吉本隆明、御トシ84歳。一度は溺死しかけたけど、しっかり生き残って頭はまだシャンとしている。すごいなあ。今でも虫眼鏡を使って本を読んでいるという。私も80歳になっても部屋の片すみで虫眼鏡で本を読むばあさんになりたいと思う。
最近出た本は自分で書いたものというより、口述筆記っぽいものがほとんどで、読みやすい。
この本も、聞き手が吉本隆明の過去の仕事に触れながら、現在思うことを引き出す、という形式で書かれている。『共同幻想論』もまだ読んでいない私には(家にはあるけど)分からないところも多かったけど、やはり自分の頭でものを考える人の言葉には力があると思った。
坂口安吾や太宰が作家として思想性を持つのは「宗教的」だからだ、とか、コミュニケーションの装置が余剰価値と結びつくと地道な学問が積み上げられなくなる、とか。
現代の蟹工船ブームなどにも触れていて、〈産業革命で産業が発達したときに、労働者に肺結核が流行った。現代では肺結核のかわりに精神病が流行っているのに、だれも手を打とうとしない〉と。実際、結核も流行っているらしいけどね。
メールをして他愛ないおしゃべりをしても、言葉の根も葉も育たない、と吉本は言っている。
本質は沈黙であり、自己と自己の問答が必要なのだ、と。凡人には難しいけど、そういう態度に憧れることぐらいはしたい。
ちなみに私は左翼ではありません。