不治の病にかかった私は、法律上タイムマシンの使用が認められた。
使用は一回のみとされ、飛び越える時間設定が問題だった。
早すぎれば、治療法がまだ開発されず無駄足となる。
遅すぎれば、その時代がどのような状況になっているか不明だし、家族とも完全に離れてしまう事になる。
そして、役場での手続き中、私は重大な手続きミスに気がついた。
タイムマシンの使用手続きの際、使用人数を一人としてしまったのだ。
二人で使用するには、タイムマシンの使用手続きを行う一週間前に、
もう一人分の申請をしておかなければならなかったのだ。
戸籍謄本と、結婚していれば婚姻証明書、本人の委任状、身分証明書、写真、印鑑を用意して申請しておかなければ、
タイムマシンの使用手続き時に二人申し込めない事になっていたのだ。
二人目の人の、一週間の信用調査期間が必要と言うわけだ。
そして、手続きを始めたら止める事が出来ない。手続きを止めることは、タイムマシンの使用権放棄を意味した。
なぜなら「タイムマシンの尊厳を守るため。」と言うのが知識人の出した答えだった。
「今、使用手続きを取りやめた場合は、もう二度と使用できません。」
「そこを何とか。これ事態、なかった事にしてくれませんか?」
「駄目です。法律で決められています。申請書をきちんと読まなかった貴方が悪い。」
「悪いのは分かるが、故意ではなく、これはミスなんだ。
女房と一緒に乗れないなら意味がないではないか。
自分の命と引き換えに、家族との別れを選べと言われても、貴方だって選べないでしょう?」
「法律で決められていますので仕方ありません。」
どうやら、この役人と話す限り解決の方法はなさそうだった。
妻は、好きにすればよいと言ってくれたが、タイムマシンに乗ること自体が別れを意味していた。
別の日に別の役人に何度も
「二人で使わせてくれ」
と頼んだが、
「法律で決められているので」
と受け付けてはもらえなかった。
聞くところによれば、かなりの賄賂をつかませれば、こっそり二人乗せてくれるらしいのだが。
私の体力もそろそろ限界で、あと一週間のうちにタイムマシンに乗らなければ未来に行ったとしても
治療の見込みがないと医者に宣告された。
私はもう一度、窓口に行った。
「二人で乗せてくれ。どう考えたって一人で生延びても仕方がない。
貴方だって、必要なパートナーと別れるのと死を選択しろと言われたら選択できないでしょう。」
「時間設定を二・三〇年にしてみてはどうなのですか?
それなら、奥さんもまだ生きていらっしゃるのではありませんか?」
「しかし、医者が言うには最低一〇〇年先ぐらいにしないと見込みがないんだ。
だから、何とか・・・・」
私は、小切手を役人に見せた。
「そういうことは受け付けておりません。」
「そこを何とか・・・・」
「いっそのこと、乗るのを止めたらどうですか?
これは個人的な見解ですが、もともとタイムマシンなんか無かったわけだから。
無いと思えば、悩むことも困ることもないのでは?」
「それは、論点のすり替えでしょう。」
・・・・・・
結局、駄目だった。
家に帰り、私は女房と話した。
そして私が取った決断をここで話したいのだが、
如何せん「法律で未来のことは喋ってはいけない。」ことになっているのだ。
「無いと思えば、悩まずに・・・・・
了
少々嫌味なオチとなっているが、
小説の構造自体は結構気に入っています。
話しは変わりますが、いくら楽天でも、さすがに「タイムマシン」は売っていないでしょう?
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前回のたまねぎのねぎを食べた感想。
美味しかったです。