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作者:桐野夏生
映画やドラマになった『OUT』と対になるような作品なのかと思ったら、全く違う小説だった。
人間の内面に深く入り込んだ小説。ミステリ…とは言い切れず、恋愛小説の趣もある。
主人公のタマキは小説家。『淫』という小説を書くにあたって、亡くなった文豪緑川の小説『無垢人』のモデルは誰なのか、突き止めようとする。
『無垢人』はいかにも私小説。自身も夫人も、子供たちも実名で出てくるが、ただ一人、大事な登場人物である「○子」だけが「○子」と記され、誰だかわからない。
壮絶な夫人、愛人との葛藤を描いた小説。実はタマキも、一年ちょっと前にドロドロの不倫の恋にケリをつけたところだった。
相手は担当編集者だった青司。互いに家庭がありながら、同じ感性を持ち、離れられなかった二人。恋愛の「涯て」を見ようとしていた青司だったけれども、タマキは疲れ、関係を清算する。
最後に「○子」の正体は分かるのだけれども、それまでにあった謎や伏線が…どこいったの?というところもあった。
でもこの小説のキモは謎解きではなくて、「恋愛の怖さ」。設定からいって、編集者と小説家が深い関係になってしまうのは、作者自身が経験あるいは身近で見てきたことだろうと思う。
緑川とその夫人の千代子も、夫婦でありながらずっと「恋愛」を続けてきた。そりゃクタクタに疲れるだろうと思うけれども、一人の異性にこだわり続ける執着がすごい。
あとは、小説家の「業」というか、言葉に関わりあって、鶴の恩返しの鶴みたいに、自分の一部を削ってでも書かずにはいられない宿命も感じた。
自分が一番大切!で、ベタベタした付き合いが苦手な私はここまでドロドロの恋愛をしたことはないけれども、(これからあるかしら…)相手を憎むまでになったり、身動きがとれなくなったりするよりは、「笑って生きて」いきたい。でも小説で読むのは楽しい!