谷間の百合改版
作者:バルザック
フランス近代小説。書かれたのは1835年ごろ。『ゴリオ爺さん』とはまた違った味わいの、でも宗教観に溢れた美しい小説だった。
主人公は純真な青年フェリックス。両親から疎まれ、不遇な少年時代を送ってきた。
ある日、舞踏会で知り合ったモルソフ伯爵夫人に一目ぼれし、夫人の住むアンドルの谷間を足しげく訪れるようになる。
フェリックスを子ども扱いし、でも好意をもってもてなしてくれるモルソフ夫人。二人の子供は体が弱く、子育てに苦労し、かつ夫はかなり年上で偏屈で優しさがなくわがままで、満たされない結婚生活を送っていた。
モルソフ夫人にとって、フェリックスは心の支えになっている模様。でも熱情を打ち明けるフェリックスに対して決して恋愛感情を許そうとはせず「伯母が私を愛してくれたように、私を愛してね」と繰り返す。
パリで仕事をすることになったフェリックスに対して、モルソフ夫人は心のこもった、そして母性愛に満ちたアドバイスの手紙を渡す。
さてさて、フェリックスはずーーーっとモルソフ夫人だけを愛していたけれど、そこは20代前半の男。欲望には勝てず、イギリス人女性と付き合うようになる。それを知ったモルソフ夫人は…
モルソフ夫人が最後にフェリックスに送った手紙で打ち明けた心情…これを読むと泣けてくる。実はフェリックスを愛していながらも、その心のあり方すら罪であると感じ、罪を償うために夫の世話にうちこもうとする…なんて清い心なんだろう。
不倫を扱った小説は多い。人妻に恋する青年の話も世に溢れている。
でも、最後までプラトニックだったからこそ、美しい。モルソフ夫人はどんなにか切なかったと思う。フェリックスもこんな手紙をもらったら、胸をかきむしりたくなるような切なさを感じるだろう。一生ひきずっちゃうだろうなと思う。
「不倫は文化」なんて言えるには、ここまでのレベルに達していなくちゃねー。
月別: 2009年11月
光 三浦しをん
光
作者:三浦しをん
三浦しをんといえば、明るくて、元気になれる小説!というイメージがあったけれども、こんな小説も書けるんだー新境地!と思わせられる作品だった。
信之と美花は小さな島にすむ中学生。島でいちばん美しい美花と信之は人目をしのんで肉体関係をもつようになっていて、信之は美花に夢中。小学生で、輔という男の子が信之にまとわりついてくるが、父親からも虐待されている輔が信之は鬱陶しくてしかたがない。
ある夜、神社で美花と逢引きをしようとした信之。輔もしつこくついてくる。なんとその夜、大きな津波が起こり、島全体を飲み込み、ほとんどの島民が死んでしまう。
生き残ったのは信之、美花、輔、輔の父親、燈台守の爺さん、観光客の山中など数名…
避難していたある夜、山中が美花に乱暴しているのを信之は目撃し、思わず山中を殺してしまう。それを輔が見ていた…
20年後、美花は女優になり、信之は公務員になって妻と娘を持ち、輔は工場で働いている。
輔は執念深く信之の居場所をつきとめ、追い詰める。そのとき信之はどうしたか?
信之の娘の5歳の椿も性犯罪に遭ったり、非常に救いのない暗い内容。題名にある「光」がどこにあるのか、探せども見つからない。
人を殺した人間は、その残影につきまとわれて幸せになることはできない…暴力は、必ず暴力で帰ってくる…
読み終わったあと、ずしーーんんとくる小説だった。ストーリーは面白くて、ぐいぐい読めます。
終身刑の死角 河合幹雄
終身刑の死角
著者:河合幹雄
著者は桐蔭横浜大学教授で、法社会学者。名前から予測できる通り、故河合隼雄氏の息子。
裁判員制度に伴い、にわかに導入が叫ばれている「仮釈放なしの終身刑」。死刑と無期懲役の間にあまりにも乖離があることから、多くの人々が賛成していると思われる。
確かに、無期懲役というのは、「どーぜ20年ぐらいで出てこられるんでしょう?」というイメージ。しかし、実際にはそうでもないらしい。
著者は終身刑を導入することには反対の立場だ。理由はさまざま。
・これ以上刑が重くならなければ刑務所内で暴れる受刑者に「アメ」を与えられない。死刑囚と同様の優遇措置の蔓延を止められない。
・刑務所が介護施設になってしまう。
・希望が持てない終身刑の生きがいは何か。死刑囚のように「改心」に結びつかない。
・脱走しようとする受刑者が増える。その対策にまたお金がかかる。
・受刑者一人にかかるコストは年間300万円(!)税金がもったいない。
などなど。そう言われると、「じゃあ、死刑で。」という感想になるが、「死刑」をどうするかも、難しい問題。被害者、遺族は犯人が終身刑、死刑になって救われるかどうかも疑問だし。
その他この本では、凶悪犯罪の実態と刑務所での過ごし方、出所した後の暮らし、無期刑囚の生活、死刑の執行や刑務官についてなどなど、一般市民が気づかない「死角」を教えてくれていて興味深い。
