こころの旅 神谷美恵子

こころの旅

筆者は精神医学者の神谷美恵子氏。1973年に書かれた本だけれど、面白かった!
筆者は言う。「人生とは生きる本人にとって何よりもまずこころの旅なのである」。と。
人間の「こころ」のあり方を、胎児期から始まって幼児期、学童期、青年期、壮年期、老年期、病や死についてまで順を追って述べている。
目次を見れば教科書的で、実際にフロイト、ピアジェ、エリクソンなどの引用も多く学術的な面もあるのだけれど、ただの解説ではない。
筆者の人間に対する温かいまなざしが感じられ「よく生きる」指針を示してくれている気がする。
心にグッと来る文がいくつか。
子どもの好奇心について。「この自発性によって独学能力と思考能力を身につけることが、一生のこころの旅をゆたかにするもっとも大切な鍵であろう」
過去に執着する老年期について。「その時その時を精一杯に生きてきたなら、自分の一生の意味の判断は人間よりも大きなものの手に委ねよう。」
死について。「少なくとも中年期以降は死を覚悟しつつ生きる者のほうが、生をよりよく充実させ、死をも自然なこころで迎えられるのではなかろうか。」
などなど。
私はこの本で言えば働き盛りの壮年期ごろ。(ほとんど働いてないが)
「人生の旅路半ばに悩み多いところにさしかかっても、その悩みをバネに、意志と決断と選択により、あえて冒険をおかしてより建設的な、より創造的な生き方に切りかえられるならば、これは決してマイナスとはいえないだろう。」
そう。過去の自分に執着せず、あくまでも「これからどうするか」を主体的に選択して、かつ「死」も意識して日々を大切に生きる。こんな風に生きられたらいいなと思う。
ずっと読み継がれるべき名著だと思います。私も、ときどき読み返したい。子育て中の方、教育関係者にもオススメです。
あと、突然ですが、カップうどん+タバスコ=トムヤムクン。なかなかイケます。レモン汁はないほうが好み。すっぱ辛いもの好きの人、やってみてください。

人間の絆 サマセット・モーム

人間の絆(上巻)

人間の絆(下巻)

作者はイギリスの作家、サマセット・モーム。
この間紹介した『劇場』がとても面白かったので、この長編を読んでみた。
長かった・・・昨日、一昨日紹介したような軽い本に浮気しつつ、読了。しかし面白かった!
いわゆる「教養小説(ヴィルドゥングス・ロマン)」。一人の人間の成長物語。このジャンルは映画でも本でも、大好きだ。
主人公のフィリップは幼い頃に両親を亡くし、牧師の伯父のもとで育つ。生まれつき足に障害のある彼は、子ども時代をそのコンプレックスに支配されて生きる。
伯父の跡を継いで聖職につくかと思いきや、彼は美術を志しパリへ。で、挫折。
今度はロンドンで医学を学ぶ。恋に悩み、お金に悩み、ついには一文無しになるフィリップ。
でも最後には一条の光が射す。
伯父に育てられたこと、みじめな学校生活、医学を学ぶなど、モーム自身と重なるところもあるらしいが、あくまでもフィクション。
フィリップはミルドレッドという女性に恋をし、振られて、また彼女に徹底的に利用されるんだけど、このミルドレッドというのが希代の性悪女。この性悪女からの「卒業」がなかなかできないのがもどかしくも、面白くもあった。
フィリップにとって人生は優しくない。両親の不在、足の障害、画才のなさ、友情、愛情に恵まれないこと。でも、自分の意志で宗教とも離れ、生きる道を選び取っていく強さはすごい。
同時に、すぐに折れてしまう心、ミルドレッドを拒否できない弱さもある。お金の使い方もちょっと心配になる。
長いけれど、これは若者に是非読んで欲しい。夏休みの高校生、大学生にもオススメします。

