ラジオ広告

 車通勤をしているので、ウィークデーは毎日ラジオを聞いている。
気の利いたおしゃべりと、天気やニュース。
「いってらっしゃい。」
と朝のラジオは勤労者を励まし
夜は「お疲れ様です」と慰める。
重たい体と気分が少しばかり軽くなる。
ほぼ一方通行のメディアだけれども、本当に優しい。
 そんな優しいラジオだが、時々始まる広告にはうんざりすることが多々ある。
突然押しかけられて営業トーク全開でまくしたてられるようで、
連呼される値段と共に「注文殺到!今回だけ!」と強調され、雰囲気が、がらりと変わる。
広告だからしょうがないか、と思いつつ聞き流すけれど・・・。

 「過払い金の請求は・・・」の広告もよく流れる。
 借金する事って多いのかなと世間知らずの自分は思う一方で、この広告が成り立つ事自体に疑問がむくむくと沸いて来る。
 流れはこんな感じと思っている。
 お金を必要とする人がお金を借りる。
借りた人が、貸主から必要以上に多く請求される。
借りた人は請求されるので必死でお金を返す。
借りた人は必要以上返したお金があるのかないのか分からないので、代理人を立てて調べてもらい貸主にお金を請求して返してもらう。
 そして、頭の中で、
 暴利をむさぼる高利貸しは時代劇の中の話なのでは?
 悪者をやっつけた水戸黄門ってそこでお金を得ていたっけ?
 これって政治が対応するべき問題ではないのだろうか?
と、この広告を聞くといつも思うだけなので、ここに書いてみた。

ある家老 二

 翌日起きると何時ものように飯を食べたが、それから後が続かない。
直ぐに謹慎を言い渡されるわけではないので、これと言ってやることが無い。
うるさい城に行かなくて良いと思えば助かるのだが。
やはり釣りかな。
家老(佳平・かへい)は、昔一通りそろえていた釣り道具を出してみた。
きちんとしまっていたので不具合はなさそうだった。
妻に釣りに行ってくると言って出かけた。
 朝、何時もの登城道とは違う道を歩くと自然違うものが見えた。
足取りもゆっくりだ。やらなければならない仕事も無い。
胸の痞えが無いとはこのように気楽なものか。
川沿いの土手に出て暫く上流に向かって歩くと小さな淵がある。
そこが昔からの釣り場であった。
誰もいない静かな水面に糸を垂らした。
朝日が頬を温めた。
ちょうどよいころ合いの石があったので腰掛けた。
昼飯に二匹ぐらい釣れればよかろう。
ぼんやりとしていると手に魚の引きを感じた。
あっけなく一匹釣れ、二匹目も程なく釣れた。
昼にはまだ時間があった。
さて・・・・・・
 こうして一人黙ってぼんやりしていると、日頃の自分がいかに余裕をなくしていたかがよく分かった。
日々右から左へ物事を処理するだけのでこれといって目標というものが無い。
歳をとってこう感じるのは自分だけなのだろうか。
そのうち登城が嫌になってきた頃に、嵌められたというわけだ。
昨今職があるだけでもありがたいとは思う。
街には食い詰め浪人が居るし窮状を見ると・・・・贅沢を言ってはいられなかった。
まあしばらくは骨休め・・・・・
帰り支度をしているとこちらに向かってくる若侍が三人あった。
三人は日頃佳平の下で働いてきた者達だった。
「佳平様、光機(みつき)家老の横暴を諫めていただけるのは佳平様しかありません。何としても戻っていただきたい。」
若侍の一人が佳平に言った。
「そう申してもな。相手のあること故そう簡単にはまいるまい。それにこうしてのんびりするのも悪くない。」
「佳平様。そのような悠長な・・・」
「腹は立つが立てたところでどうしようもあるまい。まずは事の成り行きを見るしかあるまい。
勢いついている猪を止めるには骨が折れる。止まるのを待つ方がよい。」
「では、いずれと思ってよろしいので」
「ま、そうなろうて」
佳平にそういわれ若侍三人は黙った。
「さ、謹慎になる者に近付かない方がよい。」
佳平は若侍三人とは別の道で自宅へ帰った。

 「さて、どうするか。」
放っておこうと思い気が晴れたのは半日のみだったようだ。
奴等の事を考えるとどうにかしなければならない。
が、気力が沸かない。
そこで佳平は、日頃親しくしている分家の付家老に手紙を書き若侍三人をよろしく頼む事にした。
光機家老も分家には口出しできまい。

ある家老

「この件に関して預かり知らない」
家老は言っては見たものの、自分の責任が無くなる事はないだろうと思い続けた
「しかしながら、立場上私の責任である。申し訳ない。」
あるものは苦虫を噛み潰したように下を向き、あるものは心の中で笑っていた。
三人の家老の席を狙っているらしいという噂を聞いていたし、それぐらいの野心があっても国のためには問題ではない。
「どうで御座ろう。一旦殿に申し上げて・・・」
別の家老が切り出し、
「よかろう・・・」
と場の雰囲気はここで裁可を出さず、殿の判断ということで家老職を解くらしい。
「では失礼する」
家老は先に立ち上がり帰ることにした。
廊下ですれ違う家臣の目は痛いが仕方がない。
いやいや、自分が思うほど他人は自分に興味はない。
おそらく謹慎となるであろう。
下手をすると切腹・・・いやそこまではなかろう。
隠居して家督を子供にという穏便なものになるのではないか。
問題は・・・いや、やめておこう。
どうにかする気は失せて、嫌気が差していた。
地位など欲しいものにくれてやる。
そう思うと心に残っていた重い空気が口から出た。
幾分心が晴れると久しぶりに旨い酒が飲みたくなった。
城からの帰路、なじみの酒屋により一升買い求めた。
自分で買い物をするのも久しぶりだ。
明日から何をするか?
とりあえず、裁可が出ると当分家から出られそうにないので釣りにでも行っておくか。
川沿いの土手には青い草が生え始めていた。