盗賊改版
作者は三島由紀夫。三島由紀夫も青春時代によく読んだ。こう書くと、まるで「文学少女」みたいだけれど、テレビも遊びも大好きでした。
『盗賊』は三島のわりと初期の作品らしい。
子爵家の一人息子、明秀は美子という女性に恋をするけれども、したたかな美子に翻弄されるだけで捨てられる。
失恋の痛手から死を決意した彼の前に、男爵家の令嬢清子が現れる。清子もまた恋に破れ、自殺を考えていた。
二人は出会い、あることを共謀する・・・
あらすじは、フジテレビ系の昼メロみたいな感じで、まあ陳腐といえば陳腐。結末も「え?!」って感じ。三島らしい終わり方だ。
しかし、小説はあらすじではなくディティル。明秀の心理や、母との関係の変化の描写など、その描き方がもう、えぐるよう。
たとえば・・・
―次第に彼はあせりはじめた。たしかに懐に入れておいた財布をさがす人のように、彼が開き直って復習し始めようとしたこの苦しみはそれと当時に姿を消したかと思われた。不思議な安堵はしつこく彼の前を去らなかった。愛する者同士がその恋を隠し合う初々しさとは流石の明秀にも見紛う由のなかった美子のあのほとんどはしたない冷たさは、彼女が自分の心のやさしい動きを故意に押し殺そうとしている努力のあらわれであったとしても、それで三宅に対する親しげな言葉遣い、活活とした眼差しが解きえようか。
ちょっとゆっくり読まないと理解できない。これが三島の文章のたまらなさだと思う。
随所にアフォリズムがちりばめられていて、それがちょっとうるさいところもあるけれど、論理好きの三島なんだからしょうがない。
久しぶりに三島を読んだ。文章そのものを味わうには、やっぱり近代文学がいいかな。