40女が電撃結婚するレシピ 栗原美和子

40女が電撃結婚するレシピ

筆者はフジテレビ・プロデューサーの栗原美和子氏。
猿回し芸人の村崎太郎氏と結婚し、『太郎が恋をするまでには・・・』という結婚にまつわる本も書いているらしい。(読んでいませんが)
昨日も、食にまつわる本を紹介したけれど、今日も食にまつわる本。いや、すごい。
幕内秀夫氏が読んだら怒られそう。だって、生活臭がするからイヤという理由で「炊飯器」を買わないというんだもの。
彼女はバリバリのキャリアウーマン。オール外食で結婚するまで全く料理をしたことがなかったという。それが村崎氏と結婚し、料理に挑戦し、失敗し、また奮闘し・・・という日々をつづり、また自信作のレシピを紹介している。
結婚生活において、食べ物の好みの一致というのは非常に大切だと思う。私ども夫婦も食べ物の話だけはかみ合い、盛り上がる。幸い二人とも好き嫌いは多くないので、私が大失敗をしない限りは摩擦は生じない。
しかし、この本の二人は大変。村崎氏の好みはいたって普通だと思うんだけれど(男の人は食に関しては概して保守的である)、筆者の偏食ぶりはすごい。肉はひき肉以外ダメ、魚ダメ、白いご飯は食べない、朝、昼は食べない(!)
しかし、夫のために、夫に誉めてもらうために果敢に挑戦する姿は涙ぐましい。これぞ愛のなせるわざ。
レシピは巻末に写真つきで載っている。盛り付け方、写真の撮り方がいかにも素人的で、ウソのなさを感じます。これは作ってみたい、というものもあった。
この夫婦は結婚の際に紆余曲折があったようだけれど、うまくいくのだろうか。栗原氏は初婚だけれど、村崎氏は三回目。本に登場する村崎氏のコメントは、(私にとっては)かなりイヤミでムカッとするところもある。
恋の魔力が解けたとき、この二人がどうなるかいささか心配だけど、でもだいぶ大人ですもんね、うまくいきますように。
しかししかし、やっぱり炊飯器は買った方がいいと思う。美味しいカレーを作っても「サトウのごはん」では寂しいではないか。

夜中にチョコレートを食べる女性たち 幕内秀夫

夜中にチョコレートを食べる女性たち

筆者は『粗食のすすめ』で有名な管理栄養士の幕内秀夫氏。
題名からして「食生活の改善を!」という内容の本だということは見当がつく。
その通り、女性の食生活の問題点を訴えた本なのだが、食生活と同様に「性生活」も問題だという。
女性は社会進出してガンバリすぎ、男性は雄としての本能を低下させてセックスレスになっていると。で、性欲の代わりに食欲に走り、女性にとって夜中のチョコレートが最高の快楽になっていると指摘している。
「色気より食い気」とはよく言ったもの。別にそれでもいいじゃないか、とも思う。
しかし、食生活が貧しくなるのは確かに悪い。筆者は現代の「砂糖、脂肪に依存した食生活」が乳がん、生理痛、生理不順、不妊、冷え、便秘などを引き起こしていると言う。
「砂糖、脂肪」って美味しいもんねーでも、甘いものを食べ過ぎると私もむくむし、だるくなるし、肌もゆるむ。
筆者が提案する、「今日からできる美人食」は
1白いご飯を一日二回は食べる。
2パンの常食はやめる。
3食事をして、間食は楽しむ。
4外食は和食で。
5液体でカロリーをとらない。
6常備食(のり、漬物、佃煮など)をそろえる。
7副食は季節の野菜を中心に。
8動物性食品は魚介類を中心に。
9なるべく玄米、分づき米を。
10食品の安全性に配慮する。
特に、ご飯をしっかり食べることを提唱している。
炭水化物は大事。炭水化物抜きダイエットはやったことがあるけれど、あれは絶対にやめてください。それが原因かはわからないけれど、私は甲状腺の病気になった。(一生薬を飲まなくてはいけない)
ぷよぷよでスカスカの体では、いくらスリムでも中年以降がしんどそう。若いうちからまともな食習慣をという啓発は必要だと思う。
この本で興味深いのはもう一つ、さまざまな参考文献。性生活の問題では、

が紹介されていた。「彼氏に読ませたい本ナンバーワン」だそうです。パートナーの満足度に不安を感じる男性諸君は読んでみては。
私もちょっとだけ読んでみたいかも。

海の仙人 絲山秋子

海の仙人

作者は絲山秋子氏。
読み終わって、やっぱり、この人の作品好きだなあと思ってしまった。
主人公は福井県敦賀の海辺で仙人のように暮らす青年河野。ある日、頼りない神様、ファンタジーがやってくる。
ファンタジーと暮らす敦賀の海に訪れた、かりんというワーカホリックの女性と河野は遠距離でありながら付き合うようになる。
また、敦賀の海に現れた元同僚の女性片桐。片桐の新潟ゆきに便乗して河野は姉に会いに新潟に行くことにする。ちょっとロードムービーのような趣。
河野の暮らしぶりといい、「ファンタジー」なるものの存在といい、「ありえない」話ではあるのだけれど、描かれる人間関係はリアル。
すべての登場人物が優しくて、相手を深く思っていて、またさりげない。
登場人物の優しさに比べて、運命は冷たい。
切っても切れない人間関係って、確かにあるんだろう。しょっちゅう一緒にいなくても、その人の人生を左右する影響力を持つ。
失うのは悲しいけれど、そんな人がいる方が人生は豊かですね。