よく報道される凶悪犯罪は中流の人々がかかわるものであり、底辺の人、暴力団などの殺し合いは無視されているとか、刑務官は非常に特殊なコミュニティの中で生活しているとか、量刑の厳罰化が進んでいることとか…
これらの本と併せて読んでみても、死刑、無期刑、終身刑、…刑罰の問題を考える一助になると思います。
キャンセルされた街の案内 吉田修一
キャンセルされた街の案内
作者:
雑誌に掲載されていた短編を収録したもの。掲載されている雑誌のバラエティーがすごい。
「an・an」「小説現代」「文芸」「新潮」「文學界」など。ゆえにそれぞれの作品も、エンターテイメントの要素の強いものもあり、純文学らしいものもあり。
それだけ、吉田氏は器用な小説家なんだなあと思う。
吉田氏の短編は、わりと読後感さわやか!で安心して読めるものが多いと思っていたけれど、この本の中の作品には「え?これで終わり?」というものもいくつかあった。
やはり、『悪人』で大仏次郎賞を獲って、深淵なる世界に入ろうとしているのかしら?
児童虐待、隣人の忍び込み、万引きなど、犯罪を扱ったやや重い作品もあったし。
しかし、私個人としては、高校の同級生と大阪で久々にあって飲むという話『大阪ほのか』がよかったと思う。主人公は男性だけれど、みな38歳で私と同じ。中年になりつつある人間の逡巡というか、あきらめというか、そういうのがほのぼのと描かれていてよかった。
そういえば『悪人』が妻夫木聡×深津絵里で映画になるみたいですね。ベビーフェイスの妻夫木くんがどう主人公を演じるのか、楽しみ。
妻の相談に乗ってはいけない 織田隼人
妻の相談に乗ってはいけない
著者:織田隼人
心理コーディネーター(?)という仕事の人が書いたもの。題名にインパクトがあるけれど、女性が他人に「相談」するときは、ただ話を聞いてもらいたいだけであって、具体的なアドバイスを求めているのではない、ということ。ごもっとも。
熟年離婚を申し出るのは、圧倒的に女性から。男性は女性の不満が蓄積していることに気づかない場合が多いけれども「いかに妻の怒りを買わずに生活していくか」を指南した、熟年離婚に怯える男性のための本。
題名の件は、「わかる…」。私も夫にグチをもらしたりすると、必ず彼は具体的な処方を示そうとする。まあ、それはそれで有難いこともある。
あと、ちょっとした夢を私が思いつきで語っても、結構本気に受け取ってプレッシャーを感じるみたい。
本によれば、こういう妻の夢を、夫は「無理だって」と一蹴するのは厳禁だそう。「いいねえー」と流した方がいいらしい。
男の人というものはこういうものなのか、知り合いの旦那さまも、「体調悪いの…」→「医者へ行け」「子供の成績が下がったの…」→「塾を探せ」という返事なんだともらしていた。話を聞いてほしいだけなのにね。
女は、しゃべるためにしゃべるもの。思いつきでものを言うもの。それに対して男は、結論を出してからものを言うのだとか。だから、女はすぐ謝れるが、男は謝れない。女はしょうもないことをダラダラしゃべるが、男は興味のないことを聞くのは苦痛。
役に立つアドバイス、共感できるアドバイスもいろいろとあった。ダイヤモンドの指輪を一回どーんとプレゼントするより、幸せは小分けに多く与える、とか、妻のマシンガントークを封ずる方法とか。妻が落ち込んでいるときは、「がんばれ」というより、抱きしめてあげるとか。
いや、でも妻にここまで気を使わねばならない夫君というもの、ちょっと気の毒だ。
私だって、日々夫のご機嫌をうかがいながら生活している。離婚を切り出される危機を感じたことは今のところないけれど、一緒に暮らす相手は、機嫌がいい方がいいもの。でも、時々うっかり不機嫌にさせる。
『夫に人間関係のグチを相談してはいけない』
『疲れて帰ってきた夫にワイドショーネタを話してはいけない』
『夫にプレッシャーをかけすぎてはいけない』
『夫にマズいご飯を出してはいけない』
とか、そういう、妻のための指南本も、求む。
オイアウエ漂流記 荻原浩
オイアウエ漂流記
作者:荻原浩
南国リゾート地へ取引先の副社長を案内するリゾート会社の社員たち。主人公の賢司、主任、課長、部長、取引先の副社長、それに孫を連れた老人、新婚カップル、謎のアメリカ人、犬、10人と一匹が小型飛行機に乗り、海に墜落する。
機長は残念ながら亡くなってしまったが、10人が行き着いたのは無人島。
会社の秩序が無人島にも持ち越されるが、もちろん叙徐々に関係なくなっていく。
しっくりきてない新婚カップル。理系でオタクっぽいダンナはなぜか釣りが得意。
老人は戦争体験をひきずり、少々認知症ぎみ。
無人島に行き着いた人々のヒューマンドラマというありきたりな設定で、内容にも新しさは感じられなかった。比較的、牧歌的。殺し合いも、女性の凌辱もなし。
無人島ではやはり食べ物のことが一番大事。南国の島だったので一応食事はできる。ココナツ、魚、最後にはウミガメやコウモリまで食べる。本当においしいのかしら?
