恥辱 クッツェー

イギリスには「ブッカー賞」なるものがあり、日本の芥川賞と直木賞をいっしょくたにしたような、もっとも優れた長編小説に与えられるそうだ。この本はブッカー賞で、しかも作者のクッツェーはノーベル文学賞受賞者だという。
舞台はアパルトヘイト撤廃後のアフリカ。白人で大学教授の主人公はセクハラで大学を追われ、農業をしている娘のところへ身をよせるが、そこに3人の男が押し入り、奪い、主人公にケガを負わせ、娘(レズビアン)をレイプしていく。
全く、悲惨な話だ。最初から、主人公は情けないし。性欲に振り回されすぎだ。娼婦を買って満足すればいいものを、50過ぎてハタチそこそこの学生に手をだしている。
相手から嫌がられているのも、気づいていない。
3人の男に襲われた後も、まったく敵は取れていない。娘もひどい目にあったというのに、ここで生きていくにはあきらめるしかない、という感じ。
アパルトヘイトなるものがどんなものか、日本しか知らない私にはわからないけれど、人種差別というものが社会に大きな傷を残すことは理解できる。主人公は白人特権階級、襲う方は黒人。悪いのは明らかに犯罪者である黒人なのに、白人は彼らに税を払うような気持ちで生きていかなければならないのだ。
日本でも、格差がますます進んで、スラム街とセレブ街が棲み分けするようになるかもしれない。いや実際そうなりつつあるかも。そのときに起こるのは、やはり人心の荒廃と、あきらめではないか。怖い怖い。
重たいけれど、読んでよかった一冊だった。