ママンの味、マミーのおやつ 大森由紀子

ママンの味、マミーのおやつ

著者は大森由紀子氏。大学で仏語を学び、27歳で渡仏し「ル・コルドン・ブルー」で学び、今はフランスの伝統菓子や料理の普及に力を注いでいるという人だ。
フランスでの修業の日々、フランスで出会ったお菓子、フランスの伝統菓子にまつわる話など興味深い内容のエッセイ集。
お菓子といえば(料理全般そうかもしれないけれど)フランス。一度パリに行ったとき、食べたものはみんな美味しかった。お菓子はモンブラン。この本にも紹介されていたけれど、「アンジェリーナ」のモンブランは巨大だったけどとーーーっても美味しかった。
他にも美味しいものいっぱい。詳しくはこのブログの隅っこ「パリの思い出」をクリックしてください。
この本を見て、ああ、もっといっぱいお菓子を食べたかった、と思った。チョコレート、マカロン、クレープ・・・
フランスではドーナツやチーズケーキをほとんど食べないという記述もあった。なるほど。
この人は食べるだけではなく、作る人でもあるから、その視点でのお菓子の紹介も面白い。伝統菓子の由来のエピソードも丁寧に書かれている。
お菓子は作るのも確かに楽しい。私の姉が家政系の学校に行っていた関係で、毎月お菓子作りの本と道具のセットが届き、普通の家にはないような道具がたくさんあった。
高校のとき、勉強もせずヒマつぶしに毎日のようにお菓子を作っていたことがあった。ブラマンジェ、アンドーナツ、シュークリーム、サブレなどなど。
体重はどんどん増えて人生最高を記録。制服のプリーツスカートのひだが開いてしまった。
お菓子の本も、読むだけでも相当楽しかった。お菓子を見て異国を思い浮かべ、田舎のスーパーでは手に入らない食材に憧れたあの頃の気持ちをちょっと思い出す。
今は、太るし、「買ったほうが美味しい」とわかっているので、バレンタインぐらいしかお菓子は作らない。しかし、お菓子が焼きあがる瞬間のワクワク感と香りというのは、まあ小さいけれど確かな幸せ=小確幸(by村上春樹)ではある。
さてこの本、フランス文化、お菓子を愛する人にはとてもオススメです。

絶望ノート 歌野晶午

絶望ノート

作者:歌野晶午
ジョン・レノンに完全にかぶれている父を持つ中学生の太刀川照音(たちかわしょうおん)。ジョンの息子と同じ名前をつけられた彼のあだ名は「タチション」。
父は無職で母の瑤子だけが朝から晩まで働いており、貧しい照音の家にはパソコンもないし、携帯も持たせてもらえない。
彼は同級生からひどいイジメを受けている事実を、「絶望ノート」に克明に書き記す。
自分にヘンテコな名前をつけ、働かずに昼間から酒を飲む父への不満も。
万引きをさせられたり、好きな子のスケッチをしていたことをばらされたり、お金を取られたり。その内容はひどい。
ある日、母の瑤子が偶然にも息子の「絶望ノート」を見てしまう。石を「オイネギプト様」と呼び、神格化してイジメの加害者を「殺してください」と願う。
母はイジメの事実を突き止めるために探偵事務所に相談に行く。
そして、照音をイジメたクラスメイトが、大怪我をしたり、亡くなったりしていく・・・
ものすごーーーくエキサイティングな小説だった。4時間ぶっ続けでおやつも抜きで読んでしまった。(あ、途中でキュウリの漬物を食べたか。)
最後にはどんでん返しに次ぐどんでん返し。単純な私はぜったいにそういうことが見抜けないので、実に驚いたし、楽しめた。
これ以上書くとネタバレになるので、是非是非読んでみてください。
教訓は・・・「自筆の文字はこわい。」ということ。

プリンにしょう油でウニってホント? 田中ひろみ

プリンにしょう油でウニってホント?

