ウィーン家族 中島義道

ウィーン家族

作者:中島義道
哲学者の中島義道氏。今年大学を辞めて、「作家」という肩書きになっている。
これは中島氏、初の「私小説」だとか。
自己愛が強く、絶望的に妻を愛せない大学教授の夫康司。妻の多喜子がケガをしたときの対応が冷たかったからか、夫を執拗に責めたてるようになる。
一人息子の博司も徹底的に康司を嫌い、研究留学の地ウィーンの自宅から出て行かざるを得なくなり、一人ホテルで暮らす。
康司と多喜子のやりとりは主にファックス。康司は「大丈夫か?」の一言がいえないタイプ。ウィーンで入手困難な舞台やコンサートのチケットを取り、家族を喜ばそうと試みるものの、
多喜子はそれを拒絶し、ただひたすら「優しく」「愛して」くれることを要求する。
いやー、壮絶な夫婦喧嘩の記録、という感じだった。中島氏の著作はちょこちょこ読んでいるので、奥さんと仲良くないときがあることは知っていたけれど…
夫婦のことは、夫婦にしかわからない。なんでこの二人が別れずに一緒に居るのかが不思議と思う人もいるかも。
前に読んだ江原啓之の本に「結婚というのは学びの場。相手はあなたに足りない部分を教えてくれる人」とあったけれども、そういうことなんでしょうか。まさに修行…
お前を(お前の求めるようには)愛せない、とはっきり表明する康司。康司を受け入れるかに見せかけて、息子をダシに夫を拒絶し続ける多喜子。
結婚生活というのは、それでもがんばって続けることに意義があるのかも…
悪妻は人を哲学者にする、と言ったのはだれだっけ?そんな言葉も思い出した。
舞台はウィーン。それぞれの孤独がより際立って感じられるシチュエーション。
深刻だけれども、一方ではよそのうちの夫婦ゲンカを見られてプッと噴きだしてしまうような、そんな小説でした。
今後の中島氏の作家活動に期待します。