに答え、依然として上に昇っていった。
このまま宇宙まで行けるのかも知れない。
そう思って空を見ると、青がだいぶ濃くなってきた。
この前テレビで見たような成層圏ではないかと思った。空気が薄くなってきたのかもしれない。
だったら手をばたつかせても、空気抵抗が減るのだからもう上には昇らないだろう。
と思ったが、依然として上に昇って行った。
止めようとしても止まらない。むしろ空気抵抗が少なくなって加速したようだ。
だんだん息が苦しくなってきた。
光る星がちらちらと見え出し、私は
「助けてくれー!」
と声にならない声で叫んでいた。
と、次の瞬間、底が外れたかのように落下しだした。
加速がぐんぐん加わり、私は体を縮こませるしかなかった。
力の限り手を握り締め、歯を噛み締めた。
地面にブツカル!
が、ふわっと体が止まった。
「あんまり調子に乗るなよ。」
教官の太い腕が私の体を受け止めたようだった。
私は恥ずかしくなり、他の皆が真っ直ぐ並んでいる列の後ろに急いで座った。
「よし、次!」
教官が言うと、次のものがひょいと飛び上がり、手をばたつかせて空へ昇って行った。
了
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