著者はイラストレーター&ライターの田中ひろみ氏。本の題名にあるような、ウワサの食べ合わせに果敢に挑戦し、似た味か、食感、香り、見た目、美味しさなどから鑑みて大満足~不満、と判定している。
さすがにプリンにしょう油をかけるのはイヤだ。実験料理に興味はあるけれど、バナナにマヨネーズとか、みかんにしょう油(イクラらしい)とかはやりたくない。
それでも不気味とも思われる組み合わせに意外に「満足」の評価が出ていた。
さっそく自ら試してみたのは「豆板醤+マヨネーズ=明太子」。明太子・・・ちょっと似ていたかも。私は冷ややっこに塗って食べたけど、なかなかグッド。食パンに塗って焼いても美味しいかも。
あと、是非やってみたいのは・・・(自分用のメモとして書きとめておきます、すんません)
・ヨーグルト+イカの塩辛≒キャビア(キャビア食べたことないのでわからないけど)
・ツナ+都こんぶ=シメサバ
・ゆで卵の黄身+ハチミツ=甘栗
・甘納豆+ブランデー=マロングラッセ(これはもう、絶対やる!)
・インスタントうどん+レモン汁+タバスコ=トムヤムクン
美味しそうですよね?結果は・・・まあ知りたい方にはお教えしましょう。
たくわん+ホットミルク=コーンスープ、もこの本では「大満足」評価だったけど、ちょっと不審。
野菜ジュース+牛乳でフルーツ牛乳というのもあった。フフン、と思った。私は仕事が忙しくて昼ごはんが食べられないとき、よく豆乳+人参系野菜ジュースを混ぜたものを飲んでいた。
ほどよくとろみがついて味も美味しいし、とっても腹持ちがよい。美肌効果も?
ま、味の革新派の人はこの本を参考にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

無宗教こそ日本人の宗教である 島田裕巳

無宗教こそ日本人の宗教である

宗教学者の島田裕巳氏による著。
前に紹介した『日本の10大新宗教』に比べると、著者自身の考えが前面に押し出されている。
宗教は?と尋ねられて「無宗教です」と答える日本人は多い。初詣は神社に行き、結婚式は教会で、葬式は仏式でクリスマスも大好き、という節操のなさから、「無宗教」であることに潜在的な引け目を日本人は感じていると筆者は言う。
しかし、「無宗教」こそが日本人の宗教であるし、他の宗教を尊重するあり方が国際平和において役立つと主張している。
キリスト教信者やイスラム教信者が敬虔であるかというと、そうでもなく、初詣や神社仏閣に大挙して行く日本人も傍から見れば十分に敬虔であると。
自虐的である方がインテリっぽく見られる傾向があるかもしれないけれど、この本は日本は素晴らしい国だ!と日本礼賛。
なるほどーと思う記述が多くて面白かった。「宗教」という言葉(概念)が日本に生まれたのは明治時代。それまで「仏教」は一つの教えであった、とか。
「仏教」に「教え」はあるけれど、「神道」の「教え」は明確でないとか。確かにそう。
「神道」の教えって何だろう?ちょっと好奇心が沸いた。私の実家にも仏壇・神棚両方あるけど。
一つの宗教に固執すればややもすると原理主義に陥りがち。無宗教の人はいろんな宗教を見て、知って、自分の生き方に取り入れていくのが平和で賢いのかもしれない。

朗読者 ベルンハルト・シュリンク

朗読者

作者はドイツの小説家で法学の教授でもあるベルンハルト・シュリンク。
映画「愛を読むひと」が公開されている。見たい!でも映画館に足を運ぶのも面倒なので、レンタルになるのを待つことにし、まず原作を読んでみた。
主人公のミヒャエルは15歳。ある日道端で体調を崩したことをきっかけに、35歳のハンナと出会う。
ハンナから誘われて肉体関係を持ち、夢中になるミヒャエル。彼女にせがまれて名作を朗読することも二人の習慣になった。
毎日のように逢ったり、旅行したり。しかしある日、ハンナは町から姿を消す。
さて、ミヒャエルが法学部の学生になったとき、法廷で被告人となったハンナと再会する。
ハンナは戦犯として裁かれていた・・・
ベストセラーになったのも納得、ストーリーもディテイルも、とてもよかった。
翻訳も上手なんだろうけれど、場面が目に浮かぶような描写。
15歳の男の子なんて、愛も性欲も好奇心も区別がつかない年頃だろう。でも成長したミヒャエルがハンナを見捨てずにいるところがいい。恋愛感情は失っているとしても。
やっぱり「愛とは、見捨てぬこと」。
しかし、ハンナが戦犯になったのは彼女の育った環境や時代背景からしてしょうがない面があると思うんだけれど、35歳の女が15歳の少年を誘惑するのは、よっぽど本質的に悪いような。