日の名残り
作者は日本生まれのイギリス人作家、カズオ・イシグロ。
主人公はスティーブンス。長年ダーリントン卿に仕える執事だった。ダーリントン卿亡き後、アメリカ人が屋敷に移り住み、スティーブンスは引き続きアメリカ人に仕えることにする。
主人に休暇をもらい、フォードでイギリスを巡る旅に出るスティーブンス。
そこで思い出すのは執事の鑑だった父のこと、淡い思いを抱いた女中頭のこと。(この旅の目的の一つは、この女中頭に会いに行くことだ)そして邸内で催された外交会議の数々。
旅の最後に、女中頭だった女性に会うスティーブンス。もう孫のいる歳になっている。果たして人生に「あの時こうしていれば・・・」はあるのか?
「古き良きイギリス」を描いて、ブッカー賞を受賞した作品らしい。
イシグロ氏の作品は、前にも紹介した
わたしを離さないで
があまりに良かったので、がっかりするのがちょっと怖かった。
『わたしを離さないで』とはずいぶん違った趣の小説で、どんでん返しもストーリーの起伏も無いけれど、これはこれでじっくりとしたよい作品だった。
スティーブンスは自分の「私的な感情」よりも「品格ある執事とはどういうものか」ということを最優先して生きてきた。
自分の理想を持ち、それに沿うことを第一とする。
その生き方は、イギリス人だけでなく、多くの日本人が失っている生き方ではないかと思う。
「○○(職業名)はこうあるべき!」と心に銘じて仕事をする人間がどれほどいるだろう?
スティーブンスの生き方は窮屈かもしれないけれど、振り返れば実りある人生と言えると思う。
アメリカ人の主人にあわせるために、これからジョークの練習をしよう、と決意する最後の場面が笑えた。同じ西洋人でも、国民性の違いは面白い。