ここに消えない会話がある
作者:山崎ナオコーラ
表題の中篇と、『ああ、懐かしの肌色クレヨン』という短編が収録されている。
相変わらず、地味な世界を繊細に描くナオコーラ氏。なんで表紙が食パンなのかというと、主人公の広田という青年が、職場に食パンを持っていって焼かずに食べる習慣があるからかしら。
私は食パンは必ずトーストしてから食べる。そんなことはどうでもいい。
さて、小説の舞台は新聞のラジオ・テレビ欄を配信する会社。(そんな会社があるとは知らなかった)20代半ばの若い社員&契約社員が多く、広田も、その周りの社員も安い給料でがんばって働いている。
これといった事件はない。恋愛も、ない。ただ淡々と過ぎていく日常。だけれども、何気ない会話の端々や、広田の視点を通した人間模様に、作者の深い人間洞察力が伺える。
広田の描き方も、もどかしいんだけれど何か深い背景を持った男だと思わせられる。
「悪貨は良貨を駆逐する」などの箴言を書いたポストイットをパソコンに20枚ほど貼り付ける変な癖もおもしろい。私も、格言好きですよ。
もやもやっとした気持ちを言葉にすること、それに腐心する作者の真摯な姿勢がうかがえた。
もうひとつの『ああ、懐かしの肌色クレヨン』ひとつの失恋物語。不器用すぎる主人公が悲しい。片思いで撃沈する…よくある風景。私もそんなことがあった。若いときはどんどん傷つけ!がんばれ!と応援したくなった。