この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 白石一文

この胸に深々と突き刺さる矢を抜け(上)

この胸に深々と突き刺さる矢を抜け(下)

作者:白石一文
なんか小説らしくない、不思議な小説なんだけれど、面白くて一気に読んでしまった。
啓蒙小説、とでも言ったらいいんだろうか、無知な私には大変勉強になりました、という感想も。
主人公は、某大手出版社の週刊誌の編集長。彼は仕事上、政治、経済、芸能界にからみ、自分の立場を利用して若い女性との情事(というか肉体関係)を楽しんでいるちょっとイヤな男として登場する。
彼は胃がんを患った経験があり、抗がん剤を飲んで病気を抑えている。
小説のストーリーは彼の病気がどうなるのか、結婚生活がどうなるのか、大物政治家の圧力とどう戦うのか・・・と、興味をかき立てながらも、随所に啓蒙的な内容がさしはさまれる。
市場主義を唱えた経済学者ミルトン・フリードマンの言説を紹介したり、官公庁の詳細なデータを駆使したりして、ネットカフェ難民を生んだ格差社会の実態を語ったり。
まさに「今」の問題を切り取っている。結婚生活、病気、性、子どもの死、DV、格差、貧困、アメリカからの乖離、暴力、資本主義の限界、メディア、政治などなど。書籍からの引用も多い。
啓蒙的なだけならうんざりする小説だろうけれど、主人公が意外に(?)人間臭く情にとらわれる面もあり、ストーリーの面白さもありで、作品の世界に引き込まれた。
読み終わったあと、人によって感想はさまざまだろう。でも心に残る小説、「現在」を考えさせられる小説ということは間違いないです!