中国人で、芥川賞作家の楊逸の第三弾。陳腐な感想だけど、日本語を母語としないのにこの筆力には感心した。
主人公は王玲。五十過ぎの、でも美貌の未亡人。頼りにしていた夫を事故で亡くし、レストランで働き、金魚の世話をさせられている。
一人娘は日本で中国人と結婚し、今は身重。その娘にも知らせていないが、夫の友人で(頼りない)周彬とこっそり同棲している。周彬は一途に王玲を想ってくれているけれど、なんとなく人には言えなくて。
娘のお産を手伝うために日本に行った王玲は生活の違いに驚き、(お金をそんなに使っていいの?)と思うたびに、シルクの財布をギュッと握りしめる。
中国でも、日本でも、心配事は一緒。人間関係や金銭問題で悩む。でも、中国から見た日本のありようも描かれ、自分の国、自分の感覚を相対化することができる。
楊逸の小説のよさは「純粋さ」と「運命のなかでどうやって自分の人生を選択するか」を丁寧に描いている点だと思う。
構成の仕方も上手い。もう少しハチャメチャなところがあってもいいと思うけど、「金魚」「財布」「漢詩」などのモチーフが生きている。最後の場面の盛り上げ方もいい。
高校生や大学生にもオススメです。