桐野夏生『東京島』とかゴールディング『蝿の王』みたいな、人間の本質が剥き出しになるといった深さはなかった。
気楽に楽しめるエンターテイメント。作家にとって「無人島もの」は書きやすいのかな。
また、『明日の記憶』みたいに映画化を狙っているのかしら?
世界一の美女になるダイエット エリカ・アンギャル
世界一の美女になるダイエット
著者:エリカ・アンギャル (ミス・ユニバースジャパン公式栄養コンサルタント)
よく売れていると思われる本。新聞に大きく宣伝があり、各章の章題が紹介されているので、それを読むだけでも内容は推察できる。
ダイエットに関心のある人ならば、目新しい内容はない。悪いものを食べず、いいものを積極的に、というもの。
悪いもの…ジャンクフード、スナック菓子などの酸化した油、白砂糖、牛乳、精製した穀物。
良いもの…フルーツ、ナッツ、良質の油、玄米やライ麦パン、野菜、良質のたんぱく質(とくに豆、サーモン)を食べなさい、ということ。
もっともです!納得します!と思う内容だった。
しかし、やめられないものってあるんだよなー。私はジャンクフードとかスナック菓子はめったに食べないけれど、砂糖の誘惑には勝てない。この本では白砂糖は麻薬より中毒作用があるって書いてあったけれど、幼い頃から甘いものを食べ続けていて、なんかちょっとは口にしないと気がすまない。立派な白砂糖中毒。
アイスクリームは老化を早める…悲しい…
日本人女性は食べなさ過ぎるわ、みたいなことが書いてあったので、ほほう、もっと食べろということかと思っていたら、巻末に著者の一週間の食事が紹介されていた。
少なすぎる!たぶん私が食べる半分ぐらいだ!炭水化物を摂れっていって、ぜんぜん摂ってないじゃないか!
例
朝食:ベリーとナッツ入りヨーグルト カプチーノ
昼食:焼き魚定食
間食:りんご半分 ローストアーモンド一握り弱
夕食:レンズ豆と野菜のスープ ライ麦パン一切れ ナツメヤシ 2つ
だって。こういう食事ならまず太らないよねー。
私の場合
朝食:ご飯茶碗一杯 納豆 ゆでブロッコリ
昼食:あんかけご飯(豆腐・白菜・きのこ・玄米ごはん)
間食:りんご1個 みかん二つ チョコレート二粒 いり大豆 煮干 せんべい一枚
夕食:ご飯 味噌汁 まぐろときのこの炒め物 小松菜のおひたし
最近はこんな感じ…(気をつけているつもりの日。)果物も大好きなので、毎日たくさん食べる。
本をちょっとは参考にし、サーモンとアーモンドをもっと食べよう!(でもアーモンドが一握りで終わるかしら…)
菓子パンやお菓子を食事代わりにする若い人が増えているという。そういう人は、ただ細くなるよりも、将来の美と健康を考えて読んだほうがいいかも。
ゴリオ爺さん バルザック
ゴリオ爺さん改版
作者:バルザック
1835年に発表されたフランスの小説。
題名は『ゴリオ爺さん』だけれども、実際の主人公は田舎からパリに出てきた青年、ラスティニャックのように感じた。
ラスティニャック、ゴリオ爺さん、その他陽気で豪快なヴォートラン、お嬢様だけれど不遇な身のヴィクトリーヌ、老嬢ミショノー、老人ポワレ…個性的な面々が「ヴォケー館」というまかない付き下宿で暮らしている。
ラスティニャックは田舎者だけれど、親戚を頼って訪問し、美しい女性にパリの空気を感じて、なんとしても社交界にデヴューしたい、出世したいと強く望むようになる。
その美しい女性(伯爵夫人)は実はゴリオ爺さんの娘。ゴリオ爺さんは製麺業者だったけれども、娘二人を可愛がり、二人を伯爵、男爵に嫁がせて華々しく社交界に出させるために全財産をつぎ込み、自分は貧乏下宿で余生を送っている。
娘がときどき訪問してくれることだけを楽しみに思いながら…
ラスティニャックは妹の男爵夫人のデルフィーヌと近づきになり、親交を深めるようになる。娘の話を聞きたがるゴリオ爺さん。ラスティニャックとゴリオ爺さんはお互いに信頼を寄せるようになる。
