毒麦の季
作者:三浦綾子
三浦綾子の小説を久々に読んだ。昭和50年代に書かれた短編をまとめたもの。
どれも結末がアンハピーで、暗澹たる気持ちになるものだった。
定年後、もと居た職場からも、嫁、孫からも疎まれる男。
胃がんの恐怖と、自分の死後の夫の再婚を想像して苦しみ、不倫の誘惑に負ける妻。
結婚生活にやぶれ、自殺を試みようとする女の旅。
冤罪で死刑を待つ吃音の死刑囚。
父の不倫に端を発した両親の別居で徐々に孤独に追い詰められる少年。
読んでいて「ひどい!」「許せない!」と思ったものの、救いは最後までなくて、まあこれが人間の真実かもしれない…と悲しくなった。
小説には人間の悪意、憎悪、弱さ、醜さ、酷薄さを描いているけれど、私たちが日常悪気なくやっていること、「このくらいならいっかー」と思ってやっていることも、切り口を変えてみればこの小説のように醜悪なものかもしれない。
退職したひとがたびたび職場に遊びに来れば「ウザ」と思い、私が死んだ後夫が再婚したら「面白くないー」と想像し、自分の親を配偶者よりも大切にして妻(夫)をないがしろにし…
程度の差こそあれ、誰もがやりそうなこと。
「ひどい」「許せない」と思うのは簡単だけれど、自分の胸に手を当てれば恐ろしくなる、そんな人間の原罪を描いた小説集だった。