安部公房 作品


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文庫で読める 安部公房

終りし道の標べに―真善美社版 (講談社文芸文庫)
始まりの安部公房。もう文体、匂いは安部公房そのものである。
長編小説。高校時代のドイツ語教師阿部六郎に見せる。阿部は埴谷雄高に紹介。1948年「個性」2月号に1部を発表。
昭和23年10月真善美社から刊行。のち昭和40年12月冬樹社から刊行。これが決定稿となる。
壁 (新潮文庫)
壁 1951年刊。
唯物論から、シュールレアリスムの確立へ。
安部は1951年3月共産党に入党している。
芥川賞を取る。
他人の顔 (新潮文庫)
「他人の顔」
市川浩の「精神としての身体」を参考に読んで欲しい。市川の理論で綺麗に整理できそうな作品である。
第四間氷期 (新潮文庫)
「第四間氷期」
未来を知りたい、見たいと言う欲求。そこから出発し、現実に未来を知ったとき、驚きと共にどうしようもなく生理的嫌悪感が沸いてくる。
安部はこのタイムトンネルを使って、ある意味での価値観の相対化を行っている。
飢餓同盟 (新潮文庫)
「飢餓同盟」
幽霊はここにいる・どれい狩り (新潮文庫)
「幽霊はここにいる・どれい狩り」
は、安部の潜在的テーマを考えるには外すことの出来ない作品。
「幽霊と金という、いささか狂気じみた組合わせが、くりかえし私をとらえてはなそうとしない、テーマであるらしい。(「砂漠の思想」より)」
榎本武揚 (中公文庫)
「榎本武揚」
「第四間氷期」「終りし道の標べ」「けものたちは故郷をめざす」とこの小説のある共通するテーマは、二つの時代の間に生ずる解けない問題である。
「けものたち〜」の久木久三は、中国から敗戦国の日本という故郷への道を進み、「第四間氷期」の主人公勝見は、
「しかし、私が水棲人に対する裏切り者なら、君達は地上の人間に対する、裏切り者じゃないか!」
という、ある時代からある時代への移行に生ずる価値観の消滅と誕生に、果たして人間はどう対処してゆくのか、できるのかが問われている。
水中都市・デンドロカカリヤ (新潮文庫)
「水中都市・デンドロカカリヤ」
「デンドロカカリヤ」はコモン君が植物になった話である。決して植物人間になったわけではない。人間は植物なのだ。
この発想が、安部を読み解く大切なポイントとなる。
全く関係の無い事物が、必然的な繋がりを持つにいたると言う、「密会」にも通ずる安部公房独特の装置の一つが垣間見える小説である。
安部の変身が見事に描かれている。必読の一冊。
無関係な死・時の崖 (新潮文庫)
「無関係な死」の中に収録されている「誘惑者」の最後のフレーズを紹介しておこう。
「そう、すべて自由意志だと思い込ませることが、なんと言っても一番の安全弁ですからね。」
R62号の発明・鉛の卵 (新潮文庫)
「R62号の発明」昭和28年3月 文学界発表
これは単なる機械の復習などではなく「不安定な境界」を発明した、R62号の物語であろう。
他の登場人物にとって、R62号は「他者」なのである。
石の眼 (新潮文庫 あ 4-10)
「石の眼」
登場人物は、皆それぞれに、見えない仮定の敵に向かってデッド・ヒートを繰り広げるという共通点を持っている。
おそらく、それが、我々の社会の縮図なのかもしれない。
安部作品の中では政治的匂いの濃い作品である。
無駄なダムについて、いち早く警鐘を鳴らしていたともいえよう。
内なる辺境 (中公文庫)
「内なる辺境」
安部の思考・思想を考える上では外すことは出来ないだろう。
ユダヤ的なるものには、やはり他の表現だけでは置き換えてしまえない、ある独特なニュアンスがあるようだ。
と安部が「内なる辺境」で述べる時、単なる二元論だけで安部文学・文学をとらえることの危険性を感じなければならない。
人間そっくり (新潮文庫)
「人間そっくり」
ラジオドラマの私が、狂人との言い争いの末、人間の人間たる証明が無いことと、火星人の火星人たる証明書が無い事に唖然とさせられる。

