モルヒネ 安達千夏

モルヒネ

主人公の真紀は、在宅介護を主に担う医師。長瀬という婚約者もいる。
彼女の前に、元恋人のヒデが七年ぶりに現われた。それも病院(ホスピス)の患者として。ピアニストとして海外留学するため姿を消した彼。
真紀は過去に母を自殺で、姉を過失致死で亡くすという経験をしており、その心の傷は彼女を苛み続ける。心の傷を理解してくれたのがヒデだが、ヒデは余命三ヶ月だった。
「泣ける小説」として売り出されたらしいんだけど、一ミリリットルの涙も出なかった。
どっちかというと、怒り…?
幼児期に受けたショックのトラウマ、ホスピス、安楽死…重いテーマが盛りだくさんなんだけど、主人公の心情と行動に共感できず、感情移入ができない。
医学的知識をはさんでいて、力作なのは間違いないけれど、心に伝わってくるものがなかった。なんでだろう?主人公が結局「自分」のことしか考えていないからかな?まあ、人間みんなそーだけどさー。
今回は辛口評。安楽死を扱ったものとしては
海を飛ぶ夢という映画がオススメ。

重いけれど、深く心に残ります。

最終目的地  ピーター・キャメロン

題名:最終目的地

ピーター・キャメロンは現代アメリカ人作家。この人の作品を読んだのは初めて。
主人公はアメリカの大学院生。ウルグアイに住んでいた作家の伝記を書くことで、奨学金を得ようとしている。作家はすでに自殺していて、遺言執行人の3人に伝記執筆の承諾を得なければならない。
手紙を出したけれども、断られてしまった。
ウルグアイでは、作家の妻、作家の愛人だった女と娘、作家の兄と恋人の青年が奇妙にも共同生活をしている。主人公は恋人の勧めもあって、ウルグアイに承諾を求める旅に出る。
静かなウルグアイでの生活に、突然訪れた若者。ある変化がもたらされて・・・
400ページを超える長編だけれども、会話が多いのでスラスラ読めた。映画化されているらしく(日本では未公開)、なるほどイギリス映画?ハリウッド映画?的な趣き。
とても美しい物語なのだけれど、人間の弱い面、卑怯な面からも目をそらさずに人物が描かれていてよい。
ちょっとしたきっかけで運命が変わる。偶然の出会いで気持ちが変わったり、恋に落ちたりする。人生は甘くないけれども、でも生き続けるに値すると思わせてくれる。
ドラマチックな話が好きな人には超オススメです。時間を忘れて読めます。

水曜の朝、午前三時 蓮見圭一

題名:水曜の朝、午前三時

作者:蓮見圭一
45歳で亡くなった主人公の直美は、娘にテープを残す。そこに残されていた告白は…
大阪万博でコンパニオンを務めていた直美は、前途有望な青年臼井と知り合い、恋に落ちる。しかしある障害で二人は結ばれず、直美はそのことをずっと胸に抱えて生きてきた…
泣ける恋愛小説ということでベストセラーになったらしいけれど、全然泣けなかった。
マディソン郡の橋を思い出した。これも15年前ぐらいに人の勧めで読んだけど、全く泣けず。
映画では号泣してしまいましたが…あれは音楽とか演出とかがうまかったわけで。
一番好きな人と結婚できるわけではない、というのは世の中にはよくあること。
あの人と結婚していたらどうなっていたかしら…という空想、妄想を胸に抱えて生きていけるのも人間ならでは。
人生のままならなさ、というものはすごく伝わった小説だったけれど、恋愛小説にしてはトキメキがやや少なかった。
かなりビターな味が読後に残る。

