「私は、その計画に賛成だ。」
大統領が言った。
「ええ、私が計画に賛成します。」
と宇宙人が言った。
「さっきは、反対と言っていたが?何か考え方が変わったのかな?」
大統領は怪訝そうな顔を向けた。
「いえ、さっきから私は賛成していたはずですが。」
宇宙人は、少々怯えて困った様子で、テーブルの上の紙に鉛筆でいたずら書きを始めた。
「いや、確かに貴殿は、火星資源の採掘には反対すると言っておった。
それは、絶対確かなことである。
書記官、そうだろう。」
「はい、大統領。確かであります。」
「では、なぜ賛成なのか意見を伺いたい。」
大統領は、宇宙人に噛んで含めるようにゆっくりと聞いた。
「ええ、だから賛成なんです。これ以上答えようがありません。私が反対だったと言われますが、それはあなた、大統領の勘違いです。いや、私の勘違いです。断じて間違いありません。」
「これは困った。勘違いと言われても、記録にきちんと残っているのだから、貴殿が訂正しなければ、話が終らなくなってしまう。
ご存知のように、私の言葉は全て公式に記録され保管されています。今までも、そしてこれからもずっと。
ですので、正確かつ論理的にと言ってもよいのですが・・・・・いやいや、普通誰もが聞いて納得できる会話の内容での双方の合意でなければ賛成という合意が出たとしても結論とはならないのです。わかりますか?」
大統領は子供に諭すように宇宙人に言った。
「賛成と言うのがいけないのなら、反対だ。貴方、大統領は私に何を言わしたいのですか?
私が何も論理的に考えられない馬鹿だと言うのですか?」
宇宙人の手悪さで、紙は埋め尽くされ、鉛筆は芯がちびてしまっていた。
それでも、宇宙人は、執拗に紙に鉛筆をこすりつけた。
「いえ、いえ、違います。話がごちゃごちゃになってきましたね。
ひとまず元に戻して、火星の資源採掘には反対ですか?賛成ですか?
もう一度伺いましょう。」
「反対です。」
宇宙人は言った。
「反対ですか?先ほどは賛成とおっしゃいましたが?」
「私は反対だと言っている。今までも、これからもずっと反対だ。」
「どうも、おかしいですな。さっきは賛成とおっしゃった。今度は反対という。それでも賛成とは言っていないと言う。国防長官、どうするべきなのかね?」
大統領は、困った顔を向けた。
宇宙人は、すでに破けた紙も気にかけず、白い大理石の机を直に鉛筆でこすりつけていた。
「困りましたな大統領。」
「ああ、困った。翻訳機はちゃんと動いているのか?」
「はい。壊れてはいません。」
同時通訳が答えた。大統領の側近達ももう一度確認した。
宇宙人の握っている鉛筆が、ボキッツと折れた。
「あ、ごめんなさい。机を汚してしまいました。」
宇宙人は申し訳なさそうに言った。
大統領は、しばらく宇宙人をじっと見たあと、
「もう一度聞きます。火星の資源採掘には反対ですか?賛成ですか?」
「賛成です。さっきからもこれからもずっと賛成です。」
宇宙人は、はっきりとそしてきっぱりと言った。
「壊れていないよな、翻訳機。」
大統領はもう一度確認し、かつ尋ねた。
「さっきは反対だと言って、今は賛成だと言う。理由は何なのですか?」
「ええ、だから賛成なんです。これ以上答えようがありません。私が反対だったと言われますが、それはあなた、大統領の勘違いです。いや、私の勘違いです。断じて間違いありません。」
「よろしい!」
大統領は決断を下し
「国防長官。この宇宙人を連行しろ。可哀そうだが仕方がない。この宇宙人とは会話ができないからな。
彼等の会話は言葉遊びに過ぎん。また、意思がまったく無い。と言うことは聞いてもしょうがないと言うことだ。
適切に保護する以外に方法が無かろう。」
と言った。
国民は大統領の決断を支持した。
宇宙人は?と言うと、適度に保護された環境で、地球人と接触を持たないように生活させると不思議と落ち着きを取り戻した。
しかし、地球人と話すと途端手をぶるぶる震わせて言うのだった。
「私達は地球人に強制的に隔離されている。これは人権問題である。私達は地球人との会話を望んでいる。」
と。
しかしながら、どんなに温厚な心理学者が話をしても、また忍耐強い言語学者が話しても彼等宇宙人との会話は成立しなかった。
ただ、お互いがお互いを嫌うようになるのは間違いのない結果であった。
Vixen(ビクセン)天体望遠鏡R135S-SXW 13.5cmニュートン式反射望遠鏡