証明の不確実性といえば、ゲーテルの定理と、メビウスの輪を思い起こしてしまう。
岸田秀の言葉を引用しておこう。
ある個人の属する集団のメンバーが全員一致して、当の個人を精神分裂病者にしようと思えば、理論的にそれは可能であろう。
夢の逃亡 (新潮文庫 草 121-13)
「夢の逃亡」
安部公房自身が「飢えた青春」と呼ぶ時代に書かれた短編を多く収録。
「牧草」
「異端者の告発」
「名もなき夜のために」
「虚構」
「薄明の彷徨」
「夢の逃亡」
「唖むすめ」
題名を読んでも分かると思うが、
観念的な小説が多く、リルケの影響が濃くでている。
燃えつきた地図 (新潮文庫)
「燃えつきた地図」
安部文学の中でも、完成された作品と位置づけられるだろう。
砂の女 (新潮文庫)
「砂の女」
代表作といえばコレだが、コレを論じても安部公房は捕まえられないだろう。
と言うのは、この小説は安部マジックにより創られたメビウスの輪である。
寓話として読むなら、あらゆる読み方が可能である。
今後も名作として読み継がれるであろう。
箱男 (新潮文庫)
「箱男」
この小説は雑報から始まる。
雑報とは
「現代社会の中で合理と不合理、理解し得るものと測り知れぬものとのどっちつかずなところを護り続ける」ことを強調する。
と山口昌男が「文化の詩学T」でロラン・バルトの文章を紹介している、それである。
その雑報の持つ性格が、「箱男」の作品の性格を物語っているように思える。
因みに、「砂の女」のラストはこの雑報とは一味違うが良く似た「告示」で終わっている。

「安部文学の雑報について」は、研究テーマとしてかなり面白いものになるだろう。
密会 (新潮文庫)
「密会」
この小説で登場する「明日の新聞」だが
「死に急ぐ鯨たち」の中に「明日の新聞」というインタビューがある。

「第四間氷期」の時間のずれで起こる問題に対する、人間のの弱さ、優しさが描かれているとする読み方も出来るかもしれない。
笑う月 (新潮文庫)
「笑う月」
「藤野君のこと」が収録されている。
友達・棒になった男 (新潮文庫)
「友達・棒になった男」
安部が繰り返し書いた「闖入者」の話。
「赤い繭」にも通じるところがある。
カーブの向う・ユープケッチャ (新潮文庫)
「カーブの向う」
これは「燃えつきた地図」へと形成される。
安部公房における「壁」は「砂漠」とアナロジカルな思考をする人もいるが、むしろ「壁」=「境界」ととらえたほうが良いように思われる。
「ユープケッチャ」
は「方舟さくら丸」へと形成される。

「チチンデラ・ヤパナ」は「砂の女」の原型とされる。比較が面白い。
方舟さくら丸 (新潮文庫)
「方舟さくら丸 」
この作品にも時間というテーマ・基軸が基本的にある。
テーマの一つの核戦争だが、なかなか現代人にはその恐怖感を感じることは出来ない。
核の恐怖については、「ニュークリア・エイジ (文春文庫) (村上春樹訳)」に端的に書かれているのが秀逸だと思う。確か581頁から583頁にかけて書かれていたと思う。
死に急ぐ鯨たち (新潮文庫)
「死に急ぐ鯨たち」
時代は東西冷戦から、テロの時代へ変わったが、強迫神経症的な政治はまだまだあるように思われる。
インタビュー、エッセーなど「砂漠の思想」を読む前に軽く準備運動をするつもりで読むとちょうど的な量。
砂漠の思想 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)
「砂漠の思想」
安部公房の思考を堪能できる一冊。
研究するには、必読の一冊。