スノードーム

作者:アレックス・シアラー
ファンタジーであり、恋愛小説であり、ちょっとホラーの趣もある物語。
まさに「物語」と呼ぶにふさわしい小説だった。
ある日、若い科学者クリストファーが姿を消した。彼は、ひたすら「光の減速器」の研究を続ける、ちょっと変わった青年だった。
失踪の際、彼は同僚のチャーリーにある原稿を残した。そこには、不思議な物語が綴られていた。
ドームのなかに信じられないほどのミニチュアをつくることができるエックマン。美術館を開き、財産も築いたけれども、子どもほどの短躯で太った風貌からか、女性の愛を得ることは未だない。
彼は踊り子のポッピーに恋をしていた。しかし、ポッピーは画家のロバートと恋人同士である。ロバートの息子、クリストファーとは仲良くなるものの、ポッピーの愛は得られそうにない。
エックマンはポッピーに新しい作品のモデルになるように頼む。ポッピーは引き受け、ディナーの誘いにも応じるが、恋愛の対象としてエックマンを相手にしない。
ポッピーはなぜか失踪。その後エックマンを訪れたロバートも失踪。一人残されたクリストファーはエックマン氏の養子になり、大学へ行く。
しかし、ある日クリストファーはエックマンのしたことを知ってしまう…
エックマン氏はひどい行為に及んだ人物。自分勝手でひねくれている。でも、なぜか、彼を憎むことができない。可哀想で、切ないキャラクターだ。
愛する人の愛をどうしても得られない悲しさ。これを経験していない人の方が少ないだろう。
誰だって、愛がほしい。時には愛する人を所有したい。そんな人間の悲しさ、愚かさが物語に綴られていた。
今日から12月。冬の夜に読みたくなる一冊です。
