海峡の南
作者:伊藤たかみ
芥川賞作家、伊藤たかみの最新作。いつの間にか角田光代さんと離婚してたんですねえ。
さて、小説はちょこっとロードムービーの趣があるものだった。
祖父の危篤の報を受け〈僕〉は、はとこの歩美とともに父の故郷・北海道へ渡る。若き日に関西に出奔した父は、金儲けを企てては失敗し、母にも愛想を尽かされ、もう何年も音信不通のままだ。今はタイにいるとかいないとか。
親族に促され父を捜す〈僕〉は、記憶をたどるうち「北海道とナイチ(内地)」で父が見せた全く別の面を強く意識しだす。海峡を越えて何を得、何を失ったのか、居場所はあったのか。
それは30を過ぎても足場の定まらない自身への問いかけにも結びつく。
北海道と、関西と。小さい日本ではあるけれど、土地の雰囲気というのは全然違うと思う。
それらの地域の独特の空気というのが、うまく描写されていると思った。
あとは、「父と息子」の物語。自分には男兄弟がいないので、あんまり父と息子の関係の実態というものを知らない。が、少ない例を見る限りでは、「母と娘」「母と息子」とは違った緊張関係がある気がする。
なんか、ちょっと「張り合う」っていうのかなあ。男の人生には「父を越える」っていうテーマが潜在的にありそうな気がする。
現代の、不確かな父と息子の関係を丁寧に描いている小説だと思います。
エンターティメント性にはやや欠けますが…