犬身 松浦理英子

犬身

作者:松浦理英子
人間が犬に変身するというとってもシュールな小説なんだけれど、なかなか面白かった。
主人公の房恵は29歳で、タウン誌の編集をしている。房恵は男性とつきあったこともあるけれど、男女の恋愛にあまり興味がもてず、むしろ「犬」を愛し、「犬になりたい」という願望を持っている。
「性同一性障害」ならぬ「種同一性障害」のもよう。
仕事を通じて知り合った陶芸家の梓。彼女も犬好きで、なぜか房恵は梓に魅かれていき、梓の犬をうらやましく思う。
バーテンダーの朱尾の不思議な力で、房恵は犬の「フサ」に変身し、幸運にも梓に飼われることになる。
梓の私生活に入り込んだフサ。そこで見たものは、実の兄に性的な関係を強要され、兄ばかり大事にする母にないがしろにされる悲しい裏の表情を持つ梓の姿だった・・・
後半は、フサの目から見た梓と兄、母の関係が描かれていて、梓はこのひどい状況を打破できるのかとハラハラしながら読んだ。結末は・・・まあ、救いはある。
動物好きが高じて、異性よりいいというのもほんの少しわかる。私も、かわいい猫の写真と好きな俳優の写真だったら、アルファ派は猫の写真を見たときの方が強く出ているだろう。
好きな男性に飼われる猫になる、というのもステキかもしれないが・・・でもやっぱり種の壁があるのは悲しい。
さて、ヘンテコな設定の小説だけれど、テーマは「性」「家族」。実は深くてリアルな小説だった。長いけれど、面白くて一気に読めます。