スノーホワイト 谷村志穂

芥川龍之介は『侏儒の言葉』の中で
〈わたしは第三者を愛する為に夫の目を偸んでいる女にはやはり恋愛を感じないことはない。しかし第三者を愛する為に子供を顧みない女には満身の憎悪を感じている。〉と書いている。
侏儒の言葉/文芸的な、余りに文芸的な
世に不倫話は多いけれども、不倫話が美しくあるためには、やはり子供がいないこと、って重要なのではないかと思う。あと、お金の心配がないってことも。
江國香織の
東京タワー
は、年の差二十ぐらいの不倫もの。大学生の透と、仕事を持つ人妻詩文の恋愛を描いている。
透の視点から描かれていて、岡田准一×黒木瞳で映画にもなった。(映画は原作のよさが失われていた。寺島しのぶがすごくよかったけど)
世の中年女性にときめきと希望を与える作品のようにとらえられるかもしれないけれど、若い男子の純情と、自分の想定内で恋愛を進めようとする中年女性の卑怯さとダメさ加減がよい小説だったと思う。子どもなし、お金の心配なしで、物語は美しい。
さて、谷村志穂の新刊、
スノーホワイト
これは不倫ではないが、かなりの年の差だ。主人公の大学生は21歳の男子、ヒロインは45歳で、介護を仕事にしている独身女性。まさに「親子ほど」歳の離れた二人の話だ。
コンビニでアルバイトをしている大学生が客としてきた女性に次第に心ひかれ、通じ合い、ためらい…連続恋愛ドラマみたいな感じ。おとぎ話ではあるけれど、男子がヒロインに魅力を感じることができるのがすごいと思った。これも映画化して、世の中年女性に希望を与えるのかしら。
自分のことを客観的に見る目を持っていなければ。もし私が20も下の男の子に言い寄られたら、まず詐欺にひっかけようとしている、と警戒することにしよう。あんまり心配なさそうだけど…

左岸 江國香織

かなり長い小説だった。主人公茉莉の少女時代から中年になるまでの遍歴。福岡で育ち、兄と踊りが大好きな女の子。隣には幼なじみの九が住んでいて、三人はとても仲良し。しかし、不幸な出来事が茉莉を襲い、家庭は変わる。
17歳で駆け落ちをし、東京で男と暮らし、戻ってきて九州大学に進み、恋に落ち、子どもを産み、…このあとも波乱万丈。でも、運命に身を任せながら、他人に対しては超然と生きようとする茉莉の心の中には、いつも兄がいる。そして、遠くにはいつも九の存在がある。
江國香織の小説にしてはめずらしく、博多弁で会話が進んでいる。とても温かい言葉として響く。長大な物語で、むしろ不幸なエピソードが多いんだけど、人生には生きる意味がある、と思わせてくれる作品。
愛する人はこの世からいなくなっても、心の中に生きている。言い古されているけれど、「あの世」と「この世」つまり彼岸と此岸はときにとても近くなるのだと感じた。
辻仁成の『右岸』は九を主人公として、この小説とコラボレーションして書かれているらしい。最近、辻仁成から遠ざかっていたので、読むかどうか迷うが、読むだろうな。
江國香織の小説に話を戻すが、主人公の茉莉は大人になってから「飲酒」と「踊り」が趣味になり、やがて自分のワインバーを開く。美味しそうなワインの名前も出てきて、なんだか飲みたくなった。
鴨の缶詰も、そんなに美味しいものなのかしら。

小説に出てきた美味しい白ワイン。マルヴァシーア・セッコ。残念ながら楽天にはないみたい。これに似ているかしら。

鴨の缶詰。

荒野 桜庭一樹

『ファミリー・ポートレイト』はドロドロした感じだけど、この小説はとっても純な小説だった。
主人公の荒野は中学生。母は亡くなり、恋愛小説家の父と二人で暮らしている。
中学に入って出会った悠也にほのかな思いを寄せ始めるが、なんと悠也の母と荒野の父が結婚することになってしまう。揺れる乙女心…
この小説は『ファミ通文庫』として出版されたものに加筆したらしい。『ファミ通』とは、ネットで調べてみると、ゲーム好きの人のための雑誌のようだ。
なるほど、荒野のキャラクターは、童顔なのに、胸が異常に発育している…「萌え系」というやつなんだろうか。
物語はとっても少女漫画チックでかわいらしいのだけど、ディテイルは手を抜いているとも感じられず、ちゃんと楽しめた。
少女漫画好きの中高生にはオススメの一冊。もちろん純愛ドラマ好きの大人にも。
数年前、『砂時計』という昼の帯ドラマにはまった。仕事で見られないときは録画して、毎回涙をダラダラ流して見ていた。島根を舞台にした幼なじみのせつない恋…子役の男子もとてもカッコよかった。島根の方言もよかった。少女漫画が原作の、まず大人の男は見ないであろう、純愛物語だった。
イイ歳をして、純愛ドラマで泣ける自分はバカみたいだが、まあ感動のハードルが低いのはある意味、得だと思うことにしよう。