娘二人の婿はけちんぼーで、財布を握らせてくれず、父親のゴリオ爺さんに何度も金の無心をする。とうとう一文無しになってしまい、挙句に病気になる爺さん。その最後を看取ったのは娘ではなく、ラスティニャックだった…
ゴリオ爺さんの生き方は、悲しい。働いて働いて、娘のために財産を使い果たしても、最後に娘に会うこともできない。それを予感していたような言葉はあったけれども。
むしろ物語の面白さというのは、田舎者だったラスティニャックがパリを知り、世間を知り、人間を知り、大人になる過程。これからの彼がどう生きるか、興味深い。
続編もあるみたいだけれど、ちょっと手に入りにくいみたいで、残念。
最近はフランスの近代小説がマイブームなんだけれど、さすがは恋の国というか、女性の貞操観念が薄いなあと思う。お国柄って面白いですね。もちろん、日本にももっとおおらかな時代はあったけれども…
星間商事株式会社社史編纂室 三浦しをん
星間商事株式会社社史編纂室
作者:三浦しをん
商事会社に勤める30手前の幸代は、人事異動で「社史編纂室」に回される。会社に来てるのかもわからない幽霊部長、仕事ができない課長、スケベなことばかり言う矢田、女らしいみっこちゃん、これらが編纂室のメンバー。
幸代には秘密があった。実は「腐女子」であるということ。男同士(サラリーマン同士)の恋愛を小説にして、友人三人と同人誌をつくり、「コミケ」で売っている。
恋人の洋平と一緒に暮らしているけれど、(腐女子は公認)バイトをしてはふらりと旅に出かける彼とは、将来が見えてこない。
ある日、自分の小説の原稿をこっそりコピーしているところを課長に見つかり、課長も小説を書いて「コミケ」に出したいと言い出す。
さらに社史の編纂の中で、「高度成長時代」について語りたがらないOBたちの存在を怪しく思い、当時の会社の「暗部」を見つけ出した幸代たち。「裏社史」を作るべく奔走する。
全体的にはユーモアにあふれていて、ハピーエンドだし、気楽に楽しめる小説。
胸にぐっとくる内容ってわけじゃなかったけれど、安心して読めた。「コミケ」の仕組みなど、そうなってるのかーと新しい知識も得て。
漫画オタク(?)だったらしい作者らしい、漫画チックで元気になれる小説です。
手にとるように発達心理学がわかる本 小野寺敦子
手にとるように発達心理学がわかる本
著者:小野寺敦子
発達心理学について、実にわかりやすく書かれた入門書。
パート1は、発達の基礎理論。ルソーやフレーベルなど、発達心理学の先駆者たちの紹介から、フロイト、エリクソン、ハヴィガーストなどなど。
大学のとき、教員免許をとるために受けた「教育心理」の授業を思い出す。こんなこと習ったなあ…とてもよい先生で、授業が面白かった。
パート2以下は、胎児期、乳児期、幼児期、児童期、青年期、成人期、高齢期にわけて、それぞれの年代における課題、問題について社会問題の分析も含めて解説されている。
胎児期~青年期に関しては、子供を持つ親や教師などは一応知っておくべき知識ばかり。
さて、私は成人期。いい大人だ。ユングは40歳前後の中年期を「人生の正午」と呼んだらしい。親の死や自分の病気など人生の転機が訪れ、それまでの理想や価値観とは違うものに出会う時期だとか。
これから辛いことが待ち受けていることは私も想像できるけれど、その中でも自分がどう変化して新しいものの見方を身につけるのか、ちょっと楽しみ。
あと、興味深かったのは、青年期のところで、「父親との関係によって娘の幸福度が違う」という記述。チェック項目で試してみると、私は父親との関係がイマイチで、幸福度も低いらしい。
父はもう死んでいるけれど、若い頃、悩みやつらさを父親に相談したことはないし、したいと思ったこともない…これって普通だと思っていた。しかし自分を不幸だと思ったこともあんまりない。
でも、自分が普通だ、平均的だという思い込みは、愚かですね。