切羽へ  井上荒野

井上荒野の直木賞受賞作。
九州の島で、小学校の養護教諭をしているセイが主人公。夫の陽介は画家で、同じ島の出身である。夫婦仲はよい。
東京から音楽教師として石和という男がやってくる。
表面的には何も変わらない日常生活。でも、セイの心には石和によってさざなみが立つ。
他にも、同僚の月江の不倫、一人暮らしのおばあさんとの交流も大切なエピソードだ。
大人の人間関係を繊細に描いた長編だった。
石和という男がなんとも不安定でおもわせぶり。「音楽」の教師ってところも、芸術家っぽくて、キャラクターを作っている。大人になってから、こういう男性にあったことはないけれど、もし職場に居たりしたら、この人のウワサ話でずいぶんヒマがつぶせそうだ。
そう、ウワサ話をする私はいつだって恋の脇役…

恋と恋のあいだ

フツーの恋愛小説。淡々と恋が進み、なんとなくうまくいく。あんまり誰も傷つかない。
ドラマチックさに欠けていて、物足りなかった。
ただし、文章はキレイで、美味しそうな食べ物が描かれているところは好き。
「はんぺんのなっとう和え」これはやってみようかなー。
モテ系、非モテ系、と恋愛小説をカテゴライズしているけれど、恋愛小説を描く女流作家について、この人はモテている人生か、あんまりモテていない人生か、なんとなく予測できる。
美醜に関係はなし。独断と偏見に基づく予測。
モテて来た人…野中柊、江國香織、村山由佳、谷村志穂、川上弘美、田辺聖子、和泉式部
モテなかった人(痛い思いが多い人)…山本文緒、林真理子、藤堂志津子、唯川恵、紫式部
などなど。今思いつくのはこんなもの。角田光代は微妙。
モテなかった人の文章からは、なんとなく潜在的な男ギライを感じる。
しかし、男性の描く恋愛小説…吉田修一とか石田衣良とか辻仁成とか藤田宣永とか、みんなモテそうだ。モテなかった男の描く恋愛小説って、ちょっと読みたくない、というのは偏見かー。

あしたの虹

携帯電話というものを持っていないので、当然ケータイ小説なるものも縁がない。
ベストセラーになっていると聞いてちょっと立ち読みしたことはあるけれど、横書き!
改行多い!絵文字まである!文章がヒドイ!で、読む気がしなかった。
でも、瀬戸内寂聴先生が書いたものなら面白いかも、と挑戦してみた。
登場人物はカタカナ。主人公の一人称は「アタシ」。恋愛あり、死あり、親の離婚あり、妊娠あり、とケータイ小説の要素を盛り込んでいて、瀬戸内寂聴先生のパワーと回転のよさに敬意

内容は、やはり物足りない。「そんなバカな!」というディテールも多くて、小説を読んだという気持ちにはならなかった。
光源氏と藤壺の関係をベースに描いている。再婚した父の若妻と寝てしまう…『源氏物語』は日本の恋愛小説の要素をほとんど持っているすごい小説なんだよな、と改めて思った。
もう一度、通読してみようかな。

リバース

SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)なるものが世にはあるらしい。
今のところ興味ナシだけど、会ったことのない人に信頼を寄せていくってことがあるんだろうか。
アパレル業界でバリバリ働く女性が男性名で登録し、コンピュータ業界で働くちょっと冴えない男性が女性名で登録し、徐々に互いを心の支えにしていく。
ハッピーエンドになるんだろうと思いつつ、邪魔が入ったり、互いのことをカミングアウトして傷ついたり…まるでテレビの連続ドラマを見ているような感じだった。
きっとドラマになる。なる方に1000ペセタ。
香里奈×井ノ原快彦あたりでどうかなー。
ホームページ上に連載されていた作品らしく、石田センセイちょっと文章の推敲が足らないのでは、と思うところも。
〈背が高くスリムなので、足がきれいだった。〉の一文などは、いかがなものか。
背が高くやせていても足だけ太めな人はいます。(私?)
でも安心してサラサラーっと読めるエンターテイメント小説。